杉本啓子「人形の呼ぶ声」(1986年11月14日第一刷発行)

 収録作品

・「人形の呼ぶ声」(1973年「週刊少女フレンド」9月20日号)
「林茉莉は、友人の涼子の田舎で夏を過ごすこととなる。
 涼子の家には土蔵があり、茉莉が中を見せてもらうと、水に濡れた箱が目に付く。
 箱の中には、きれいな日本人形が収められていた。
 この人形は、涼子が産まれる前に死んだ姉のかたみであった。
 姉は、顔に醜いアザがあったため、人嫌いで、子供だけでなく大人からも評判が悪かったという。
 彼女の友達はこの人形だけで、近くに池に人形を抱いて、よく遊びに行っていたが、溺死してしまったのであった。
 茉莉は妙にこの人形に惹かれて、滞在する間、この人形を貸してくれるよう頼む。
 涼子は承知するものの、どこかこの人形を薄気味悪く思う。
 その夜、両親がいないので、涼子は、いとこの和彦に泊まっていってもらう。
 彼は東京K大の文学部史学科で、民俗学に造詣が深かった。
 夜中、涼子が目覚めると、居間の方から誰かの足音がする。
 茉莉を起こして、息を潜めていると、彼女達のいる寝室の前で足音が止まる。
 すると、いきなり人形が現れ、茉莉の首を絞める。
 和彦は、人形が茉莉の命を狙っていることを知り、即席でお札を作るのだが…」

・「玄磯滝の伝説」(1972年「週刊少女フレンド」10月3日号)
「邦彦とミキは、民俗学研究の合宿に向かう途中、崖崩れにより電車が不通になってしまう。
 玄磯(くろいそ)という駅で足止めを食い、二人が途方に暮れていたところ、美しい婦人が家に泊まるよう勧めてくる。
 二人は屋敷へ案内されるが、彼らと同年齢だと言う、この家の主人は姿を現さない。
 更に、邦彦の持っていた鈴がひとりでに鳴り出す。
 この鈴は、先祖代々、長男が持つことになっており、彼の祖先の出身地はこの玄磯であった。
 その夜、邦彦は「玄磯わらべ唄」を耳にして、表へ出る。
 そこには、彼と同じ鈴を手首に付けた、美しい娘がいた。
 実は、娘と彼とは八百年も昔に愛し合った仲であり、彼の転生後、ようやく再会することができたのである。
 しかし、ミキは娘の正体を知り、彼を引き離そうとするのだが…」

・「まぼろしの夏」(1973「週刊少女フレンド」6月5日〜6月12日号)
「湖のそばにあるホテル。
 麻衣は、おばの喜多川とそのホテルに滞在する。
 おばは遠縁にもかかわらず、両親を亡くした麻衣を引き取ってくれたが、その視線は彼女にではなく、何かを待っているかのように宙に向けられていた。
 脱獄囚がその付近に逃げ込んだと知らされた時、麻衣はその理由を知る。
 安藤さとしという名の脱獄囚は、十年前、宝石目当てでおばの一家を襲い、夫と三歳の次男を殺害していた。
 安達は五歳の長男、進を人質にして、裏山に逃げ込んだまま、姿を消す。
 おばが毎年、このホテルを訪ねていたのは、行方不明となった進の消息を知るためであった。
 その事実を知った麻衣が物思いに耽りながら、散歩していると、当の安達と遭遇し、人質となる。
 安達は裏山の洞窟に逃げ込むが、そこには彼しか知らない抜け道があり、奥は鍾乳洞となっていた。
 麻衣は鍾乳洞で崖から足を踏み外し、地下水路に転落。
 だが、気が付くと、何ものかに助けられており、暗闇をさまよっているうちに、一人の少年と出会う。
 彼こそは、おばの息子の進で、恐竜と一緒に暮らしていた。
 麻衣は彼とどうにか意思疎通をして、地下からの脱出方法を探るのだが…」

・「異形の群れ」(1978年「増刊少女フレンド」9月号)
「第1話 麦わら帽子」
 湖のほとりで、絵を描いている学生の娘。
 背後から一人の男が現れ、彼女の絵を褒める。
 男は、湖面に浮かぶ麦わら帽子を指さし、それがこちらに近付いてくると言うのだが…。
「第2話 地下の足音」
 少年が母親に「この家のどこかを歩きまわっている足音」を訴える。
 巨大な置時計が止まった時、地下室から足音が聞こえてくるのだが…。
「第3話 おんぶ」
 霧深い中、娘は弟をおんぶして帰る。
 彼女は弟に「無縁仏」について話すのだが…。
「第4話 キャッチボール」
 夜、部屋の中で、娘は、誰ともわからぬ相手とキャッチボールをする。
 投げては受け止め、投げては受け止め、それは果てがなく…。
「第5話 冷蔵庫」
 かくれんぼの時に、廃棄された冷蔵庫に閉じ込められた男児。
 助けを求める彼の耳に、「助かりたいの」という声が聞こえる。
 その声は、じゃんけんで勝てたら助けてあげるというのだが…。
「第6話 いないいない ばあ」
 一人お留守番をする男児。
 「いないいない」という声が聞こえ、「ばあ」と窓の向こうで少女が顔を出す。
 窓の向こうに潜むものとは…?」

・「かくれんぼ」(1977年「週刊少女フレンド」)
「加絵は、両親に捨てられ、田舎の祖母のもとに預けられた少女。
 彼女は、子供達のまとめ役である、十六才の千夜(ちや)を慕う。
 だが、千夜は、両親から縁談を押し付けられたことに絶望し、子供達とかくれんぼをしている最中、失踪する。
 嘘つきで有名な少年が、千夜は「足の指が三本で体じゅうにみどりのうろこがぬらぬらひかってて」「なげえしっぽがついて」いるものに連れて行かれたと言うが、誰も信じない。
 花火開会の日、千夜は、池で溺死体で発見され、加絵は、彼女の死体にショックを受ける。
 どうしても千夜の死を信じられずに、加絵は、嘘つき少年に、千夜は化け物に連れて行かれたんだと確認を取ろうとするのだが…」

 「人形の呼ぶ声」は「人形もの」では有名な作品です。
 ストーリーは割合、あっさりしてますが、何食わぬ顔して大胆な実力行使に訴える日本人形はかなりのインパクト。
 また、1977年代後半に描かれた「異形の群れ」「かくれんぼ」は、幻想的かつ繊細な仕上がりで、しみじみと不気味です。
 こういう不気味さと美しさを調和させた作品って、ありそうでなかなかないような気がしております。

2020年9月25・26日 ページ作成・執筆

講談社・リストに戻る

メインページに戻る