汐見朝子「ダークゾーン」(1984年9月14日第1刷発行)

 収録作品

・「ダークゾーン」
「和泉五月(通称、メイ)と世津子は仲良し姉妹。
 姉妹とは言え、二人は血がつながっておらず、小さい頃、両親を亡くした世津子は和泉家に引き取られたのであった。
 明るく美人で、皆の人気者のメイと対照的に、世津子は陰気で近寄りがたい雰囲気を漂わせる。
 二人が高校生の頃、メイはテレビ番組「明日のスター」の予選に出ることとなる。
 メイは歌が非常にうまく、世津子は作詞・作曲の才能があった。
 メイを自作自演のシンガーソングライターということにしてオーディションに出すと、彼女はとんとん拍子に勝ち進んでいく。
 遂には、大手プロダクションからデビューを果たし、スター街道を歩み始める。
 一方の世津子はメイのゴーストライターとして楽曲を提供し、メイの成功を自分のことのように思う。  だが、華やかな脚光を浴びるメイに対し、世津子は暗い嫉妬を徐々に燃やすようになる。
 更に、有名なシンガーソングライターの加島亮とメイが恋に落ちた時、世津子はメイの影から脱け出す決意をするが…」

・「愛のビンづめ」
「湘南地方、S海岸にある古びた別荘。
 オバケ屋敷と言われる別荘には、別荘番の老人と、その孫娘の麻記の二人が住んでいた。
 麻記は、右顔半分に醜いアザと、オバケ屋敷のせいで、町でも学校でも孤立する。
 そんな彼女の慰めは、きれいなものを集めること。
 彼女は海岸で美しい貝殻を拾い集めては瓶に詰め、部屋にはそのような瓶詰めがたくさん飾られていた。
 ある日、彼女は海岸で美しい青年と出会う。
 彼は里見裕といい、転地療養のために、海岸の別荘に越してきたのであった
 麻記は裕に恋をして、彼に宝物の瓶詰めを一つプレゼントする。
 そして、意を決し、彼を自分の部屋に案内するのだが…」

・「遠い海鳴り」
「売れないシンガーソングライター、三上海(注1)。
 彼女には複雑な過去があった。
 彼女は幼い頃、歌手に憧れた両親が東京で心中したため、津軽の祖母のもとに預けられる。
 両親の死にも関わらず、海は、祖母の深い愛に包まれ、明るい娘に育ち、高校の頃には、音楽に出会い、恋人もできる。
 だが、彼女に片想いをする男子生徒に乱暴されたことをきっかけに、恋人との仲は破局し、様々なストレスから祖母は急死。
 彼女は津軽を捨て、音楽で身を立てようと上京するも、三年間、全く芽が出なかった。
 ある日、彼女は、日本最大の芸能プロダクションの副社長、臼井杉子からスカウトを受ける。
 臼井杉子は、海にゴーストライターを付け、怨歌歌手として売り出すことを提案。
 故郷の連中を有名になって見返すために、彼女はその提案を受け、デビュー曲「ふるさと怨み歌」はヒットチャートを上昇する。
 しかし、彼女の前に、盲目のシンガーソングライター、室生亮が現れ、彼女に引き返すよう勧める。
 室生の優しさ、温かさに満ちた歌を耳にして、彼女の心は揺らぐのだが…」

 ベテランらしく、佳作揃いの作品集です。
 怪奇色が強いのは「愛のビンづめ」(残酷描写はキツめ)だけで、「ダークゾーン」は心理サスペンス、「遠い海鳴り」はミステリーでもサスペンスでもなく、人間ドラマです。
 個人的には、「遠い海鳴り」が心に残りました。繊細さなどすっかり擦り切れてしまったオヤジですが、いい漫画だと思います。

・注1
 もしかして、情念のフォーク・シンガー、三上寛氏のことが作者の念頭にあったのかも。(あくまで推測です)
 誰を〜怨めばいいのでございましょうか〜!(名曲!!)

・備考
 カバーに痛み。

2018年12月6日 ページ作成・執筆

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