犬木加奈子「夢少女ネムリ@」(1999年6月9日第1刷発行)

 夢野ネムリは平凡な女子高生。
 だが、彼女は、眠っている最中、他人の夢を渡り歩くドリームウォーカーであった。
 此度、彼女が訪れる夢は…。

・「第1話 人形の館」
 窓際に追いやられた中年サラリーマン、戸井田。
 仕事は一切与えられず、日がな一日、机の引き出しの整理ばかり。
 ある夜、彼は、夢の中で、会社の机の引き出しの中に美しい少女を見出し、彼女をそこに幽閉する。
 彼女が不自由しないよう、彼が会社の机の引き出しにおもちゃの家具や服を据えると、夢の中でも同様になる。
 彼はこの夢をただ見続けていたいと望むのだが、徐々に少女を見ているだけでは気が済まなくなり…。

・「第2話 美貌の教師」
 イケメンの生物教師、霧崎。
 女子生徒は彼の熱狂的なファンで、カエルの解剖の最中でもうっとり。
 だが、彼にとって、真の美とは、皮下の筋肉や内臓であった。
 彼は、夢の中に出てきたネムリを解剖しようと目論むのだが…。

・「第3話 逃げる男」
 暴漢に頭を殴られ、記憶喪失に陥った瀬丸翔。
 病室で甲斐甲斐しく世話をしてくれる恋人の久留美のことも全く思い出せない。
 彼は何者かに追いかけられ、逃げ続けるという夢をいつも見る。
 同じ夢を見ていた時、夢の中に見知らぬ少女が現れる。
 少女は翔のことを「お兄ちゃん」と呼び、彼のことを知っているらしい。
 その少女は彼に逃げないよう訴え続ける。
 彼が少女のことを思い出した時、彼を追いかけている者の正体が明らかになる…。

・「第4話 半熟卵」
 臨月間近な妻を持つサラリーマン。
 妻は赤ん坊を心待ちにしているが、彼は父親になることが億劫で仕方ない。
 そんな彼は、夢の中で卵を産む。
 卵の中から孵ったのは、小さな少女であった。
 いつまでも子供でいたい彼が少女に投影する「夢」とは…。

・「第5話 スィート・ホーム」
 やる気というものが全く感じられない独身サラリーマン、五木。(注1)
 アパートの部屋はゴミで溢れ、不衛生極まりない。
 そんな彼は夢の中で美しい女性と出会う。
 彼女と逢瀬を重ねるが、彼の見る夢は、ゴミで溢れかえり、不快な臭いが付きまとっていた。
 その夢にネムリが迷い込む…。

・「第6話 通勤電車」
 自他ともに真面目と認める小沢里課長。
 だが、彼の唯一のストレス解消方法は、通勤ラッシュにかこつけて、女性に痴漢を働くことであった。
 ネムリに目を付けた彼は、現実だけでなく、夢の中でも彼女の身体を触りまくる。
 小沢里のセクハラに耐えかね、ネムリは遂に逆襲に出る…。

・「第7話 家付きの男」
 嫁さん欲しさからマイホームを手に入れた家持建造。
 しかし、家があるからといって嫁に来るような女性はおらず、コンプレックスまみれの彼はひどく落胆する。
 そんな彼が見た、マイホームの夢。
 すると、その夢の中の家にネムリが訪ねてくる。
 だが、中は家具一つなくがらんどう。
 彼はネムリを家に引き留めようと、あの手この手を使うのだが…。

・「第8話 初恋」
 余命いくばくもないホームレスの老人。
 彼は公園のベンチで夢を見る。
 彼が最も楽しい時期を過ごした、高等科の学校。
 戦争のために、年取ることなく、少年少女のままの旧友達。
 そして、彼は初恋の少女と再会する。
 老人は自分だけ老いた姿であることに戸惑っていると、その少女が彼に話しかけてくる。
 その少女の名は…。

 「ひるね姫」(注2)という映画を観て、この作品を思い出し、今回執筆してみました。
 まあ、きっかけはあったものの、この「夢少女ネムリ」という作品は、非常に優れた作品でありまして、近々書いてみたいと思っていたものです。
 この作品、基本は「プレゼント」や「かなえられた願い」といった「一つのテーマを様々なバリエーションで展開する」タイプですが、「ドリームウォーカー」という独創的なアイデアが素晴らしく、夢と現実の境を往来する、幻想的な雰囲気が味わい深いです。
 また、過去の名作に劣らず、バリエーションも豊富で流石の一言。
 あと、この頃の絵柄は艶っぽい上に、青年誌に掲載されたためか、お色気もばっちり盛り込まれ、個人的に、大好きです。(「エロ」まで行かないところがいいんです。)
 ただし、一つだけ残念なことがあり、手放しで称賛はできません。
 この作品は未完らしいのです。(詳細は不明です。単行本未収録作品とかあるのでしょうか?)
 夢野ネムリは「ある人の夢の中に入りたいと願っている」(p95)ためにドリームウォーカーになったという設定ですが、その「ある人」は明らかになりません。(病室で植物人間状態で寝ている人物の描写があることはありますが…。)
 そこが非常に惜しいと思うのですが、それは横に置いといても、一読の価値は十二分にあると思います。
 単行本はやや入手困難ですが、今現在では、電子書籍で簡単に読めるようです。

・注1
 本名は「五木富里夫(富には〃付)」。
 でも、小林よしのり「おぼっちゃまくん」での、びんぼっちゃまのゴキブリの友人「五木(ごき)ひろし」の方がネーミング・センスは上だと思うな…多分…。

・注2
 大コケしたアニメ映画「ひるね姫」ですが、私、二回観に行きました。
 ただ、初見の時は、さっぱりストーリーが理解できませんでした。
 あんまり気になったので、映画館から帰宅後、ネットにて解説サイトをチェックして、また、ジュニア向けの角川つばさ文庫の「ひるね姫」(これしか書店になかった…)を読みました。
 文庫の方では映画で描かれなかったこともちゃんと説明しており、その知識を念頭に置いて、再見したら、ようやく映画をまあまあ楽しむことができました。
 でも、やはり、問題あり過ぎだなぁ〜。(私、アニメは大して詳しくないのですが、それでも、そう思います。)
 とにもかくにも、ストーリーが「説明不足」、この一点に尽きます。
 制作者側としては、やりたいことがたくさんあったのでしょうが、それだけで観客が満足するかと言えば、そんなものではないでしょう。
 個人的には、そういう考えの「甘さ」があり、それが映画としての詰めの「甘さ」につながったのではないか、と考えてます。
 また、夢の世界である「ハートランド王国」のファンタジー設定が私の肌には合いませんでした。どうも練り不足というか、安直な印象があります。
 と、あれこれ書きましたが、私、この映画、好きです。
 世間様にはヒロインが不人気なようですが、私には充分、魅力的でありました。溌剌としていていいと思います。
 また、現実と夢の中のファンタジー世界がリンクして、ヒロインの家族の秘密が明らかになるとう設定も悪くはないんじゃないでしょうか。
 まあ、映画が失敗したことはもうどうしようもありませんので、DVDで発売する時には、是非とも、再編集や追加を加えて、完全版を出してもらえれば幸いです。
 あっ、そうそう、、ヒロイン役の高畑充希さんの歌う「デイドリーム・ビリーバー」は名曲です!!

2017年4月27・28日 ページ作成・執筆

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