井出知香恵「魔境のイグドラシル」(1987年8月13日第一刷発行)

「高校二年生の上野礼亜(れいあ)は、夜毎、奇妙な夢を見る。
 夢の中で、彼女は猛烈な喉の渇きに悩まされる。
 誰かわからぬ声の案内する方向には血の池があり、その赤い水はこの世のものとは思えない味。
 しかし、その水を飲むと、彼女の身体はどろどろに溶けて流れてしまうのであった。
 その夢を見る度に、礼亜は、血が飲みたいという欲求が高じていき、不安で仕方がない。
 もう一つ、彼女には心配事があった。
 唯一の肉親であり、世界的に有名な探検家である兄、直樹が、半年前、チベット山中で消息を絶ったのである。
 チベットに出かける前、兄は礼亜の病気を治すには「イグドラシルの影」を滅ぼすしかないと話しており、彼女は兄の帰還を待ちわびる。
 そんな彼女の心休まる時は、友人達と過ごす一時であった。
 博学な江守順一、周囲を明るくする滝村陽子、そして、チベット近辺にある王国からの留学生、イミ―ル・ハーン。
 礼亜はイミ―ル・ハーンに想いを寄せるが、彼の正体は、ヒマラヤの奥にある秘密の国、フレイランドからの使者であった。
 フレイランドの支配者、フレイの命により、礼亜は、純一、陽子と共に、フレイランドへ連れ去られる。
 そこで、礼亜は兄と再会するが、彼は死の床にあった。
 兄は彼女に、彼女の出生の秘密について話す。
 兄と礼亜は腹違いで、彼女は、登山家だった父親がフレイランドに迷い込んできた時にこの地の女性との間にできた子供であった。
 そして、彼女に御守を渡して、息絶える。
 その夜、礼亜はフレイにテレパシーで呼ばれ、その神殿を訪れる。
 不老不死の支配者、フレイは若々しい美青年で、礼亜は三日後に彼の後を継ぐ儀式受けることになると告げる。
 彼女は拒否するが、フレイの背後には圧倒的なパワーを持つ存在が控えていた。
 「イグドラシルの影」の正体とは…?」

 講談社が1980年代後半に出版した「コミック・ロマン・ミステリー/怪奇ロマン・ミステリー」のシリーズ。
 作品的には玉石混交なのですが、有名作家のいにしえの名作から、マイナーな漫画家の描きおろしまでバリエーション豊かで、見逃すことはできません。
 井出知香恵先生の作品は二冊ほど、ありまして、この「魔境のイグドラシル」は描き下ろし作品のようです。
 知名度は皆無に近いとは思いますが、この作品に私は感銘を受けました。
 何とも、高階良子先生好みの内容です!!
 個人的には、絵柄の艶っぽさは劣ると思いますが、ストーリーはなかなか面白いし、ラストは、巨大な怪物が大暴れして、町を壊滅させるという大盤振舞。
 何気なく読み出したら、予想以上に楽しめて、とっても得をした気分です。
 ただ、描き下ろしのため、全体的に描きとばした感じで、もっと丁寧に描かれていたなら…と悔やまれます。

2018年2月1日 ページ作成・執筆

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