犬木加奈子「おばあちゃんの怖い話」(1995年8月9日第1刷発行)

 収録作品

・「おばあちゃんの怖い話」(平成6年「月刊少女フレンド」4月号増刊「サスペンス&ホラー特集号」)
「ユスリは小さい頃からおばあちゃんっ子。
 両親が共働きで、ユスリの世話はおばあちゃんの役目。
 また、寝つきの悪いユスリのために、毎夜、子守唄がわりのお話をしてくれた。
 しかし、ユスリが長じるにつれ、おばあちゃんの話には興味をそそられなくなり、怖い話をするようねだる。
 おばあちゃんは怖い話が苦手であったが、孫娘の希望とあって、頭を捻るものの、どれも古臭く、陳腐なものばかり。
 それでも、ユスリの興味を惹こうと、おばあちゃんはあれこれと怖い話を考えるが、二人の間にできた溝は広がっていく。
 ユスリが中学生(高校生?)の頃、おばあちゃんは世を去る。
 だが、ユスリはおばあちゃんから心がすっかり離れ、最期のことなどろくに気に留めていなかった。
 そんなユスリのもとに、おばあちゃんが怖い話をしに戻ってくる…」
 楳図かずお先生の「爺様の亡霊が孫の首を引きちぎって、袋に入れる話」(タイトル忘れ)と同じく、「ボケ老人」の亡霊ほど、厄介なものはないと思い知らされる作品です。
 どんな最期であれ、光に包まれ、満面の笑みであの世に旅立ってくれれば、こちらとしても肩の荷を下ろすことができますが、生前と同じく、あちこち徘徊したり、冷蔵庫を食い散らかされたりされたら、たまったものではありません。(これ以上、死にようがありませんしね。)
 まあ、「肉体」を脱ぎ捨てた「魂」には病気も苦しみもないようなので、痴呆症もないのでありましょう。幸いにして、「ボケ老人」の幽霊の話を聞きません。

・「老人の日」(平成6年「月刊少女フレンド」9月号増刊「サスペンス&ホラー特集号」)
「若い連中からは、汚くて、みすぼらしいと蔑まれ、粗末に扱われる老人達。
 老人達は団結して、魂を交換させる薬品を開発し、敬老の日の一か月前、遂に計画を実行に移す。
 その計画とは、今まで散々老人をバカにしてきた若者達と身体を入れ替えようというものであった。
 誰にも気付かれず、計画は進行。
 そして、薬の効き目が切れる最後の日、敬老の日を迎える…」
 H・G・ウェルズ「故エルヴシャム氏の話」を「モンスター・パニック・ホラー」にしたような作品と形容すればいいのでしょうか。
 老人版「ボディ・スナッチャー」、かなり面白いです。

・「よい子の街」(平成7年「月刊少女フレンド」3月号増刊「サスペンス&ホラー特集号」)
「大人達の狭間で、身を縮こまらせて生きていく子供達。
 何かというと、子供みたいに、と叱られて、子供のくせに、と怒られる。
 そんな窮屈極まりない状況の中、子供達はささやかな楽しみと夢想だけを息抜きに生きていく。
 南野よい子もそんな子供の一人であった。
 ある日、父親が拾ったチラシがきっかけで、「子供の夢がかなう、たのしい夢の街」に引っ越すことになる。
 街はメルヘンに出てくるようなファンタステックな外観で、学校でも勉強そっちのけで遊んでばかり。
 よい子は自由な楽しい日々を過ごすが、子供だけでなく大人も子供のように「自由」(注1)を楽しむことに、次第に違和感を覚えるようになる。
 そして、皆が皆、各々の「自由」を追い求めて、エスカレートした結果…」
 読後、どんよりとする作品であります。
 もっとどんよりしたい方は、諸星大二郎先生の「子供の王国」をお読みください。
 更に、映画「ザ・チャイルド」を観て、「どんより」の三倍満。

・注1
 「自由」というものを日常レベルで考察した小品に、ガードナー「通行規則について」というものがあります。
 「たいした問題じゃないが ―イギリス・コラム傑作選―」(岩波文庫/2009年4月16日第1刷発行)という本に収録されておりまして、活字を見るだけで眠くなる岩波文庫にしては珍しく、なかなか面白いです。
 興味のある人はどうぞ。

2016年11月17日 ページ作成・執筆

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