わたなべ雅子「怪奇ロマン傑作選」(1974年4月15日第1刷・1984年9月14日第20刷発行)

 収録作品

・「水曜日の森」
「ハブスブルグ伯爵の娘、ロレーヌは、美青年、ハワードとの結婚を控えていた。
 だが、亡き母の墓参りに行った際、墓石の横に父親の首なし死体を発見する。
 更に、父親が破産していたことが明らかになり、わずかな財産を除いて、ロレーヌは家屋敷等、全てを失う。
 そんなロレーヌをハワードは慰め、二人は結婚、一年後、クララという女児に恵まれる。
 だが、結婚後、ハワードの態度は豹変、毎晩外で飲み歩き、家庭など顧みようとしない。
 そればかりか、ロレーヌの貯金を勝手に引き出し、最も信頼していた乳母も首にする。
 病気がちになったロレーヌなど歯牙にもかけず、ハワードは財産家の娘、シャロンと仲を深める。
 シャロンと結婚するため、ハワードは彼女に毒を飲まし、瀕死の彼女に全てを明かす。
 彼女の父親を殺したのも、また、財産を横領したのもハワードの仕業であった。
 ロレーヌはハワードを恨みつつ、こと切れ、その死体は赤ん坊もろとも生き埋めにされる。
 これで晴れて、ハワードはシャロンと結ばれるが、ロレーヌ、その父親、クララの霊が彼を地獄に引きずりこむ…」
 粗筋を読んだら、一目瞭然ですが、まんま「四谷怪談」です。
 純日本的な怪談をオーストリア(?)の伯爵家を舞台に移植しているのですが、そこで「わたなべまさこ・マジック」が発動、あの独特の絵で有無を言わせず、作品に仕上げてます。
 また、恐怖描写の容赦がないところが素晴らしい。(注1)
 ラスト、父親、その娘と孫娘の三人で、悪党を追い詰めるシーンは、ベテランの貫録をガンガン見せつけております。
 結末は勿論、悪党の破滅ですが、最後まで彼を哀れに思い続ける亡霊達の描写が余韻を残します。

・「白いカメレオン」
「サブリナは婚約者のウォルトを共に、ゼーゼマン邸に帰ってくる。
 二人は一週間後、この屋敷で式を挙げる予定であった。
 ここで初めて、ウォルトはサブリナから双子の妹、ダフネの話を聞かされる。
 ダフネは顔の右半分をケロイドで覆われ、そのために、屋敷に引きこもる不幸な娘であった。
 だが、実は、ダフネもウォルトを愛しており、美しくなりたいと切望する。
 そんなダフネの前に、白いカメレオンが現れる。
 カメレオンは彼女に自分の血を飲み、サブリナを抱けば、願いが叶うと告げる。
 藁にもすがる思いで、ダフネはその血を飲み、サブリナを抱くと、サブリナはダフネに吸収され、消えてしまう。
 カメレオンの言う通り、ダフネの顔からはケロイドが消えるが、しばらく経つと、突如、顔が痛みだす。
 鏡を見ると、ケロイドが以前よりもひどくなっており、ダフネは慌ててカメレオンの血を飲み、今度は女中を餌食にする。
 そして、ダフネはウォルトの愛を得るために、幾人もの女性を犠牲にしていくのだが…」

・「13本のカメリア」(「別冊少女フレンド」昭和49年2月号掲載)
「名門ロッシュフォール家の跡取り、シャルル。
 彼は、海辺の別荘で、家庭教師から、私立中学への受験勉強を強要されていた。
 勉強漬けの日々の中で、唯一の慰めは、毎日、海産物を届きに来る母娘の娘の方を目にすることであった。
 家庭教師が留守にした際、シャルルは爺やに勧められて、外に遊びに出る。
 その時、椿の木の下で、彼はその娘、カメリアと会う。
 二人はすぐに意気投合し、楽しく遊ぶ。
 シャルルは度々別荘を脱け出しては、カメリアと過ごすようになり、ある日、海辺の洞窟で二人だけの結婚式を挙げる。
 しかし、家庭教師の告げ口により、シャルルは急遽パリに戻ることとなる。
 カメリアは雨の中、彼の乗った列車を追いかけるが、残念ながら、間に合わず、線路上で涙に暮れる。
 一方、パリに戻ったシャルルは、猛勉強の末、試験に合格。
 試験勉強の傍ら、彼はカメリアに手紙を書いたが、返事はなく、彼女のことは日々に疎くなっていた。
 合格のお祝いパーティの時、会場を脱け出したシャルルは、外の暗がりの中に白い影を見る。
 それはカメリアであり、結婚式の際の約束通り、合格のお祝いに椿の花を持ってきたのであった。
 シャルルはカメリアとの再会を喜び、部屋に招いて、一晩中語り明かすのだが…」

・注1
 ちなみに、最もインパクトがあるのは、冒頭の「首なし死体の首吊り」描写。
 こんなの可能なのか?とよくよく見たら、脇にも紐が通してありました。
 でも、何故、こんな手の込んだことをしたのか? そして、わざわざ首を切断して、隠したのか?
 作品中に答えはありませんでした。
 個人的には、「単なる思い付きだけど、インパクトがあるから採用した」のだと考えております。

2017年7月28日 ページ作成・執筆

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