高階良子「地獄でメスがひかる」(1976年9月5日第1刷・1981年5月25日第21刷発行)

 収録作品

・「地獄でメスがひかる」(「なかよし」昭和47年7月〜10月号掲載)
「医学の天才と言われながらも、その非人道的な医療行為により医学界より追放された、巌俊明。
 彼は、アル中のおじの病院に潜り込み、病院の地下室である実験を行う。
 その実験とは、死人の身体を継ぎ合わせてつくった、女性の死体を蘇生させるという、生命の神秘に挑戦するものであった。
 最後の段階として、巌が生きた人間の脳を探していた時、彼は海辺で入水しようとする娘を発見する。
 弥生ひろみという名の娘は、せむしで、非常に醜い容貌であった。
 また、父親が愛人に産ませた子供として、家族から忌み嫌われ、人生に絶望し、自殺を図ったのである。
 巌は彼女を助け、優しく接する。
 人の温かさに触れ、、ひろみは感涙にむせぶが、彼の真の目的を彼女は知る由もない。
 ある夜、死体に、ひろみの脳を移植する手術が行われる。
 手術に参加したのは、巌医師、彼の思想に共鳴する後輩、宮崎栄、巌医師に想いを寄せる看護婦、由起の三人。
 手術は無事に成功し、ひろみは妖精のような美少女に生まれ変わる。
 術後の経過は順調であったが、自分が単なるモルモットであることをひろみが知った時から、歯車が狂い始める。
 巌医師、宮崎栄、由起の思惑も絡み合い、事態は思わぬ方向に進んでいく…」

・「鬼あざみ」(昭和51年「別冊なかよし第5号」掲載)
「大学生の西川一也と高校生の城亜加里は婚約者同士。
 亜加里は一也と追って、上京し、彼のボロ・アパートで共同生活を送ることになる。
 ふとしたきっかけから、彼らは沖田あざみという娘と知り合う。
 暗い目付をした、あざみは、亜加里の転入した聖徳女子学園を牛耳るスケバン・グループのリーダーであった。
 一也と亜加里のカップルに感じるところがあったのか、あざみは彼らのアパートの隣部屋に越してくる。
 二人と付き合ううちに、あざみは明るさを取り戻し、スケバン・グループと袂を分かつ。
 だが、楽しい日々が急に終わりを告げた時、一也と亜加里はあざみについて無知だったことに気付く。
 あざみの深い孤独を知った二人は、あざみのもとに向かうのだが…」

 高階良子先生の作品は名作が目白押しですが、その中でも特に人気の高い(ような気のする)「地獄でメスがひかる」。
 「美醜」を核に据えた「フランケンシュタインもの」です。
 それに、マッド・サイエンティストの巌俊明の微妙な心境の揺れを精緻に描き、恋愛ものとしても読ませます。
 でも、基本は怪奇もので、「過去の醜い自分」の影を振り払えず、ヒロインが徐々に精神崩壊を起こす過程の描写は精緻かつ鬼気迫るもの。
 個人的には、「美しい身体に生まれ変わったヒロインが、過去の自分の醜い死体を、メスで切り刻み、焼却炉で処分する描写」で、山ほどバリエーションのある「フランケンシュタインもの」を遥かに飛び越えたように考えてます。
 まあ、約四十年前の作品でありますので、若い読者には古風で刺激が乏しいように感じるかもしれません。
 それを差し引いても、完成度は高く、読んで損はない作品だと私は思います。

2017年7月20日 ページ作成・執筆

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