渡千枝・他「ミステリー傑作選G」(1994年12月12日第1刷発行)

 収録作品

・「幻の9階」(「増刊ミステリーMe」1990年4月号掲載)
「賃貸マンションに引っ越してきた若夫婦の武原良平・裕里。
 部屋は「804号」で、前の住人の妻は八階の廊下から跳び下り自殺をしていた。
 とは言え、部屋で死んだわけでなく、仮住まいを割り切る。
 まあ、住まいに関係なく、二人は幸せいっぱいであったが、徐々に裕里はいろいろなことが気になり始める。
 夜中、部屋に反響する、排水管らしき水音。
 浴槽に浮かぶ、誰のものかわからぬ長い髪の毛。
 そして、徐々に変わっていく良平の態度。
 彼女は、良平が、会社の女性と浮気をしているのではないかという疑惑にとり憑かれていくのだが…」

・はざまもり「依子」(「BE・LOVEパフェ」1990年7月号)
「春奈(24歳)は征平という男性と結婚する。
 征平には依子(14歳)という娘がいた。
 彼の前妻は、十年前、育児ノイローゼにより、依子の手を引いて、車道に出て、事故死していた。
 依子は春奈のことを歓迎している様子であったが、徐々に春奈への憎悪を剥き出しにしていく。
 また、どうやら夜の生活を覗き見しているらしい。
 当初は、父親への独占欲と思われたが…」

・あきもと渚「あの子がいない」(1992年「BE・LOVEミステリー」第15集)
「仕事探し中の娘、たつ子は、アパートの隣部屋の住人が気になって仕方がない。
 隣の住民は竹中という未亡人だったが、しばしば娘の千春を虐待していた。(千春は夫の連れ子で、血はつながっていない。)
 だが、ご近所には決してそれを悟られず、うまく立ち回っている。
 たつ子は千春が不憫で、なるべく声をかけるようにするが、ある日、千春の母親に男ができる。
 たつ子が隣の会話に聞き耳を立てると、男は千春のことを邪魔に思っているらしい。
 その夜、激しい虐待の後、急に静かになると、千春の母親が旅行用のバッグを持って、外出する。
 以来、千春の姿を見なくなる。  施設に入れられた可能性はあるものの、殺されたのではないかとの疑惑は深まっていき…」

・勝野佳子「死を呼ぶヘッドライト」(1991年「BE・LOVEナイトメア」第4集)
「彩香(27歳)は自動車メーカーのショールームのコンパニオン。
 彼女の恋人、実(22歳のプータロー)が突然、車を買ったというので、ドライブに出かけることとなる。
 その車は、ボンネットに金色のイーグルのペイントがあり、悪趣味なものであった。
 途中、実は道に迷い、海に行くはずが、山中に迷い込んでしまう。
 また、彼はオートバイが後ろから走って来るような音を聞き、車に何かをぶつけたような衝撃があったが、実際には、何の事故も起こしていない。
 急に睡魔に襲われた実は悪夢を見ただけでなく、帰り道で迷いに迷って、帰宅したのは深夜になる。
 翌日、彩香は、同僚のコンパニオンから、その車についての話を聞く。
 この車は、金持ちのボンボンが、峠道でセンターラインをはみ出し、オートバイの高校生をはねていた。
 だが、事故はそれだけにとどまらず…」

 この単行本は粒よりですが、どの作品も良い出来です。
 個人的には、あきもと渚先生「あの子がいない」がやるせない読後感を残して、素晴らしいと思います。
 今に通じる内容ではないでしょうか?

2021年12月22日 ページ作成・執筆

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