日野日出志「怪奇のはらわた」(1996年2月13日第1刷発行)

 収録作品

・「蔵六の奇病」(「少年画報」1970年9号)
「昔、さる国に「ねむり沼」と呼ばれる沼があった。
 不思議なことに、その沼には死期の迫った動物達が集まってきて、村人達は祟りがあると決して近づくことがなかった。
 ねむり沼の近くにある村に、蔵六という農夫が住んでいた。
 蔵六は幼い頃より頭が弱く、絵を描いたり、日がな一日、ぼんやりと物思いに耽ったりして過ごしていた。
 彼の願いはただ一つ、あらゆる色を使って、絵を描いてみること。
 しかし、彼の頭では色をどうやって手に入れたらよいかがわからず、願いだけが日増しに強まっていくのであった。
 ある春のこと、彼の顔に七色のできものができる。
 できものは全身に広がり、身体中が異様にむくむが、医者に診せても、手の施しようがない。
 病気が伝染する恐れがあり、兄の太郎と父親は、蔵六をねむり沼にある小屋に住まわすことを決める。
 ただ一人、母親だけは蔵六を心配し、食料を運んでくれた。
 梅雨、蔵六のできものからは七色の膿が出て、下半身が異常に膨らんでくる。
 彼は膿を容器に取り分けて、絵を描くことを思いつく。
 蔵六は夢中になって絵を描き続けるが、季節が過ぎるにつれ…」

・「幻色の孤島」(1971年)
「気が付くと、男は奇妙な孤島にいた。
 彼は記憶をなくしており、原色に彩られた風景の中をさ迷い歩く。
 そのうちに、巨大な門を目にする。
 門の周りには大きな石を積み上げた塀が続いており、その中には仮面を付けた人々が住んでいた。
 男は門の内側に入ろうとするが、門の内側の人々は彼を攻撃する。
 彼は、門近くに隠れ住み、ひそかに門の周辺を観察する。
 だが、入り口は全く見つからず、彼は向こう側の世界への憧れと懐かしさを募らせていく。
 門の向こう側にはどのような世界があるのだろうか…?」

・「はつかねずみ」(「少年画報」1970年15号〜17号)
「郊外に新築のマイホームを構える一家。
 小学生の兄は、ペット・ショップではつかねずみのつがいをもらい、妹と共に世話をする。
 ある時、兄は指を噛まれたことに腹を立て、餌を数日やらなかった。
 すると、オスのはつかねずみはメスと産まれた子供を食い殺して、脱走。
 兄妹は新たに十姉妹を飼い始めるが、はつかねずみが成長して戻ってくる。
 はつかねずみは十姉妹を食い殺し、兄は退治しようとして、右手の人差し指の第一関節を喰いちぎられる。
 兄妹の部屋ははつかねずみに占拠され、一家ははつかねずみを退治しようとするものの、全て失敗。
 しかも、一家は巨大なはつかねずみの監視下に置かれるようになる。
 だが、一家は、はつかねずみに支配されながらも、着々とある計画を練っていた…」

・「水の中」(1970年)
「自動車事故により四肢と片目を失った少年。
 彼は、団地の最上階の部屋で、母親と共に暮らしていた。
 外で遊ぶことはかなわず、彼は、熱帯魚の棲む水槽の中に冒険と夢の世界を見出す。
 父親も少年と同様、自動車事故で亡くなっていたため、母親は朝から夜の遅くまで働き、仕事から帰った後は、愚痴一つこぼさず、少年の世話をする。
 ある時、母親は、もっと楽に稼ぐために、水商売に出ることになる。
 夜の仕事を始めてから、母親はどんどん美しくなっていくが、同時に、彼に対して冷たくなり、暴力を振るうようになる。
 そして、ある夜のこと…」

 日野日出志先生の入門編というべき内容です。
 日野先生と言うと、一般的なイメージは「グロ」とか「畸形」とか「パセドー氏病」といった感じでしょうが、そんな薄っぺらいものではありません。
 見た目は「グロ」一色ですが、その中に「民話」(蔵六の奇病)、「幻想」(幻色の孤島)、「風刺」or「不条理」(はつかねずみ)、「叙情」(水の中)といった多彩な要素が巧みに織り込まれ、凡百の怪奇マンガとは一線を画しております。
 今は一昔前とは違い、日野作品は非常に読みやすくなっておりますので、若い方には興味を持って読んでいただき、また、トラウマや偏見を抱えている方にはもう一度、手に取って、グロいだけの漫画でないことを知っていただきたいと思います。

2023年1月25・27日 ページ作成・執筆
2023年11月30日 加筆訂正

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