大和和紀「影のイゾルデ」(1983年8月12日第1刷・1985年7月24日第5刷発行)

「1880年、メリーランド州のバルティモア。
 身寄りのない娘、サスキア・ディルクスのもとを弁護士が訪れる。
 南北戦争以前、サスキアの母はルイジアナで大農園を構えるヴィルゴール家の娘であったが、オランダ人と北部へ駆け落ちした。
 そのため、サスキアの母の妹、イゾルデ・ド・ヴィルゴールがヴィルゴール家の跡を継ぐものの、十七年前に亡くなり、唯一の直系であるサスキアに屋敷を相続させるべく、イゾルデの夫、ルイ・アドリアンがサスキアの行方を捜していたのである。
 どこにも行く当てもなく、サスキアは母親の故郷を訪れる。
 ヴィルゴールの屋敷で出会ったルイ・アドリアンは、サスキアが考えていた以上に若く、三十代半ばの紳士であった。
 ルイ・アドリアンはサスキアに、、もう一人の館の主として、イゾルデという名の美しい猫も紹介する。
 この猫は亡きイゾルデが生前可愛がっていた猫で、黒人と白人のハーフのヴィダルにしかなつかなかった。
 館を訪れてた最初の夜、サスキアは廊下を浮遊して走る男女の子供の姿を目撃する。
 サスキアの母は常人には見えないものを見る体質であり、それがもとで、夫に捨てられ、遂には精神病院で狂死、そして、その体質はサスキアにも受け継がれていた。
 サスキアは館に対して落ち着かないものを感じるものの、ルイ・アドリアンの心の温かさに触れ、彼に恋心を抱く。
 しかし、サスキアのお披露目のガーデン・パーティのために、サスキアの遠縁、アデル・サラザンとクロード・サラザンの姉弟が屋敷を訪れてから、イゾルデの霊は幾度となく現れるようになる。
 そして、次々と起こる惨劇…サスキアはイゾルデの死の真相に近づいていくのだが…」
(「別冊少女フレンド」昭和57年10月号〜12月号)

 少女マンガの実力者による、隠れた傑作です。(注1)
 中世の古典「トリスタンとイゾルデ」(よく知りませんが…)をベースに、きっちり練り込まれたストーリーと丁寧な絵で、非常に水準が高い作品だと思います。(注2)
 また、降霊会や霊界、過去夢といったオカルト的な描写だけでなく、予想以上にヘビーなトラウマ描写も盛りだくさんです。
 実際、大和和紀先生のマンガで斯様な残酷描写にお目にかかれるなんて、意外や意外、意表をつかれました。
 後ろの袖の〈作者のひとこと〉では「いつかは描きたいと思っていた怪奇モノ」と書いておりますが、やはり当時の空気というものも無視できないと思います。
 1980年代初頭はスプラッター映画がブームに火がつき、「フレンド」誌上では菊川近子先生・成毛厚子先生という泣く子も黙るお二人が大暴れしておりました。
 やはりこういう状況が、大ベテランの大和和紀先生にも影響を与えたのではないか?と勘繰っております。(単にB級ホラーが好きだった可能性もありますが…。)(注3)
 ともあれ、私の稚拙な文章ではこの作品の魅力をろくろく伝えることはできません。
 怪奇マンガ好きなら、是非とも読んでいただきたく思います。(説明不足や無理な設定は気にするな!!)
 あと、他にも大和和紀先生の描かれた怪奇マンガがあれば、読んでみたいものであります。

・注1
 私、大和和紀先生のマンガ、有名な作品がたくさんあるにも関わらず、これしか読んでおりません。
 筋肉少女帯の歌にあるように、これでいいのか?…か自問したりもしますが、これでいいのだ!!と開き直ったら、シバかれますか?

・注2
 冒頭には、ウィリアム・ブレイクの詩「虎」が載っていたりします。
 大和和紀先生の、豊富な文学の知識が窺えます。
 ウィリアム・ブレイクは霊界や死後の幽体離脱を描いた銅版画とか描いていたと思いますが、この作品でも参考にしたのでありましょうか?
(ケイブンシャとか秋田書店とかが昔出していた、子供向けの大百科本で、死後どうなるかについて紹介するページでよく取り上げられていた記憶があります。)

・注3
 グロ描写は、成毛厚子先生ちっく…? 他の方の意見も伺いたいところです。

2016年8月22日 ページ作成・執筆

講談社・リストに戻る

メインページに戻る