佐伯かよの「怪談百物語 新耳袋」
(木原浩勝・中山市朗・原作/2014年4月11日第1刷発行)

・「赤い絨毯」
「マキコは三年間、ヨーロッパでピアノ漬けの日々を過ごす。
 しかし、コンクールでの優勝を逃し、彼女はピアノの夢をあきらめる。
 思い出作りのため、憧れのウィーンに発つ前夜、知人の紹介で、友人のバイオリニストとブタペストのホテルに泊まる。
 そのホテルは二百年前の建物をそのまま使っていた。
 夜、マキコはトイレに行く。
 トイレとシャワーは廊下の突き当りにあるが、先程とはどうも雰囲気が違う。
 妙に騒々しく、廊下の赤い絨毯に違和感を覚える。
 しかも、部屋のドアが開いていて、むつみ合う男女の姿が目に入る。
 彼女がトイレにとび込むと、そこには古い衣装を着た女性が先客にいた。
 彼女の顔は病気で爛れていて…」

・「闇に棲む音」
「仕事熱心な新聞配達の青年。
 朝の四時頃、彼はあるマンションの五階の部屋に新聞を届ける。
 階段から足音が聞こえてきたので、同業者と思い挨拶するが、誰もいない。
 にも関わらず、足音だけが階段を昇ってきて、新聞を届けた部屋に向かうと、新聞が内側に引き込まれる。
 彼はその部屋から冷気を感じ、その場から慌てて逃げ去る。
 学校からの帰り、彼はそのマンションの前に警察車両が幾つも停まっているのを目にする。
 朝の部屋で一家心中があり、時刻は彼が新聞を届けた頃であった。
 彼が出会ったものの正体とは…?」

・「舞ちゃんの声」
「ビデオレンタル店の店長の男性、哲朗。
 彼は幼い娘の舞を病気で亡くす。
 十日ほど経った時、舞の声が毎夜、聞こえるようになる。
 空耳かとも思うが、母方の祖母が墓に赤い髪飾りを供えたことが事実とわかり、声の主は確かに舞であった。
 四十九日が過ぎ、彼には舞の声は聞こえなくなるが…」

・「ある夏の日の」
「弘正の家は母子家庭。
 父親は彼が小さい時に事故で亡くなり、母親が女手一つで彼を育ててくれた。
 お盆、母子は買い物に出た際、母親は八百屋で黄色いスイカを買う。
 黄色いスイカは亡くなった父親の大好物で、仏壇に供えるためであった。
 弘正は母親の代わりにスイカを持って歩く。
 彼がスイカを見つめながら歩いていると、見たことのある足が向こうから近づいて来て…」

・「さびしそうな犬」
「ある男性は河原で一匹の犬と出会う。
 その犬は一見普通の犬のようだったが、身体の所々が腐って崩れ、透けていた。
 犬の幽霊が視えているのは彼以外に誰もおらず、彼は犬を家に連れて帰る。
 餌もいらず、臭わないと喜んでいたのも束の間、犬は一晩中鳴き続け、あやさねばならず、眠れない。
 毎夜同じことが続き、ある夜、三軒隣の夫人から犬の鳴き声について苦情が来る。
 彼は仕方なく夜、河原に行くと、犬は最初に出会った場所で、飼い犬を捜しているような素振りを見せる。
 そして、彼が帰宅しようとすると、犬はついてくるのであった。
 しかし、同居している妹が彼の行動を不審に思い、夜間の外出は取りやめになる。
 仕方なく家で犬をあやし続けるが、ある夜、犬は全く鳴かず…」

・「母影」
「太平洋戦争中、南方の島。
 山田正雄一等兵は攻撃の最中、密林で迷子になる。
 空腹と不安に苛まされながら、彼は故郷の母親と、母親の作るおはぎについて考える。
 すると、小豆を炊く匂いがして、母親が彼を呼ぶ声が聞こえる。
 目の前の人影を彼が追うと…」

・「失った夏」
「山科涼には年の離れた妹、マキがいた。
 マキはいたずら好きの少女で、彼は彼女をとても可愛がっていた。
 夏のある日、彼女は一人でアイスを近所の店に買いに行き、交通事故で亡くなる。
 時は流れ、大学生になった彼はテニス同好会の歓迎会で新入生の戸田美音子と出会う。
 彼女は妹が大きくなったような感じで…」

・「白いまなざし」
「四十年ほど前、土地開発のあおりを受け、墓地が水浸しになる。
 そこで、天気の良い日に親戚総出で墓地の引越しを行う。
 当時は土葬で、墓石も当てにならないため、竹竿を地面に刺し、仏様の居場所を探る。
 どうにかこうにか58体まで掘り当てるも、あと一体足りない。
 見つからないのは真利子の母親の純江の遺体であった。
 純江は真利子を産んですぐに亡くなり、三か月後に同級生の明子が後妻となる。
 明子は真利子を本当の娘のように育ててくれるが、純江の祟りで明子は子供に恵まれないと噂されていた。
 人々が純江の棺桶の場所を寺の大黒さん(住職の奥さん)に捜してもらおうとした時…」

・「赤いコートの女」
「新谷かおる先生の実母の体験談。
 彼女は病院に泊まり込んで、母親の看病をしていた。
 母親は癌で、手の施しようがなく、余命いくばくもない。
 夜中、病室のドアがノックされ、「403号室はどちらでしょうか」と尋ねられる。
 開いたドアの隙間からは真っ赤なコートを着た若い女性が立っていた。
 彼女は女性に先の詰所で聞くよう言うと、女性は礼を言って立ち去る。
 その後すぐ、湯たんぽを換えに、病室を出ると…」

・木原浩勝「あとがきに代えて」

 MFコミックス版に「赤いコートの女」と木原浩勝氏の「あとがきに代えて」を追加収録しております。

2023年4月28・30日 ページ作成・執筆

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