美内すずえ「白い影法師」(1976年3月15日第1刷発行)

 収録作品

・「白い影法師」(1975年「月刊ミミ10月創刊号」所載)
「六月十日、長谷部涼子は、父親の仕事の都合により、私立藤園女子高校へ転入する。
 彼女の転入した2年E組は何故か、窓際の4列目の席がずっと空いたままであった。
 近視の涼子はその席に移ることを希望するが、昼休みを終え、五時限目に入った頃から悪寒に襲われ、耐え切れず席を立ってしまう。
 翌日、涼子はその席にまつわる奇妙な噂を知り、友人から、霊感のある丹波照子(にわ・てるこ)のことを聞く。
 放課後、窓際の四列目の席で、照子と共に、涼子が「こっくりさん」をすると、「こもりさよこ」を名乗る霊が現れる。
 この霊は、五年前の十月六日にこの席で亡くなっており、しきりに寂しがって、友達を求めていた。
 その後の調べで、「小森小夜子」は実在の人物で、死亡日時もこっくりさんの言うとおり。
 更に、当時の同級生から話を聞くと、小森小夜子は病弱、かつ、父親が悪徳業者で、クラスでは孤立していた。
 梅雨時、クラスに転入生が入り、何も知らない転入生は小夜子と仲良くなる。
 しかし、独占欲の強さから、小夜子は転入生から次第に疎まれるようになる。
 友達を失いたくないばかりに、小夜子は転入生に付きまとい、病弱な身体をおして、学校に出てくる。
 そして、運命の十月六日、病院を脱け出して、学校に来た小夜子は、六時限目の途中、窓際の四列目の席で帰らぬ人となったのであった。
 照子は小夜子が地縛霊になっていることを知り、証拠の心霊写真を撮ろうとする。
 だが、家で謎の火災が発生し、写真はおじゃん、照子は骨折の重傷を負う。
 更に、涼子は徐々にクラスメート達と疎遠になり、クラスで孤立するようになる。
 小夜子の霊の仕業を疑い、照子の紹介する霊能力者に会うと、涼子はこのままでは憑り殺されると告げられる。
 助かるために、十月六日、窓際の四列目の席で、涼子は、小夜子の霊と対決することになる…」

・「エリカ 風の中を行く」(1975年「月刊ミミ12月号」所載)
「エリカは天性の口八丁娘(かつ、大阪人)。
 エリカの母は、病弱ながらも、どん底から、小料理屋を繁盛させるまでになった。
 だが、板前の達一にだまされ、大金を持ち逃げされそのショックで急死。
 十八歳のエリカは、小料理屋を借金の担保で失うかどうかの瀬戸際に立たされる。
 そんな時、使用人の老婆から、今は大盛食品の社長となっている男性に人生を狂わされたと言う話を聞かされる。
 二十年前、彼女はその男の赤ん坊をはらむものの、捨てられ、大阪に戻ったとのこと。
 その娘は六歳で死んでいたが、エリカは、その娘の振りをして、東京の大盛食品に乗り込む。
 彼女は社長から借金分、2300万円を巻き上げようと目論むのだが…」

・「エリカ 赤いつむじ風」(1976年「月刊ミミ2月号」所載)
「達一を追って、博多にやって来たエリカ。
 彼女は、原島美奈子・正利の姉弟と知り合いになる。
 両親を早くに亡くした姉弟は、博多人形作りの名人として知られた、祖父の源平に育てられる。
 名人気質のため、作品数は少なかったが、姉弟の将来を心配し、源平は人形店の大店、黒羽堂と契約を結ぶ。
 だが、源平の死後、黒羽堂は契約の盲点を突き、、祖父が晩年に作り上げた百二十体の博多人形をたったの百万円で全て、姉弟から取り上げたのであった。
 この話に怒り心頭のエリカは、東京で知り合った詐欺師の剣持竜二とその子分のサブと共に、黒羽堂から博多人形を奪え返すために、一芝居打つことになる…」

・「ふたりのメロディ(ある不協和音の調和)(注1)」(1975年)
「下町の八百屋の娘で、がさつな男兄弟に囲まれて育った八百本くるみ(好きな楽器、日本太鼓)。
 世界的なピアニストを母に持つ、繊細かつお上品な木麗幸(さいわい)(好きな楽器、バイオリン)。
 どこからどう見ても、対照的な二人が、何故か惹かれ合い、愛を育む。
 だが、このことを知った木麗幸の母親は、息子をオーストリアに連れて行こうとする。
 引き裂かれようとする二人であったが、明神祭りの日…」

 この単行本、怪奇マンガは「白い影法師」だけなのですが、この「白い影法師」、1970年代を代表するオカルト漫画の傑作中の傑作であります。
 人によっては地味に感じるかもしれませんが(私も以前はそうでした)、非常に完成度は高く、ストーリーの上手さに唸らされます。
 好き嫌いを超えて、凄い怪奇漫画というのはなかなかないように思います。
 「白い影法師」は有名な作品ですので、様々なアンソロジーに収録されてますので、読むのは簡単です。
 怪奇マンガに興味ある人は一度読んでみてください。
 残りの三編は、ギャグ・マンガっぽい明快な作品です。
 「エリカ」シリーズは完結しているのでしょうか?

・注1
 ジェイムズ・ジョイスとの親交で知られる、トリエステの作家、イタロ・ズヴェーヴォ「ゼーノの苦悶」に「調子外れは調和への道」という文章があり、妙に感心した記憶があります。(うろ覚えなので、細かい部分が違うかもしれません。)
 この小説、「降霊会」の描写などもあり、なかなか面白かったです。
 新訳が出たら、再読してみたいものです。

2017年11月7日 ページ作成・執筆

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