岸田恋「自殺志願」(1991年9月13日第一刷発行)

 収録作品

・「自殺志願」
「へヴィ・ロックの帝王、ウィザード・クローリー。
 彼の特徴は、オカルト的な要素を取り入れた歌詞であったが、彼の歌う「悪魔」は、現代の狂気や戦争や核への恐怖といったもので、若い世代から圧倒的な支持を集めていた。
 しかし、十五歳の少女が、彼の「自殺志願」を聴いた後、拳銃自殺をしたことから、彼への風当たりが猛烈なものとなる。
 両親からは裁判を起こされ、マスコミやテレビ伝道師からは轟轟たる非難を浴びる。
 だが、当のウィザード・クローリーが最もショックを受けていた。
 実のところ、「自殺志願」という曲は、アルコールやドラッグからとも縁が切れない、情けない自分について歌ったものであり、そんな歌のために、一人の少女を自殺に追いやったことに対して、彼はひどく自責する。
 また、多数の人々から容赦ない非難を浴びるようになった彼は、感情的になると、奇怪なパワーを発揮するようになる。
 彼は自分が「悪魔」に呪われていると考えるようになるのだが…」

・「バットランズ」
「ハード・ロック・バンド、メタル・プライヤー。
 彼らはクラブツアーで、ある田舎町に立ち寄る。
 メンバーの一人、ホーリーは、真面目過ぎる性格のせいで、クラブツアーに疲れ、精神的に追い詰められていた。
 彼がホテルの部屋に一人いた時、黒人の幽霊を視る。
 黒人の幽霊は、その町出身のジャズ・プレイヤーで、生真面目な性格が災いし、麻薬に溺れ、四十年前に亡くなっていた。
 彼はホーリーが来るのを待っていたようなのだが…」

・「悪夢へようこそ」
「怪奇映画の手法を取り入れ、ショッキングでセンセーショナルなステージで人気を博した、ベテランのロック・ミュージシャン、アルファ・クリーター。
 彼は、そういうものから手を洗う前に、集大成的なミュージック・ビデオを制作する。
 その内容とは、スプラッター映画マニアのミュージシャンが、バックバンドのメンバーを次々と殺していくというものであった。
 バックバンドのメンバー、キースは、この仕事の後は独立するつもりで、うんざりしながらも、撮影スタジオに入る。
 だが、そこでは血みどろの殺人ショーが行われていた…」

・「マリー・ルーの恋人」
「ロサンゼルス。ミスカトニック・レコーディング・スタジオ。
 バンド「ネクロノミコン」のニュー・アルバムの録音は難航していた。
 原因は、マリー・ルーの歌で、この歌の録音に入ると、原因不明のトラブルが続出する。
 マリー・ルーは、ニュー・イングランドのセーラムに住んでいた少女で、狂った父親に魔女として生きたまま、焼き殺された。
 以来、町では次々と奇怪なことが起こり、町で彼女のことを話すのはタブーになっているという。
 この話を、メンバーのティムから聞いたところ、ジェイソンが彼女を歌を作ると言い出し、強行する。
 彼は祟りや呪いを鼻で笑っていたが、録音のトラブルだけでなく、バンドのメンバーにも災いが降りかかる。
 遂には、ジェイソンもレコーディング・スタジオでマリー・ルーと対峙することとなる…」

・「岸田恋の恐怖ストーリー」
 岸田恋先生の体験した、奇妙な話。
 手だけが現れ、考えた通りの行動をするって、不気味だけど、面白そう。

 表紙に「ハートビートホラーセレクション」と銘打ってありますが、当時(?)のハード・ロックやへヴィ・メタのバンドを、主人公に据えているようです。
 ただし、私は、ハード・ロックやへヴィ・メタに全くと言っていいほど、興味がありませんので、どのグループをモデルにしているのかは、さっぱりわかりません。
 唯一、「悪夢へようこそ」のアルファ・クリーターは間違いなく「アリス・クーパー」(注1)です。
 作中に、スプラッター映画の要素もありますし(注2)、最後のミュージシャンの独白等、味わい深さは単行本の中で随一だと思います。

・注1
 「アリスは大統領(ELECTED)」が一番好き。
 でも、この歌の発表から約半世紀後には、ドナルド・トランプが大統領になっているので、風刺を現実が追い越していく…。

・注2
 作中に、ギターのヘッドが腹に刺さって死ぬ御人がおりますが、「ギター殺人事件 AC/DC流血ライヴ」のジャケットがもとなんでしょうね。

2020年6月12日 ページ作成・執筆

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