あかつきただし「わたしの影がない」(200円)
「1959年の夏、ハワイ諸島、オアフ島で実際に起こった話。
ワイキキの浜辺で友人達と遊ぶエリカは、自分の影が消えていることに気付く。
エリカは自室に閉じこもり、死神が迎えに来ると一人怯える。
翌日、両親が医者に診せると、影がないだけでなく、身体が透明になっていた。
更に、身体中が黒い斑点に覆われ、エリカは苦しみ悶え出す。
鏡に映った自分の姿にショックを受けたエリカは家をとび出し、海で自殺を図る。
そこへエリカの友人達が駆けつけるが、あら不思議、エリカは普通の身体に戻っていた。
影も以前のようにあり、エリカは元気百倍、腕白さを取り戻す。
その頃、エリカの家に医者から電話があり、エリカの病気は、強烈な放射線による白血病だと告げる。
しかし、エリカは母親が止めるのも聞かず、友人達とヨットで海に出る。
彼女達はジョンストン島へ向かうが、そこでは原爆実験が行われていた。
慌てて、ヨットを引き返すが、突如、エリカの身体は原爆症の発症し始める。
しかも、その海域には嵐が到来しようとしていた…」
まず、評価されるべきは、元祖「実話怪談」であることです。
「実話怪談」の巨匠(?)望月みさお先生(注1)とどちらが早いかはわかりませんが、ほぼ同時代か、こちらの方が若干先駆けていたのではないか?と推測しております。(単に、望月みさお先生に影響されて、描かれた可能性もあります。)
ちなみに、「実話怪談」と申しましても、向こうさんがそう称しているだけで、完全にデタラメです。
第一、女の子達がヨットで行くことができるようなところで、原爆実験するワケね〜だろ!!
と、突っ込みどころは満載ですが、勢いだけはありますので、まあまあ面白かったりします。
それと、もう一つ、特筆すべきは「仮死状態に陥り、意識はあるのに身体が動かず、解剖室に運ばれる」という描写があるところ。
これって、楳図かずお先生の大傑作「うばわれた心臓」(楳図かずお先生「恐怖@」収録)ですよね!!(小学生の頃、意識のあるまま、心臓摘出されるシーンを読んで、うおぉ……トラウマです。)
この作品は「うばわれた心臓」より早くに描かれていると思いますが、この「仮死状態に陥って、誰にも気が付かれない」というのは、「ヒッチコック劇場」の名編「生と死の間」(原作/ルイス・ポロック)が元ネタと思われます。(注2)
主人公が生きていることを知らせる方法も一緒であります。
・注1
貸本時代に、東京漫画出版社で数多くの「実話怪談」を描かれたお方です。
望月あきら先生の実兄ですが、どうも漫画家としての才能は恵まれていなかったらしく、貸本マンガ以降は漫画を確認できておりません。
とは言うものの、私が知らないだけで、名前と絵のタッチを変えて、長い間、活躍したという可能性もなきにしもあらずですので、上記の文章は鵜呑みにされないようご注意ください。
・注2
スティーブン・キングの短編「第四解剖室」(ロバート・ブロック・編「サイコ」(祥伝社文庫/1998年12月20日発行)収録)でも、同じテーマを扱われておりました。
オチが効いていて、なかなか面白かった記憶があります。
あと、昭和三十九年(1959年)十月、「文学者」という雑誌で、吉村昭「少女架刑」という作品が発表されております。
十六歳で死んだ少女の意識(?)が、献体された自分の肉体が解剖されていく様を淡々と見つめるという内容で、ダークかつヘビー、だけどリリカルでロマンティックという不思議な文学作品であります。
非常に血生臭い内容なので、怪奇マンガに影響を与えているのかな、と思ったのですが、どうもそんなことはなさそうです。
「少女架刑」は純文学作品でして、如何に漫画家が読者家であっても、目に触れるにはちょっと高尚(かつマイナー)な作品だったのかもしれません。
読まれたい方は「星への旅」(新潮文庫)に収録されております。(宮部みゆき・編「名短編 ここにあり」にも収録されていたような記憶がありますが、未読なのであります。)
・備考
ビニールカバー剥がし痕ひどし。カバー痛み。糸綴じあり。
2016年8月21日 ページ作成・執筆
2018年1月28日 加筆訂正
2020年1月2日 加筆訂正