池川伸治「拝み屋太郎」(220円/1965年9月4日完成)



「貧困家庭の子、山本太郎は、交通事故に遭った父親の治療費のために、五十万円で、ある邸に売られる。
 そこで、太郎は、伴隆三という禿頭の老人の指導の下、様々な訓練を受けることになる。
 目に映ったものを瞬時に判別する訓練。
 相手の目を見て、何を考えているのか当てる訓練。
 騒音の中で本を暗記する訓練。(電気グルーヴの「狂人ドラム大会」を思い出しました。)
 物音だけで、その物が何か判別する訓練…etc,etc。
 様々な荒唐無稽な訓練の目的は「天才」をつくることであった。
 テストに合格しなければ、ご飯を食べさせてもらえず、太郎は必死に「集中」する。
 そのお陰で、太郎の五感は研ぎ澄まされ、「シックス・センス」までも開眼。
 太郎が遂に「天才」となった時、会長という人物と面会する。
 そこで、太郎は、会長の著した「命の実相」という本を丸暗記させられる。
 この本には「人の悩みに対するすべての答弁」が書かれていた。
 会長は太郎を「神児」として大々的に喧伝。
 「長生会」の看板を掲げ、太郎が霊感を披露し、人々の悩みに答える講演会はどこも大盛況。
 人々は「命の実相」を争って買い求め、悩みや苦しみから救われるために、長生会にはどんどん寄付が集まる。
 太郎は人助けのためと頑張るが、しかし、その実体は…」

 森由岐子先生の「魔神の巫子」に引き続き、宗教について考えさせられる作品です。
 池川伸治先生の、金儲け目当ての「新興宗教」に対する怒りが炸裂した一作で、後書き(下の画像)を読んでもらえれば、先生のお考えがおわかりいただけると思います。

 また、ラストは「会長の一味は詐欺師で金を持って海外に逃亡、太郎はだまされた信者達に袋叩き」という、まあ、「よくある話」で締めており、「イヤなリアリティー」満点です。
 ただ、霊感を得た太郎が、どうして詐欺師一味の目論みを最後まで見抜けなかったのかという疑問は残り、「新興宗教」に対する憤りのあまり、作品の詰めが甘くなったところは、やはり、池川伸治先生らしいでしょう。
 何はともあれ、池川伸治先生と深〜い因縁のあった佐藤まさあき先生の「佐藤プロ」から出版されたという時点で、なかなかの「尖がり具合」のように感じてしまいます。

・備考
 状態悪し。Y文庫仕様(カバー裏に新聞紙等による補修。表紙を本体から取り外し、本体を何らかの厚紙で覆っている)。糸綴じあり。カバーの一部に剥がれあり、また、背表紙色褪せ。

2017年12月14日 ページ作成・執筆

貸本・その他の出版社・リストに戻る

貸本ページに戻る

メインページに戻る