いなば哲「疑惑の鏡」(170円/1962年頃?)
・「疑惑の鏡」
「犬鳴峠にて、浩太郎と、使用人の吾平が、浩太郎の弟の新之助を捜す。
二三日前、新之助は一人旅をして、行方不明になったのであった。
森の奥深くで、吾平はマムシに噛まれ、浩太郎は応急手当てをする。
その時、山小屋を見つけ、浩太郎と吾平は、休憩させてもらうよう頼む。
そこには、美しい娘が一人、一匹の犬と住んでいた。
だが、この娘は本当は醜く、魔性の鏡で、美しく見せていた。
しかも、この鏡には、男を犬に変えてしまう力があり、彼女を嫌った新之助は犬にされていたのである。
浩太郎が新之助を捜しに行っている間、吾平も犬に変えられる。
娘はどうにかして、浩太郎の愛を得たいと思うのだが…」
・「私は二歳」
「太郎は天真爛漫な男の子。
彼が二歳の誕生日を迎えようとする頃、彼の家に夜盗が入る。
夜盗は中沢隆太、田所福助、吉田純兵衛の三人で、太郎の両親を斬殺し、三百両を奪う。
その場にやって来た太郎は、福助に蹴倒され、踏石に頭を強打。
死んだかと思われたが、夜盗が去った後、彼は起き上がり、母親の血を吸い、父親の刀を取ると、三人の後を追う。
そして、彼は一人また一人とひそかに復讐していくのであった…」
「疑惑の鏡」は「男を動物に変える」(注1)という内容に「鏡」を絡めた佳作だと思います。
実際、犬に変わっていく男の描写はかなり巧みで、いなば先生の力量が窺えます。
ちなみに、「犬鳴峠」は、いなば先生の作品にたまに出てきますが、泉佐野市の犬鳴山からとったようで、都市伝説のある、福岡県の犬鳴峠とは別物だと思います。
・注1
「男を動物に変える、魔性の女」と言えば、泉鏡花「高野聖」が有名ですが、唐代の「河東記」には「ロバにされた三娘子」(鈴木了三・訳編「中国奇談集」(教養文庫)より)というのがあって、かなり古くから存在しているようです。
んにしても、女を動物に変える、魔性の男…っていうのは、いるんですかね?
・備考
ビニールカバー貼り付け。ビニールカバーの一部が剥げ、その剥げ痕あり。糸綴じあり。後ろの遊び紙に貸本店の紙貼り付け。
2020年12月16日 ページ作成・執筆