久留見幸守「吸血狼娘」(150円/恐らく、1960年代初頭)
貸本怪奇マンガについて(多分、初めて)本格的にかつ積極的に扱った、菊地秀行・編「貸本怪談まんが傑作選」。
この「妖の巻」の解説で、菊地秀行先生が子供の頃、親しんだ貸本怪奇マンガの一冊として、「着物一枚の美女が太股をあらわに人間を喰い殺して廻る、久留見幸守氏の長編」(p326)に触れておりますが、それがこの「吸血狼娘」です。
狼娘の「太股」(in color)を載せておきますので、もしも、菊地秀行先生がこのサイトを訪れる機会がありましたら、是非ともこの「太股」を拝んでいって欲しいものです。
まずは、簡単に粗筋を述べましょう。
「関東白河領 蜘蛛の巣城。
家老黒木重斎による謀反により城を追われ、逃亡中に殺された、城主の白川信義とその妻明美。
首は城に持ち帰られ、胴体は滝に捨てられる。
妻明美の胴体は岸に打ち上げられ、その骸は狼の貪るところとなるが、骸の中から嬰児が現れる。
狼の群れから雌狼が一匹、その子をくわえると、奥深い山へ姿を消すのであった。
それから、十数年後、蜘蛛の巣城では、夜ごと、城の天守閣を二つの人魂が飛び回るという怪現象が起きる。
その人魂を見た者は幾日ともたずに狂死してしまい、人々は前領主の怨霊であると噂する。
人々は不安に慄き、その地を離れる者が続出し、黒木重斎の心は荒れていく。
家臣が僧侶を呼んで祈祷させるものの、白川信義の怨霊には歯が立たない。
一方、狼が連れ去った嬰児は、狼に育てられ、美しい娘に成長していた。
生まれながらに暗(やみ)を背負っている娘に、狼達や人間でさえ、近づこうとしない。
ある冬の日、空腹に耐えかね、自分を育てた雌狼を食い殺した娘の前に、殺された両親の幽霊が現れる。
両親の霊は娘を「美保」と呼び、自分達が殺された過去について語る。
自分が前城主白川信義の娘であることを知った美保は、父母の霊に復讐を誓う。
それから、城下では、高級家臣が失血死する事件が毎夜起こるようになる…」
菊地秀行先生が述べておりますように、「着物一枚の美女が太股をあらわに人間を喰い殺して廻る」ストーリーです。
菊地先生は続けて、「いや、実に色っぽかった。娘が侍を誘惑して噛み殺すシーンなどもあり、大いにコーフンした(以下略)」とも書いておられます。
その「大いにコーフンした」シーンは以下の通り。
これって、マンガ史上初の「ハニー・トラップ」描写では?
このマンガが描かれたのは恐らく、1961年頃でありますが、全く色褪せておりません。
と言うか、現代の「女子高生に援助交際を持ち掛けられ、尻の毛まで毟られるオヤジ」とどこが違うというのでありましょうか。
いつの世も、オヤジというものが不変であることが確認できた次第であります。
まあ、かくいう私も絶対に、絶対に、絶対に引っかかりますね。
ハニー・トラップとわかっていても(ええ接吻!!)、目先の欲望に目が眩んで、罠のただ中に確実に飛び込む自信があります。
弔歌(ちょうか)には「愛の食虫花」をお願いいたします。
というわけで、「太股」と「ハニー・トラップ」を大々的にフィーチャーした、この作品。
菊地秀行氏のように興奮した読者が多かったためでありましょうか、勢いづいた久留見幸守先生は、次回作「怨霊生首供養」では、更なる飛躍に臨むのでありました。
まあ、「飛躍」というより、「暴発」と形容した方がしっくりくるのでありますが、詳細は「怨霊生首供養」のページで確認してくださいませ。
・備考
ビニールカバー剥がし痕あり。糸綴じあり。経年の汚れやシミはあるものの、ひどいものはなし。後ろの遊び紙に貸出票の剥がし痕あり。
2016年1月26・28〜30日 ページ作成・執筆