杉戸光史「怪談耳なし地獄」(1971年7月23日発行)
「野島祐子は半年前からたびたび奇妙な症状に襲われる。
耳が急激に痛むと、琵琶の音の幻聴が聞こえ、身体中に経文が浮き出す。
更に、彼女の背後には、片目のない武士の影が立ち現れるのであった。
祐子は、この奇病の謎を明らかにすべく、壇の浦を訪れる。
奇病の症状から「耳なし芳一」の話と何か関係があると考えてのことだったが、結局、徒労に終わる。
壇の浦から戻ってから、祐子は四六時中、奇病に悩まされることになり、すっかり憔悴してしまう。
両親も途方に暮れているところに、神木心形と名乗る神主が家を訪れる。
両親から話を聞いた、神木心形は、祈祷により、祐子の魂を幽界に飛ばす。
そこで、祐子は、自分が耳なし芳一の生まれ変わりであることを知る。
また、祐子の呪いをかけているのは、平家の怨霊が転生した、片目の青年であった。
平家の怨霊は、耳なし芳一の耳をもぎ取った張本人であったが、耳だけ持ち帰ったことにより御上の怒りに触れ、左目をえぐり取られてしまう。
その復讐のために、平家の怨霊は人間に生まれ変わり、先祖の墓に埋められていた、芳一の両耳に呪いをかけ、祐子を苦しめていたのであった。
祐子がこの苦しみから逃れるためには、芳一の両耳を取り戻さねばならない。
しかし、この片目の青年の名前も住所もさっぱりわからない。
そこで、「魂(たま)寄せ」の儀式を行い、相手の魂をこちらに呼び寄せようとするのだが…」
怪奇マンガ・マニアの間では、それなりの人気しかなさそうな杉戸光史先生。
確かに、ワンパターンかつ宗教色の濃い作品が多く、質は水準に達しているものの、「毒にも薬にもならない」といった印象があるように思います。
そのため、ひばり書房での貸本も描き下ろし単行本も、一握りの作品を除いては、ちっとも話題にのぼりません。
この「怪談耳なし地獄」もちっとも話題にならない作品の一つですが、久しぶりに読んだら、あれれれれ…かなり面白かったです。
まず、「芳一病」(勝手に命名)っていうのがいいじゃないですか!
その奇妙キテレツな「芳一病」に、「耳なし芳一」の登場人物が転生して関わっているなんて、並の想像力ではありません!
いや、確かに、荒唐無稽極まる内容であることは百も承知しております。
でも、個人的には、この作品の中に、「オカルト漫画」の萌芽を見てしまうのです。
オカルト・ブームの到来する1973年より以前に、「転生」や「降霊儀式」(ちょっと違うけど)をうまくストーリーに組み込んでいるところは評価されてもいいのではないでしょうか。
と、私がいくらアツく語ったところで、やはり大多数の方には、噴飯ものの作品でしかないのは、まあ、仕方ないかもね…。
2017年9月28日 ページ作成・執筆