池川伸一「母さんの鬼面」(発行年月日不明)
「ある夜、ある邸で起こった怪事件。
入浴後に母親が使った美容クリームに劇薬が仕込まれていたのだった。
父親は、娘の節子とルミ、祖父、邸の使用人達を問い質すが、誰も知らないと言う。
娘のうちの一人、節子は夢遊病の気があるが、まさかそんなことをするとは思えない。
母親の火傷は重く、ある夜、自室で首吊り自殺。
父親はそのことを邸の者には秘密にして、死体をどこかに運び去る。
その夜、ルミは姉の節子がベッドから脱け出し、ベランダに出ていることに気付く。
夢遊状態の節子は、右手を差し上げ、「呪われたこの邸に、悪魔よ、きたれ〜」云々と呪詛の言葉を呟いていた。
その時、節子の右掌に、ハート形のアザが浮き出ていたのをルミは目にする。
翌朝、このことをルミから聞いた父親は青ざめる。
父親には14歳の頃に、死別した恋人がいた。
恋人の死の間際に、永遠の愛を誓うために、二人は掌にハート形の焼きごてを押し当て、傷口を合わせたのであった。
しかし、父親はいつしかその誓いを忘れ、別の女性と結婚して、家庭を築く。
父親は、死んだ恋人の悪霊が節子に憑りついたことを知り、手を打とうとするのだが…」
貸本マンガの売れっ子、池川伸治先生が、池川伸一名義で1970年代にひばり書房(黒枠)に遺した単行本は、いまいち人気がないようです。
私も一通りは目を通しましたが、どれも内容をほとんど覚えておりません。
理由を考えてみましたが、「単行本をまるまる一冊描きおろし」というのが最大の原因であるように思います。
もっと詳しく説明しますと、貸本マンガなら一冊「約130ページ」ぐらいですが、単行本だと「約200ページ」も描かなければいけません。
池川伸治先生は細かな設定は抜きにして、大まかなストーリーだけでガンガン描きとばすタイプで(恐らく)ありました。
当然ながら、内容は矛盾や齟齬、不自然の嵐。
それにもかかわらず、先生の貸本マンガを今読んでも、ある程度、面白いのは、「約130ページ」という、程々な長さ故でありましょう。
これは、多少の理不尽さは無視して、「奇想」炸裂のストーリーを、疾走感に乗って、楽しむことが可能なページ数であったように思います。(根拠はありませんが…。)
しかし、これが「約200ページ」に膨れ上がると、冗漫さが鼻につくようになります。
ストーリーとは全く関係のない描写や、あからさまにこけおどしの描写が増え、ストーリーが恐ろしく散漫かつ混乱したものになるのです。
そのため、一度読んだだけでは、はっきりと意味がわからない、という印象を抱くことになると思います。
「母さんの鬼面」を読んで、以上のことを私は考えました。
実際、このマンガ、冒頭に「母親が美容クリームに劇薬が仕込まれているのを知りながら、それを顔に塗る(らしい)」描写があるのですが、その説明は最後まで一切ありません。
推測ですが、当初はもっと複雑怪奇なストーリーで描くつもりだったが、話が膨らまなかったので、ほったらかしにしたのではないでしょうか?
いくらベテランの作品でも、これはちょっと…残念な作品です。
ヒバリ・ヒット・コミックス(池川伸一・名義)で再刊されております。
・備考
貸本。糸綴じあり。カバー貼り付け。読み癖あり。シミ、汚れ、切れ、多数。後ろの遊び紙に貸出票の剥がし痕あり。
2016年2月11〜13日 ページ作成・執筆
2017年4月25日 加筆訂正