山上たつひこ「真夏の夜の夢」(1975年6月14日発行)

・「白蟻」
「クラスメートとは決して絡もうとしない、陰気な少年、暗土(あんど)栄一。
 石原は、ふとしたことから、彼と友人となり、ある日、彼の家に招かれる。
 彼の家は古色蒼然とした藁ぶき屋根の家で、彼は祖母と二人で暮らしていた。
 石原と暗土が部屋で話していると、白蟻が天井から落ちて来る。
 それを見るなり、暗土は半狂乱となり、白蟻を叩き潰す。
 落ち着いてから、暗土は、彼の家族にかけられている、白蟻の呪いについて話し始める…」

・「ウラシマ」(1972年「別冊少年マガジン冬期号」掲載)
「豊城小学校にて、先生が八名殺害され、児童2500人が行方不明になる事件が起きる。
 ただ一人、無事だったのは、目を怪我して、保健室で休んでいた友成という少年であった。
 彼は、家で介抱していた行き倒れの老人からことの真相を教えられる。
 老人は、昔話の浦島太郎の弟、次郎であった。
 老人によると、昔話の浦島太郎は半分は偽りであり、乙姫は残忍な性格で、太郎は三年、次郎は十二年、竜宮城で奴隷として働かされていたという。
 最期に、老人は、乙姫のペットである海亀が密猟者に殺されたことへの復讐を企てていると告げ、こと切れる。
 その時にはすでに「水亡」(水死者のゾンビ)の魔の手が友成に伸びていた。
 友成はたった一人で乙姫の率いる「水亡」達と立ち向かうことになる…」

・「2丁目1番地恐怖団」
「遊びではもの足らず、「リアル」を追い求める少年、沼妖(ぬま・よう)。
 彼は大人達に反発し、また、大人達の作った規則に反発していた。
 ある日、彼は見知らぬ少年からちらしを手渡される。
 ちらしに書かれた住所に行くと、倉庫の中に、仮面をかぶった少年達が集まっていた。
 彼らは「2丁目1番地恐怖団」と名乗り、「真の冒険を求めて」活動していると話す。
 その考えに共感して、妖は入団するのだが…」

・「土」
「近未来。
 高級官僚住宅地に住む岩谷夫婦は、住宅地を出入りする、不審なトラックに気が付く。
 調べると、トラックの積み荷は「土」で、末田夫婦は、住宅の屋上で畑を作っていた。
 岩谷夫人は、土を汚らわしいと忌み嫌い、末田夫婦をどん百姓と罵るのだが…」

・「11階」
「ゴンドラでビルの汚れを落とす仕事をする二人組。
 仕事の途中、一人の男が、片方の男に、自分は近々、この仕事をやめると話す。
 更に、片方の男の密かな副業についても言及する。
 片方の男は、仕事の最中に、盗みを働いていたのであった。
 男は、片方の男に、盗品の隠し場所を教えるよう、ゴンドラを揺らして、迫る…」

・「青いリボン」
「矢間哲は、幼少の頃から、ボクシングのチャンピオンであった父親の遺志を継ぐため、母親から厳しい特訓を受ける。
 彼は、いろいろな相手に戦いを挑み、負ければ、男なのに、青いリボンを付けなければならなかった。
 親友の英二と、六島のマネージメントにより、哲は世界チャンピオンへと昇りつめる。
 しかし、栄光の美酒に酔い、周囲で彼を支えてくれた人々をないがしろにするようになり、遂に、母親の死に目に会い損ねてしまう。
 これがきっかけとなり、哲はチャンピオンの座から転落し、全てを失う。
 一年後、英二は哲と偶然に再会し、彼にカムバック試合に出るよう説得する。
 そして、迎えた復帰戦、哲が相手選手に手も足も出ない中、ふと、リングの外に目をやると…」

 巨匠、山上たつひこ先生はデビュー当初から、SFや怪奇ものが多かったのですが、あまり知られていないようです。
 この単行本では、ホラー、SF、サスペンス、幽霊譚をちょっぴり味付けした人間ドラマとバラエティー豊かな作品を取り揃え、作者の並々ならぬ力量が窺い知れます。
 一番の目玉は、アンソロジーに採り上げられたこともある「ウラシマ」でしょう。
 浦島次郎の設定はちょっと無理があるとは思いますが、あの時代に個性的な「ゾンビ」が出て、暴れている点は賞賛に値すると思います。
 また、「青いリボン」は、ギャグ・マンガのイメージしかない人には想像もつかないような、渋い作品です。

2019年5月20日 ページ作成・執筆
2019年6月20日 加筆訂正

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