高園寺司「呪いの小人」(1974年8月31日発行)
私事で恐縮なのですが、私、小学校の時から中学校の半ばぐらいまで、カタカナの【シ】と【ツ】の書き分けができませんでした。
『どうして?』と問われても困ります。
理由がどうこうという問題でなく、本気で区別ができなかったのです。
小学校の間、国語のテストやノートの添削で繰り返し繰り返し×をもらっても、先生方に誤りをうるさくなじられても、何が間違っているのかさっぱりわかりませんでした。
もちろん、子供心にも、何かが違う…という意識はありました。
自分では書き分けているつもりでも、どうも世間的には間違っているらしい…でも、一体全体どこが間違っているのかがはっきりしないし、誰も指摘してくれない。
今になって思えば、当然の事でありすぎて、誰も指摘しようとしなかったし、また、説明のしようがなかったのかもしれません。
日常でも、よくあるじゃありませんか…『何でこいつはこんなことがわからないんだろう? 常識ねえなぁ…』と思うことが…。
でも、逆に、他人に『そんなん常識やろ!!』とか言われると、そいつのこめかみを気が済むまでパターで打ち続けたいという衝動に駆られるものです。
要約すると、『常識』なんて言葉は所詮は実態がないもののように思えます。
『常識』なんか、所詮は各人の『思い込み』に過ぎないというのが私の考えです。
うやむやのまま、時は過ぎ、中学時代のある日、詳しい状況は忘れましたが、先生か、もしくはクラスメートか僕に教えてくれました。
『【シ】は左上の点点が横で、【ツ】は左上の点点が縦』であるということを…。(ついでに、【シ】のノは左下から右上へ、【ツ】は右上から左下へ書くことも。)
その瞬間、僕の目からうろこが雪崩を打って剥げ落ちました。
新しい視界が急に開け、天啓を受けるが如く、私は真実を悟ったのです。
こうして、私は【シ】と【ツ】が書き分けることができるようになりました。
長々と昔話をしてしまいました。悪い癖です。
この話から何らかの教訓を引き出そうが、馬鹿話として嘲笑しようが、それは読み手の自由です。
ただ、そんな七面倒くさいことは抜きにして、読むたびにこの事を思い出させてくれるマンガを紹介したかった、ただそれだけなのです。
それがこのマンガ、高園寺司「呪いの小人」であります。
「序盤。
季節は夏です。
舞台は田舎です。かなり山奥の辺鄙な土地です。
下校時、校門のところで友人と喧嘩するヒロイン。
二人の間には「ツーン」という冷たい空気が流れます。
帰路は山道。
『ヅヅヅー』とセミが鳴いてます。
…何か違和感があります。(前のページでは『ジジジー』と鳴いていたはずなんですが…。)
しきりに、セミが鳴いています。
『ミーン、ミーソ』
…やはり、違和感がぬぐえません。
ささいなことで友達と喧嘩別れした少女が、人気のない山道で、道端の岩に座ります。
『ドッコイツョッ』
…
……
『ドッコイツョッ』?!
私は自分の眼を疑いました。そして、知ったのです。
私だけじゃなかったんだと!!
ある意味、私の心に安らぎを与えてくれたマンガであります。
言いたかったことはこれだけです。
いやあ〜、すっきりした。
ここまで付き合ってもらって、こう言うのも何ですが、それだけを言いたかったのです。
ちなみに、ストーリー云々、今更どうでもいいです。(と言うか、よくわからない…。)
かいつまんで説明すると、「父親に殺された男が人面ソ(「やまいだれ」の下に「且」)となって復讐する」という話です。
「呪いの小人」というのが、その「人面ソ」を指すのか、冒頭に出てくるセムシの老人を指すのか、はっきりしないのでありますが、多分、テキト〜につけたのではないでしょうか?
「人面ソ」をテーマにした古典的な作品にE・L・ホワイト「こびとの呪」(注1)がありまして、この作品からインスピレーションを受けたのではないかと、私は推測しております。
んで、「こびとの呪」をひっくり返して、「呪いの小人」にしたと…あくまでも、個人的な推測です。
ともあれ、本来ならば、ひばり書房黒枠の中でも、トップ・クラスのレア度を誇る高園寺司先生の作品(ほとんど伝説)についてアツく語るべきなのかもしれません。
が、他に作品を持っておりませんので、私には語る「資格」はありません。
「呪いの村」も「復讐鬼」も今や相場は二万円を超え、「KING OF ヒバリ」の呼び声も高い「吸血女バイオレット」なんか、下手すれば、一生手に取ることはないでしょう。(と言うか、並品が市場に出たら、いくらになるのか想像がつきません。)
やはり、怪奇マンガのファンですから、興味はあるのですが、こんな本に「数万円」も払うことに抵抗があるのであります。
貧乏人の減らず口と言われれば、その通り。負け惜しみであることは自身が重々承知しております。
ただただ、復刻されるのを祈るばかりです。
・注1
ジョン・コリア―他「怪奇小説傑作集2」(創元推理文庫/1969年3月5日初版・1979年10月12日30版)に収録。
古典と言うと、それだけで敬遠する人も多いとは思いますが、「怪奇小説傑作集2」はなかなかの粒ぞろいです。
ラヴクラフトやブラックウッドといった怪奇小説の大家よりも、マイナーどころの渋い作家の短編をメインとしております。
薄気味の悪いL・P・ハートリイ「ポドロ島」、人喰い植物を扱った傑作ジョン・コリア―「みどりの想い」、孤島へ流れ着いた漂流者が「地獄」を見るL・E・スミス「船を見ぬ島」、サキの名編「スレドニ・ヴァシュタール」、腹話術の人形を扱ったベン・ヘクト「恋がたき」、水木しげる先生が丸パクリにしたヘンリイ・カットナー「住宅問題」、H・G・ウェルズの名作「卵形の水晶球」、実はいろんなところでネタにされているJ・D・べレスフォード「人間嫌い」…etc,etc。
どれも20〜40ページと程々の長さで、訳文もわかりやすく、若い読者の方でも取っつきやすいと思います。
「怪奇」ブームは結構ですが、一度は目を通しておいていただきたい本であります。
(「怪奇小説傑作集」は五巻まで出ておりますが、他の巻はそれなりに腰を据えて読まないと、キツいかもしれません。)
・備考
貸本らしいが、使用感なし。ホッチキスのようなもので綴じ。カバーに切れやよれ。本文下部に折れあり。後ろの遊び紙に貸出票の剥がし痕あり。
2010年10月4日 執筆
2016年1月26日 ページ作成・加筆訂正