古山寛「悪魔がやってくる」(220円)



「三つの悪魔に関わる物語」

・「第一話 十字架の悪魔」
「キリシタン弾圧が熾烈を極めた時代、寛永十九年。長崎、浦上村。
 ここに、シノと、その兄の次郎の、二人きりの兄妹が住んでいた。
 二人の両親はシノが幼い時に、キリシタンの大弾圧により殉教。
 以来、村人の情けによって、走り使いや手伝い仕事をして生活していたのである。
 兄は両親が殺されたのはキリスト教のせいと激しく憎むが、シノは両親と同じくキリスト教を信仰する。
 ある日、密告により、隠れキリシタン達が大勢捕らえられる。
 シノもその中の一人であった。
 彼らは棄教を迫られ、激しい拷問を加えられるが、シノを含めた幾人かは頑として拒む。
 そして、処刑当日、刑執行の直前、彼らはもう一度棄教する意思の有無を問われる。
 彼らは「パライソ」のことを想い、力なく項垂れるのみ。
 その時、処刑場へ次郎が駆けつけ、架上のシノに棄教するよう訴える。
 役人を押しのけ、次郎はシノを助け出そうとするが…」

・「第二話 悪魔の顔」(注1)
「一之瀬美夏は、半年前から高原の別荘で療養している、親友の白河節子を訪ねる。
 白川節子は病気になってから、親友である美夏とも会おうとしなかったが、急に美夏のもとに手紙を寄こしてきた。
 その手紙には、彼女のかかっている「病気」について書かれていた。
 節子は、ある日から突然に、肩越しに振り返って、人を見ると、その人の顔が「悪魔の顔」に見えるようになったのだと言う。
 それ以来、彼女は人前には出ず、別荘に引きこもっていたのだが、美夏にはどうしても会いたくなり、手紙で呼び寄せたのであった。
 半年ぶりに会う節子は、美夏が思っていたよりは元気そうに見える。
 節子は美夏に金のためにはどんな手段も選ばなかった亡父や財産目当ての親戚について話し、美夏以外は誰も信じられないと胸のうちを明かす。
 居たたまれない美夏は泊まらずに夕方、別荘を後にすることにするが…」



・「第三話 花園の悪魔」
「少年と少女は、羊飼いをしている祖父と暮らしていた。
 ある日、二人の前に、ヒゲを生やした男と、フードで深く顔を覆った予言者の二人が現れ、「悪魔の丘」について尋ねる。
 「悪魔の丘」には、大昔に世界を滅ぼした悪魔の墓があり、普通の花の何倍もの大きさの花が咲き乱れ、不思議な虫や動物がいる所であった。
 男は「悪魔の丘」には神様が眠ると話し、男と予言者は「悪魔の丘」に向かう。
 「悪魔の丘」に眠るものが本当に神様なのか疑問に思った少年は翌日、少女と共に「悪魔の丘」を訪れる。
 そこで、二人は地下に降りるはしごを見つけ、中に降りてみるのだが…」

・「特別サービス!?第四話 「悪魔がやってくる」のあとがきにかえて…」
「夜明け前、ようやく「悪魔がやってくる」の原稿が完成した古山寛先生。
 そこへ「悪魔がやってくる」を読んで、会いに来たと言う女性が、アパートの部屋を訪ねてくる。
 女性は、古山寛先生の勉強不足を指摘して、「悪魔」についていろいろと話し始める…」

 古山寛先生の「少女スリラーシリーズC」である「悪魔がやってくる」は、「悪魔」をテーマにしたオムニバスであります。
 内容は「歴史ロマン」「怪奇もの」「SF」とバラエティーに富み、それぞれが完成度が高く、読み応えがあります。
 最後の「あとがき」も皮肉が効いて、心憎いばかり。
 非常に良質な作品ですので、復刻する価値は十二分にあると思います。

 ついでに、個人的な感想を少し述べますと、「第一話 十字架の悪魔」はなかなか泣けます。
 ただ、見どころが一番多いのは「第三話 花園の悪魔」でありましょう。
 実は「SF」ですので、楳図かずお先生ちっくなモンスター(左下画像を参照のこと)や「禁断の惑星」な○○○○(ネタバレなので自粛…もうバレてるけど…)も出てきます。
 あと、「二尾の猫」がチャーミングなのが、ツボにはまってます。(右下画像を参照のこと)



・注1
 元となった話は、J・D・べリスフォード(英/1873〜1947)の古典的名作「人間嫌い」でありましょう。
 「幻想と怪奇@」(ハヤカワ・ポケット・ミステリー・ブック)や「怪奇小説傑作集A」(創元推理文庫)に収録され、いろいろなところで影響を与えているように思います。
 ただ、古山寛先生は単なるパクリで終わらせず、「鏡」をうまく使って、読ませます。(ラストは、小島剛夕先生の「蛇眼」とちょっぴり似てます。)
 ちなみに、べリスフォードはこれまた奇妙な短編「のど斬り農場」(「怪奇礼賛」(創元推理文庫)収録)の作者であります。
 この「のど斬り農場」、古賀新一先生の「エコエコアザラク」の一エピソード、「電車の食堂車で大喰らいの客が乗り込んで云々」の話(タイトル忘れ)の元ネタなのではないか?…と個人的ににらんでおります。

・備考
 ビニールカバー一部貼りつき。カバーに痛みあり。糸綴じの穴あり。カバーの裏に鉛筆での書き込みあり。後ろの見開き、マジックでの書き込みあり。

2016年8月29日 ページ作成・執筆

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