島根けんじ「おせんが淵」(発行年月日不明/220円)

「冒頭は、野辺の送りの描写から始まります。
 埋葬されているのは、おせんという名の少女。
 おせんは、その地方でも大家の娘。
 が、身体が弱い上、継母から虐待され、喉の渇きを訴えながら、衰弱死してしまったのでした。
 父親は仕事に忙しく、継母による虐待には気づくことなく、あれこれ悔やみます。
 そして、おせんの死に顔は、苦悶に醜く歪んだものでありました。

 おせんが埋葬されて後、家に数々の異変が起こります。
 まず、夜中に得体の知れぬ物音がして、朝になると、おせんの位牌が濡れ、仏前の茶碗のお茶が空っぽになっていること。
 それから、下女の二人が「おせんが空腹と喉の渇きを訴え、ごはんと水をください」と言うおせんの姿を夢か現か見たと父親に告げます。
 父親はおせんの死の真相を薄々ながら、察しますが、まずはおせんのお弔いを急がねばなりません。
 下女達に命じて、おせんの好物を作らせると、父親自ら墓参りにでかけるのでありました。

 墓前でおせんの冥福を祈る父親ですが、ここでも怪異が起こります。
 水入れにいくら水を入れても、空っぽになってしまうのです。
 水入れの底には穴などあいていないし、父親は首をひねるのでした。

 それから、数日後。
 家では怪異がまだ続いておりました。
 夜中には原因不明の物音が鳴り、仏壇にあるおせんの位牌は濡れ、茶碗は空っぽになっているのです。
 父親は、おせんが成仏していないと考え、寺の和尚を呼び、念入りに供養してもらうのでした。

 さて、和尚が寺に帰ってくると、おせんと仲の良かった太一という少年が和尚のもとに駆けてきます。
 太一はおせんの墓参りに訪れた際に、おせんの墓が荒らされ、卒塔婆が倒れていたのです。
 訝りながら、和尚は卒塔婆を立て直しますが、また倒れてしまい、和尚は太一に鍬(くわ)を持ってくるよう命じます。
 和尚が墓を掘り返すと、すっかり痩せさらばえた、瀕死のおせんの姿がありました。
 和尚と太一はおせんを寺の中に運び入れ、布団に寝かせます。
 和尚は太一にこのことは秘密にするようきつく言い渡すのでありました。

 三日もすると、おせんは危篤状態から脱し、徐々に回復してきました。
 和尚はおせんの件で、おせんの家に向かうと、父親は仕事で外出しており、継母が応対します。
 おせんが生き返ったという話を聞き、継母は慌てます。
 そこで、和尚に金を握らせ、誰にも知らせずに、おせんをかくまうよう頼むのでありました。

 寺に帰った和尚が、おせんに家に帰りたいかと尋ねると、家に帰りたくないと答えます。
 と、和尚の頭に素晴らしい考えがひらめくのでした。
 実は、この和尚がとんだ生臭坊主。莫大な借金があり、首が回らなくなっていたのです。下手すると、命まで危ないという有様。
 そこで、和尚は継母に手紙を書き、この借金を肩代わりしてもらいます。
 それに飽き足らず、おせんのことをだしに度々金を強請るようになるのでした。

 ある日、堪りかねた継母は和尚に直談判にやってきます。
 継母は和尚に強請りをやめるようお願いしますが、それなら、おせんを連れて帰れ、と冷たい対応。
 がっくりうな垂れて、寺から戻る母親の目の前に、寺男の米三の姿がありました。
 この米三という男が、和尚と同じくロクデナシでありまして、和尚の強請りのお使いに出かけては、その金をくすねていたという小悪党です。
 継母は、これ以上、和尚に金をせびられ続けたら、破産してしまうので、米三におせんを殺すよう依頼します。
 最初は驚くものの、金の話になると、米三の目の色が変わります。
 とりあえず、前金で半分受け取り、おせんをうまく始末したら、もう半分受け取ると話が決まるのでした。

 その頃、おせんの枕元に座った太一は、和尚さんや継母の話をしておりました。
「いつまでもこんなところにいない方がいい」と太一は言いますが、おせんはどこも行くところがありません。
 そこで、太一は自分の隠れ家について話します。
 そこなら、食料に不自由しないし、太一も毎日訪ねることができます。
 おせんも乗り気で、その夜、太一はおせんを連れて行くと約束するのでありました。

 その夜。
 お寺にそろそろと忍び寄る影。
 太一を心待ちにしていたおせんは、太一の名を呼びます。
 が、そこに現れたのは、鎌を手にした米三。
 米三の鎌が一閃し、おせんを切り裂きます。断末魔の表情で悶えるおせん。(腰つきが色っぽいですね。)
 おせんを殺った証拠に、米三はおせんの首を切り取ろうとしますが、そこに誰かの気配がします。
 それは一足遅くやってきた太一の姿でした。
 暗闇の中、手探りでおせんを呼ぶ太一ですが、おせんの身体につまづいてしまいます。そして、おせんの身体を探ると、手に血がびっしりついておりました。太一は慌てて、おせんを介抱しようとします。
 そこへ、物音を聞きつけた和尚がやって来ました。
 明かりに照らし出される、太一と、おせんの死体。
 和尚は太一がおせんを殺したと思い込み、太一に掴みかかります。
 二人が争ううちに、衣装掛け(?)の破片が和尚の胸に刺さり、和尚は絶命。
 太一は、和尚を殺してしまったことに怯え、寺をとび出します。

 全てを物陰から見ていた米三は、事が落ち着いてから、おせんの死体を寺から運び出します。
 山奥に運び込み、まず、証拠になるよう、片手を切り取ります。
 そして、おせんの死体を埋めて始末しようとしますが、何故か鎌が手から離れません。
 どのようにしても鎌は取れず、仕方なく、残りの金を受け取りに米三は継母のもとに行くのでした。
 しかし、継母はすっとぼけるばかり。それだけでなく、口封じの為に、侍を幾人も雇って、米三を始末しようとします。
 その時、米三の持って来た、おせんの片腕がぴょんぴょんと跳ね上がり、継母の喉元に掴みかかります。
 おせんの片腕は継母の喉元を締め上げ、継母はのた打ち回ります。
 その隙に、米三は命からがらその場を逃げ出すのでした。

 何とか逃げのびた米三は、おせんの死体を始末することにします。
 もともと死んだはずの娘。おせんの死体がなければ、米三の罪の証拠はありません。
 まずは、手に張り付いたままの鎌をどうにかしようとします。
 柄を折って、刃の部分は取れたものの、柄はいまだくっついたまま。
 仕方なく、おせんの死体の処理を先にします。
 深く地中に穴を掘り、その中におせんの死体を埋めますが、翌朝、見に来ると、穴の外におせんの死体が出ております。
 怪しみながら、もっと深い穴を掘り、埋めますが、その次の日には、おせんの死体がまた出ているのでありました。
 そういうことが繰り返され、米三はおせんの死体を燃やそうとします。
 が、いくら薪をくべ、火力を強くしても、灰の中から、少しも燃えた形跡のないおせんの死体が出てくるだけ。
 次に、米三はおせんの死体を水中に遺棄しようとします。
 大きな石をくくりつけ、深みに沈めたものの、どういうわけか、おせんの死体は浮いてきます。
 そこで大きな石を二つにして、また沈めますが、再びおせんの死体は浮かび上がり、怨みのこもった目つきで米三を睨みつけるのでありました。
 さすがに米三は恐ろしくなり、「たすけてくれー」とその場を逃げ出しますが、石につまずき、崖から真ッ逆様。手に張り付いていた鎌の柄がその身体を刺し貫くのでした。

 そこへ、和尚を殺してしまった後、山野を彷徨い続けていた太一が通りがかります。
 太一がおせんのもとへ行こうと自殺を決意した時、川面に浮いているおせんの死体を目にします。
 川に飛び込み、おせんの死体にすがって、泣く太一。
「おいらもおせんちゃんのところへいくよ…いっしょならさびしくなんかないもんな…」
 そして、二人の姿は川底へ沈んでいったのでありました。

 エピローグ
「それから幾年月
 ふたりのなきがらは二度と水面にあがってこなかった
 そしてだれいうとなく、この淵をおせんヶ淵と名づけた……。
 今ではふたりの化身といわれる五十センチに余る大きな岩魚が二尾たくさんの魚にまじっておよいでいるというが……この淵に糸をたれる釣人はいないという……」
 おしまい」

 個人的な感想を述べますと、「ゆる〜い」感じのマンガであります。
 キャラは水木しげるちっくなのですが、水木しげる先生のマンガほどの緊迫感はないように感じます。そのためか、水木しげる先生より遥かに泥臭く、「民話」といった趣があると思います。ぶっちゃけますと、水木しげる先生のマンガから「世知辛さ」というものを抜いたら、こういう感じになるのではないのでしょうか?(これはあくまでも私見であります。どの道、一冊しかマンガを持っていない私が何を言っても、意味なんかありゃしません。)
 とにもかくにも、私個人としては、心にしみ入る「好きなマンガ」なのであります。

・備考
 状態非常に悪し。カバー欠。本体ボロボロ。糸綴じ穴あり。しみ多数あり。

平成26年3月26日 執筆
平成26年9月10日 ページ作成

貸本・若木書房・リストに戻る

貸本ページに戻る

メインページに戻る