オガツカヅオ「魔法はつづく」(2018年7月24日初版第1刷発行)

・「はじめましてロビンソン」(「シンカン Vol.4」2011年2月)
「学はある漫画家の仕事場でアシスタントのケイコと出会う。
 二人は一年後に入籍し、その三か月後に小さな結婚式を挙げる。
 だが、その二次会の時、ケイコは緊張に耐えられず、会場から抜け出す。
 学は彼女を慰め励ますが、突如、陥没事故に襲われる。
 二人は命は助かるものの、学は身重なケイコをかばって重傷を負い、しかも、後遺症として『透明病』にかかってしまう。
 透明病は徐々に体が透けていくだけでなく…」

・「かえるのうた」(「シンカン Vol.2」2010年8月)
「カラオケボックスの個室。
 緑川ユキは弟のけんごと共に15年前に失踪した父親と再会していた。
 だが、父親のそばには若い愛人ののりちゃんがおり、彼は全く反省している様子はない。
 弟はトランプの札が一枚足りないことにばかりこだわり、しかも、皆で歌うのは何故か『かえるのうた』。
 部屋の電話からは彼女に連絡が来て、『かえるのうた』を歌うよう促す。
 混乱することだらけだが、彼女はふと違和感の正体に気付く。
 この場にいるのは深夜バスで彼女の近くに座っていた人たちであった。
 これは彼らがバスが横転事故を起こした際に見た夢だったのだが…」

・「猫のような」(「シンカン Vol.5」2011年5月)
「小学校五年の草野タツトの祖母は不思議な力を持っていた。
 彼女は視力を失い、病室から一歩も出ていないにも関わらず、様々のものが見え、人の危機を看護婦を通じてタツトに知らせる。
 そして、祖母が話をする場所には必ず猫のガルがいた。
 どうやら祖母の魂はガルに憑依して、ものを見ているらしい。
 祖母の願いは、死者の目に死ぬ直前の光景が焼き付けられるのが本当かどうか確かめたいということであったが…」

・「こくりまくり」(「Nemuki+」2015年5月)
「名倉という少年はわずかだが予知能力があった。
 小学三年生の時、彼はクラスで一番イケてる女子の木目米から告白されるも、タイプでないとあっさり断る。
 すると、木目米がどんなタイプが好きか尋ねるので、彼は「霊の見える子」と答える。
 七年後、彼は再び木目米に告白される。
 木目米は霊的修行の旅に出て、以前の面影は全くなく、身体中に黒いオーラをまとっていた。
 彼女は霊が見えることを証明するため、彼を心霊スポットに連れて行く。
 ここは鬱病の父親が妻子を殺害し、その後、焼身自殺をした民家であったが…」

・「しあわせになりませう」(「シンカン Vol.3」2010年11月)
「みのりは生霊を視ることができた。
 彼女は子供部屋の金魚鉢の下にキッコの生霊をよく目にする。
 キッコは兄のヒカルの恋人で、二人が高校生になった時から彼女の生霊が現われてくるようになる。
 それと同時に、兄の親友である亮二は度々事故にあうようになる。
 キッコの生霊が現れる理由とは…?」

・「隣のゾン美さん」(「週刊漫画Times」2012年9月)
「高校生の小森じんこは転校生の鵜納真魚子からバイトの話を持ちかけられる。
 それは「特殊な人のお世話」で、親が借金を抱えているじんこは学費を稼ぐためにその話に乗る。
 だが、実際は『ゾンビ』の世話であった。
 ゾンビと言っても、映画やゲームに出てくるようなものでなく、「魂が抜けて身体だけがこの世に残っている人」で、一見すると普通の人間に見えるものの、魂が入っていないので自分の形を保てず、人の手で刺激して自分の身体を思い出させる必要があった。
 じんこは今泉という17歳の女子高生のゾンビを住み込みで世話することとなる。
 そして、十日目、今泉は売られることとなるのだが…」

・「千年蟻と一日あかぁさん」(「Nemuki+」2014年9月)
「マコが目覚めると、森の中に裸で横たわっていた。
 そばには見知らぬ少女がおり、次に中年の神主が現れる。
 実は彼らは12年後の夫と娘であった。
 交通事故にあったマコは記憶喪失となり、12年が経過していたらしい。
 食欲を満たした後、彼女は我が家の神社に戻る。
 そこで家族水入らずで楽しく過ごすうちに、マコは猛烈な眠気に襲われる。
 彼女が眠った後、夫と娘は…」

・「よふさぎさま」(「シンカン Vol.1」2009年11月)
「知子は小学六年生の頃、友人の亜矢子に誘われたことをきっかけに夜ランニングにはまる。
 以来、23歳の今もずっと走り続けてきた。
 夜ランニングの最中、たまにランニング・コースに妙なものがいることがある。
 亜矢子によると、それは『よふさぎさま』という「夜、走る女の行方を阻むもの」で、「女の運命が大きく変わろうとする予兆をいろんな姿でおしえてくれる」という。
 実際、『よふさぎさま』に出会った後では彼女の身には様々な出来事が起こる。
 今の夫と出会い、結婚、亜矢子との再会、そして、離婚…良いこともあれば悪いこともあったが、それでも『よふさぎさま』のお陰で、覚悟だけは前もってすることができた。
 二年後、再婚した彼女の前に再び『よふさぎさま』が現れるが…」

・「魔法はつづく」(「漫画アクション」1996年9月)
「じんこ(11歳)とえいじ(6歳)はいとこ同士。
 じんこはロリコン教師から被害に遭い、えいじと一緒に彼に呪いをかける。
 そのためか、教師は亡くなり、罪の意識のせいでじんこは円形脱毛症、えいじはアトピーに悩まされるようになる。
 教師の葬式の後、じんこの家は引っ越したが、七年後、彼女の家族は町に戻って来る。
 再会した彼女は関西弁の活発な少女へと成長していた。
 彼女からえいじは意外な事実を明かされて…」

・「こくりまくり後日談 こくりまくれ」(描きおろし)
「木目米が名倉と付き合う(?)ようになって三年。
 ある朝、彼が彼女の部屋にいて、プリクラ(実は証明写真)を見つめていた。
 これは小学生だった木目米が彼に初めて告白した日に撮ったもので、彼女は彼にむりやりキスをしていた。
 木目米は名倉にそれはあげないと言うのだが…」

 異才、オガツカヅオ先生の傑作短編集です。
 リイドカフェコミックスは濃い面子が多く、オガツカヅオ先生の作品は大人し目に感じますが、奇想とファンタジーが高次元で組み合わされ、オガツ作品以外にはありえない強靭な世界を構築しております。
 そして、その世界を包み込む、ほんわかした温かさはまさしく作者の「人を見る目の優しさ」によるものだと私は感じております。
 個人的なお気に入りはユーモラスな「こくりまくり」。木目米さん、いい娘です。
 また、「よふさぎさま」はブラックユーモアと奇想が見事に結晶化した傑作で、読めば読むほど、深みにはまっていくような凄みがあります。
 オガツカヅオ先生、もっともっと積極的に評価されて欲しい方です。

2024年6月22・28日/7月1日 ページ作成・執筆

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