井出知香恵「エロチック・ホラー傑作選」
(レディースコミックルージュ8月号増刊/1990年8月10日発行)

・「カリギュラの夜」(「レディースコミックミステリールージュ」1989年6月号)
「浜木沙都子(24歳)はそれはそれは不幸な生い立ちであった。
 生まれて数か月で父の交通事故死、次いで、母も病死。
 親戚をたらい回しにされた後、施設に入るが、17歳の時、バイト先の上司にレイプされる。
 一念発起し、プログラマーになるため、専門学校に入るも、今度は体調を崩し、入院し、退学する。
 このまま、不幸だらけの人生かと思われたが、役所勤めの男性と結婚し、真由子という女児にも恵まれ、彼女は平和な日々を手に入れる。
 ある日、近所の友人達とダベっていた時、あるスクープ誌の記事を見せられる。
 それは「秘密乱交パーティ潜入ルポ」という記事で、沙都子は記事の写真に目が釘付けになる。
 写真の写っている全裸の男性の太股の傷は夫のものと同じであった。
 つまらない妄想と自分を納得させるも、記事を見た夫は顔色を変える。
 その翌日、夫は酔って、車ごと海に落ち、死亡する。
 沙都子は記事が夫の死に関係あると考え、彼の部屋を調べる。
 彼の日記には、会社の上司に無理矢理誘われて、「カリギュラ」に行ったという記述があった。
 その上司に話を聞くと、彼を乱交パーティに誘ったことを認め、帰る時、夫が「マニ…」に魅せられたと言ったらしい。
 一か月後、彼女はその上司と共に「カリギュラ」のパーティに参加する。
 仮面の下は全裸となり、大広間で男女があちこちで乳繰り合う中、一段高い場所から黒いローブをまとった男が見下ろしていた。
 その男が「カリギュラ」で、正体は誰も知らず、近付かないよう警告される。
 沙都子はカリギュラに近付き、「マニ…」について尋ねるが、そういう質問はタブーと断られる。
 その代わり、彼女は別室に連れて行かれ、彼のセックスに圧倒される。
 しかも、行為の後、彼女が大広間に戻ると、カリギュラは何食わぬ顔をして、もとの場所にいた。
 彼女はカリギュラの衣服に電波発信装置を入れており、翌日、カリギュラの家まで行く。
 カリギュラの正体とは…?
 そして、「マニ…」の意味とは…?」

・「ベラドンナの魔女」(「レディースコミックミステリールージュ」1988年4月号)
「帰蝶布美子(35歳)は、13歳年上の実業家、帰蝶信貴と結婚。
 夫の死後、その事業を継ぎつつ、彼女は多くの慈善事業をバックアップしていた。
 この度、彼女はロックシンガーの初谷竜一のコンサートツアーに出資を表明する。
 初谷竜一はプレイボーイとして知られ、多くの女性を泣かしてきたが、小原千亜妃もその一人であった。
 千亜妃は、幼い頃に両親を亡くし、信州の山奥で祖母に育てられる。
 上京し、CMの下請け会社で働いている時、初谷と知り合うも、流産をきっかけに捨てられる。
 千亜妃は、初谷を援助する帰蝶布美子が許せず、彼女の邸の前でナイフを手に襲う。
 だが、護衛に殴られ、気絶。
 目覚めると、邸のベッドに寝かされていた。
 帰蝶布美子は千亜妃にとりあえず今はよく休むよう睡眠薬を与えるが、真夜中に千亜妃は誰かの声を聞いたように感じ、目覚める。
 微かな声を辿っていくと、居間の暖炉の中に隠し階段を見つける。
 階段を降りた先の扉のガラス窓を覗くと、手足を椅子に拘束された男性が助けを求めていた。
 その両側には、布美子の取り巻き三人と、魔女に扮した、仮面の帰蝶布美子が正面の椅子に座る。
 それは秘密の裁判であった。
 椅子の男性は地上げ屋で、古本屋の店主の殺害の罪で裁かれる。
 布美子は被告に死刑の判決を下し、彼に「死の接吻」をする。
 その後、彼女は、取り巻きの三人と激しく交わり、それを見ているうちに、千亜妃は気が遠くなる。
 朝、千亜妃は新聞で昨日の地上げ屋が車で海に転落して死亡したことを知る。
 布美子は千亜妃に睡眠薬が効かなかった理由を尋ね、千亜妃は、祖母が薬草集めを仕事にしており、それを手伝っているうちに、薬の効きにくい体質になったと説明する。
 これを聞き、布美子は千亜妃を毒草園に連れて行く。
 そこは布美子の夫が作りあげたもので、布美子は夫の魔術を受け継いで、私設の裁判を開いていた。
 薬草の知識を見込まれ、千亜妃は布美子の毒草園の管理を任せられるのだが…」

・「シャングリラの箱」(「レディースコミックミステリールージュ」1989年4月号)
「日野美里(20歳/短大生)は、K市の素封家、竜神武弥とその愛人、章子の間にできた私生児であった。
 武弥と章子は竜神屋敷の地下にある複雑な洞窟で逢引を重ねる。
 この洞窟は「シャングリラ(理想郷)」と呼ばれ、奥の迷路には、海賊だった竜神氏の先祖が財宝を隠したとも噂される。
 しかし、奥の迷路に入った者は皆、廃人となっていた。
 その後、二人の関係は弘江夫人にばれて、章子は裸同然でK市から追われる。
 章子は武弥にも内緒で、遠い町で美里を産み、彼女を育てる。
 十年後、竜神家では、長男の裕樹(13歳)が父親と口論の末、刺し殺して、失踪。
 時が流れ、事件の噂が立たなくなった頃、今度は弘江夫人が腐乱死体で地下洞窟で発見される。
 弘江夫人は殺人事件以降、家に閉じこもりきりで、地下洞窟に迷い込んで、病死したと結論付けられる。
 その後、竜神家の唯一の血筋にあたる美里が捜し出されたのであった。
 彼女は、探検部の哲夫と菅子と共に、竜神家を訪れる。
 だが、彼女が望むのは「シャングリラの中にある宝物」で、それは母親の願いでもあった。
 そして、彼女は異母兄の裕樹の無罪も信じていた。
 「シャングリラの中にある宝物」とは…?」

・「寝乱れの狩人」(「レディースコミックミステリールージュ」1989年8月号)
「天村真里子(25歳)は、会社の上司、宮野裕二(37歳)と不倫関係を続けていた。
 裕二は妻とは別れると言うが、結局は口だけで、真里子は虚しさを覚える。
 ある夜、会社の飲み会からマンションに帰ると、部屋の中に貞操強盗がいた。
 貞操強盗は最近、噂のレイプ魔であった。
 真里子は貞操強盗にレイプされ、絶頂に達してしまう。
 目を覚ますと、マンションの前が騒がしい。
 パトカーのサイレンが鳴り、警察官が忙しく立ち回っていた。
 真里子が見に行くと、裕二が胸を刺されて死んでいた。
 この事件は貞操強盗による初めての殺人とされ、また、真里子と裕二の不倫関係もマスコミに暴かれてしまう。
 真里子は会社を退職するが、ただ、貞操強盗が本当に犯人かどうかが引っかかる。
 彼女がマンションに帰ると、彼女の部屋の前に、宮野の妻が待っていた。
 彼女との会話から、事件は新たな展開を見せる…」

・「魅惑のプレリュード」(「レディースコミックミステリールージュ」1988年2月号)
「楠田瞳子(24歳)の夫、雅之はホテル・ジュエルのオーナーで、業界仲間からは「横取屋」と呼ばれていた。
 そのあだ名の由来は、他のホテルに決まりかけている大口のパーティー等を自分のホテルへ取ってしまうからであった。
 それができるのも、バックに大物の女性がいるからだと瞳子は考え、夫への疑心暗鬼に苦しむ。
 ある日、彼女は友人の冴子から、東京湾上のヨットで開催される「ビデオ鑑賞のパーティ」を勧められる。
 冴子は会員証を貸してくれて、また、主人は出張なので、瞳子は参加することにする。
 受付で瞳子は「シェラザード」のカードを渡され、パーティ会場で同じカードを持つ青年に声をかけられる。
 彼は彼女をエスコートし、束の間、彼女は楽しく過ごす。
 突然、会場の明かりが消え、ビデオの時間が始まるが、流された映像はブルー・フィルムであった。
 暗闇の中で皆、抱き合い、瞳子は戸惑うが、香水の香りが頭に浸みて、彼に抱かれてしまう。
 その香水は、雅之が大口を取る度につけて帰る香りであった。
 翌日、瞳子は冴子に、香水の主について尋ねに行く。
 だが、冴子はベッドの上で何者かに殺されていた。
 瞳子は急いで現場を去るが、部屋の前で、冴子の主人と鉢合わせてしまう。
 このままでは彼女が犯人にされるため、自分で真犯人を見つけるしかない。
 手掛かりはあのヨットで、港に行くと、偶然、あの夜の青年と再会する。
 彼からあの香水は「プレリュード」という媚薬だと教えられ、彼女はそれを扱う店を訪れる。
 店主の話によると、パーティの主催者は冴子らしい。
 だが、何故殺されたのか?、そして、瞳子を誘った理由は?と謎は膨れ上がるばかり。
 瞳子は雅之と話し合う決意をするのだが…」

 井出知香恵先生が1980年代後半にレディコミ雑誌に描いた「サスペンス&ミステリーもの」です。
 多少、荒唐無稽なところはあっても、ストーリーはちゃんと練られ、破綻がないのは凄いと思います。
 あと、後味が悪くないところもポイント高いです。
 個人的には、「魅惑のプレリュード」が、心揺らぐ人妻のヒロインによろめいて、好きです。

・備考
 経年の痛みや汚れあり。表紙に小さな欠け。

2022年1月31日・2月10日・11日 ページ作成・執筆

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