いばら美喜「午前0時の心霊写真」(1985年4月15日第1刷発行)

「梅雨真っただ中の六月十五日。
 麻衣子は、一年前に転校した親友の芳恵との再会を心待ちにしていた。
 芳恵は麻衣子に、別れた日の一年後に必ず会いに来ると約束していたのである。
 だが、約束の日になっても、一向に彼女が訪れる気配はない。
 翌日まで残り時間はわずかとなり、麻衣子が諦めかけたところ、午前0時の一分前に、芳恵が訪問してくる。
 彼女は、ひどい雨なのに、傘もささず、すぐに帰ると言う。
 そして、麻衣子に、自分は交通事故に遭い、植物人間になっていた旨、打ち明ける。
 しかし、今は「大丈夫」で「どんな遠くへでも行ける」と麻衣子を安心させる。
 麻衣子は芳恵を引き留めようとするが、麻衣子は逃げるように去り、その姿をすぐに見失う。
 快晴となった翌日、麻衣子の兄が、従弟の宏志の住む菅沼市に行くというので、麻衣子も兄と共に行くことにする。
 菅沼市は芳恵の引っ越し先でもあり、芳恵の安否を確かめるためであった。
 だが、連日の豪雨により、土砂崩れが起こり、電車が不通。
 一山越えれば、菅沼市なので、麻衣子と兄は歩いて行くことにする。
 二人が神社の前にさしかかると、赤ん坊を抱いた巫女さんが、麻衣子の兄にしばらくの間、赤ん坊を預かって欲しいと頼む。
 そして、赤ん坊を地面に絶対に付けないよう言い添え、どこかに走り去る。
 仕方なく麻衣子の兄が赤ん坊を抱いていると、どんどん赤ん坊が重くなり、終いには二人がかりでようやく赤ん坊を支えるという始末。
 もう限界…という時、巫女さんが戻って来て、その途端、赤ん坊は軽くなる。
 だが、赤ん坊と思ったものは、単なる切り株であった。
 巫女さんは実はその土地の氏神様であり、氏子が無事出産できるよう、麻衣子達に力添えをしてもらっていたのであった。
 麻衣子と兄は氏神様からお礼として御守をもらう。
 菅沼市に着いた麻衣子は芳恵の家を探すが、その家は葬儀の真っ最中であった。
 近所の人に聞くと、植物人間だった芳恵は昨夜の午前0時前に容体が悪化して、亡くなったとのこと。
 芳恵の死に呆然として、麻衣子が叔母の家に戻ると、そこでは兄と従弟の宏志が、御所車の話をしていた。
 菅沼市では六月十六日の深夜0時、鬼女の乗った御所車が通るという伝説があった。
 しかし、その御所車を見た者は、家族を含めて八つ裂きにされると言われており、詳しいことはわからない。
 麻衣子とその兄、宏志の三人は夜更け、家を脱け出し、御所車が通る沼の近くに待機する。
 言い伝え通り、鬼女の乗った御所車がやって来るが、御所車を写真に撮ろうとした宏志は、鬼女の一睨みでバラバラになる。
 慌てて、麻衣子と兄が叔母の家に戻ると、宏志の両親も同様に惨死していた。
 氏神様の御守のお陰で無事だった二人は、宏志達の仇を討つため、御所車をやっつけようとする…」

 一冊の中に、小泉八雲「約束」のような話、昔話にあるような赤ん坊が重くなる話、鬼女の乗る御所車の話、と三つの話が盛り込まれております。
 何かチグハグな印象がありましたが、改めて読むと、一応は筋が通っており、妙に感心してしまいました。
 見所は、鬼女の乗った御所車に復讐しようとするあたりでしょうか。
 どこか快作「疫病神」(貸本/東京トップ社)を彷彿させます。
 あと、ラストは意外や、感動的です。(見方によっては、かなり不気味ですが…。)

2017年5月14日 ページ作成・執筆

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