鬼城寺健「悪魔の赤ちゃん」(1986年7月15日第1刷発行)
「離島の小磯島に内地から派遣された、森山牧師とその家族(妻と姉妹の洋子とかすみ)。
夏休み、森山牧師の友人である早坂一家が休暇を過ごしに島を訪れる。
その頃、森山牧師は脇腹のおできに悩まされ、病院で診察を受けるにする。
レントゲンに写っていたのは、未発達の一卵性双生児と思しき、胎児であった。
医者は森山牧師には詳しいことを告げずに、胎児を摘出し、標本として保存する。
しかし、その胎児は生きており、標本瓶から逃げ出すのであった。
その夜、かすみは、黒装束の女性が、怪物のような赤ん坊に授乳している夢を見る。
その時に、女性が吹いていたのは、先日、洋子と化石探しをしていた時に手に入れた、ミヤシロ貝であった。
手術後、森山牧師は順調に回復し、日曜日の礼拝に立てるようになる。
が、礼拝の最中、人が変わったように、キリスト教に関するものを冒涜し始め、皆に取り押さえられて、寝床につかされるのであった。
その夜、かすみは黒ミサの夢を見る。
いつとも知れぬ昔、島の女性達が悪魔崇拝者達と乱痴喜騒ぎをしているのであった。
また、その夢には、前回の夢に出て来た女性も、祭壇に寝そべっていた。
どうもこの島には悪魔崇拝の過去があるみたいなのだが…。
そして、今、悪魔の使い、デビルズベビーが蘇えり、惨劇の幕が開くこととなる…」
断言しましょう。
鬼城寺健先生、「デッドリー・スポーン」(米/1983年)(注1)にインスパイアされて、このマンガを描いてます。
明らかにそのまんまなシーンがいくつもあります。(寝室での死体、料理会のシーン、デビルズベビーを解剖するシーン等。主人公の女の子がホラー映画マニアなのも、映画の影響?)
「悪魔の赤ちゃん」というから、ラリー・コーエンの同名映画(米/1974年)ぽいのかと思いきや、意表をつかれました。
あと、推測ですが、「魔鬼雨」(米/1975年/未見です)と、いばら美喜先生の代表作の一つ「悪魔の招待状」(立風書房)の影響もあるような気がします。
内容は「デッドリー・スポーン」の影響を受けているだけあって、徹底的にグロで、残酷描写はかなりハードです。(今現在から見ても、トラウマ度は高いです。)
が、どことなく「ほんわか」しているのも、大きな魅力。
お気楽かつのどかなサバトの描写(俺も仲間に入れろよ!!)、粘着テープのコロコロでデビルズベビーの群れに対抗する描写、笛の音に誘われたデビルズベビーの群れが小走りで押し寄せる描写(何か楽しそう)なんかは、なかなか心が和みます。
でも、私にとって、一番心にしみ入るのは、鬼城寺健先生がホラー映画を観まくったであろうことなのです。
鬼城寺健先生は「月宮よしと」または「月宮美兎」という名で、1950年代後半頃から、主に時代劇画で活躍していた、大ベテランでありました。
貸本時代は怪奇ものも含めて、時代劇画を大量に発表し、以降は雑誌を中心に作品を描いておりました。(怪奇マンガ以外はあまり詳しくないのです。すいません…。)
そんな月宮よしと先生が何故か立風書房のレモンコミックスで単行本を描き下ろすこととなりました。
んで、最近の子供向けの怪奇マンガを描くために、参考にしたのが、当時、全盛期だったホラー映画であったに違いありません。(ビデオ・バブルだったこともお忘れなく。)
恐らく、面白そうなやつを片端から借りてきて、いけそうな描写を作品の中にぶち込んだのではないでしょうか?
その方法に対する評価はともかく、当時、多分、四十代半ば〜五十代ぐらいだった月宮よしと先生が一人家で「デッドリー・スポーン」を観て、興奮していた情景を想像すると、私は何だか無性にほっこりしてしまうのです。
・注1
ホラー映画/スプラッター映画・ファンには有名な映画です。(ビデオ・ジャケットの画像をどうぞ。懐かしく感じる人もいるのでは…。)
内容は単純、「口だけの人喰いエイリアンが人間をかじりまくる」…以上!!
「こいつは喰うためだけに生まれてきた…」という名キャッチコピーが全てを表しております。
このエイリアンの造形は様々なジャンルで影響を与えていると思うのですが、検証は、私には荷が重すぎるので、他の方にお任せいたします。
ちなみに、この映画、メチャクチャグロい映画でして、いまだにカルト的な人気があるようです。
あと、少しばかり余談になりますが、長谷川裕一先生の「童羅」に出てくる、神父の死体は、「デッドリー・スポーン」の伯父の死体にインスパイアされたものと考えております。
(もしかしたら、偶然の一致もしくは勘違いということもありますので、一応、推測を述べるにとどめておきます。)
2016年7月1日 ページ作成・執筆