「ビッグ作家 究極の短編集 藤子不二雄A」(2013年5月5日初版第一刷発行)

 収録作品

・「黒イせぃるすまん」(「ビッグコミック」1968年11月号)
「青菜は勇気も体力もない、気弱な男。
 小学生からの付き合いである牛河にいくらいじめられても「うらみがましい目つき」をするぐらいが関の山という体たらく。
 ある夜、麻雀で大敗した彼のもとに「友愛事業団外務主任 喪黒福造」というセールスマンが訪れる。
 喪黒が売りに来たのは「友情」であった。
 そのために、彼を勇気づけ、強い男に仕立て上げる義務と責任があると話し、人形をプレゼントする。
 喪黒は、その人形に牛河の写真を巻いた後、黒猫の足を前に置き、銀の針で右手を刺す。
 翌日、牛河は針を刺した個所に怪我をしていた。
 この人形は彼をどう変えていくのだろうか…?」

・「ひっとらぁ伯父さん」(「ビッグコミック」1969年4月1日号)
「小池ミチオの家の二階に間借りすることとなったのは、ヒットラーそっくりの男性。
 彼は容貌だけでなく、言動や思考もヒットラーそっくり。
 「かわってるけど気は良さそうなおじさん」が「愚劣」な小市民達にもたらす「破壊」と「破滅」とは…?」

・「B・Jブルース」(「ビッグコミック」1969年9月25日号)
「初夏のある日の夕方。
 一人の日本人青年がバスでリノを訪れる。
 彼は一か月のアメリカ旅行で、資金が乏しくなり、カジノで増やそうと皮算用していたのである。
 その夜、百ドル札を懐にし、サングラスでクールにきめて、カジノに入る。
 ブラック・ジャックで勝負するも、女ディーラーに翻弄され、たったの一時間で百ドルをすってしまう。
 しょぼくれた彼がやけくそでキノ(ビンゴのようなゲーム)をすると、これがなんと500ドルに化ける。
 この金で彼は先ほどの女ディーラーにリベンジを挑むのだが…」

・「赤紙きたる」(「ビッグコミック」1971年10月10日号)
「小池伸一はアニメ・スタジオに勤める、平凡な青年。
 ある日、彼のもとに「臨時召集令状」が届く。
 最初は冗談だと思うが、赤紙が届いてから、一人の男が彼をずっと監視するようになる。
 出頭日の日曜日はどんどん近づいてきて…」

・「田園交響楽」(「ビッグコミック」1972年11月10日号)
「霧隠峠で車がエンコし、道を歩いているうちに、すっかり迷ってしまった男性。
 彼は「理想的な牧歌的な風景」の中に出て、感激する。
 どこからか半鐘の音が聞こえ、その方向に向かうと、面をかぶった少年に出会う。
 少年は早く帰った方がいいと警告し、男の顔に蛇を投げつける。
 それでも、こりずに男は先に進むと、村に着く。
 村人達は総出で彼を出迎え、歓迎するのだが…」

・「五百億円の鼡」(「週刊漫画サンデー」1972年5月20日号)
「海上自衛隊の輸送艦「おおしま」「しきしま」が、沖縄の円ドル交換のための五百億円の現金を積み、東京湾を出動する。
 輸送艦隊は護衛艦や大型哨戒機に守られていたものの、輸送艦内部でトラブルが発生。
 それは、妻子を何者かに人質にとられた隊員が艦内に放った、三匹のネズミであった。
 このネズミには小型の次元爆発装置が埋め込まれており、艦内では隊員達がネズミを追う。
 しかし、ネズミは三匹だけでなく…。
 何者の仕業なのであろうか…?」

・「シンジュク村大虐殺」(「ヤングコミック」1972年12月13日号)
「多種多様な人々が行き交う新宿。
 午後八時の歌舞伎町で、一人の米兵が、客引きの女性に誘われて、バーに入る。
 一時間後、彼は法外な値段を請求される。
 バーの連中は彼を脅すが、バーの外には、昨夜、この店でぼったくりにあった彼の友人が待ち構えていた。
 そして、戦闘の火ぶたが切って落とされる…」

・「北京填鴨式」(「ビッグコミック」1970年4月10日号)
「香港に観光に来た日本人観光客達。
 一行は水上レストラン、難民アパート、北京ダックの飼育場と見て回る。
 観光客の中に、元・陸軍大尉の剛田勇三という粗暴な男がいるが、いくら無礼を働かれても、ガイドの仁は笑顔を全く絶やさない。
 旅行最後の夜、仁は九竜城には決して近づかないよう釘を刺すのだが…」

・「水中花」(「ビッグコミック」1970年5月25日号)
「菊坂はお金持ちのボンボンであったが、母親に言われ、亡くなった父親の友人の会社に勤める。
 と言っても、気弱な彼は大した仕事もできず、先輩の進藤にたかられていた。
 そんな彼を望月慶子という女性社員だけが気にかけてくれ、彼は彼女に恋心を抱く。
 彼は彼女に「水中花」をプレゼントするが、進藤に彼女の秘密を知らされる。
 ある日、彼は彼女を夕食にさそい、彼の自慢の水中花を見せるのだが…」

・「マグリットの石」(「ビッグコミック」1970年5月10日号)
「田舎から単身上京し、予備校に通う陰間鏡二。
 彼は古本屋でルネ・マグリットの画集を見て、「ピレネーの城」に衝撃を受ける。
 買おうと思ったものの、あまりの高値で手が出ない。
 以来、彼の頭には石の絵が消えず、強迫観念と化す。
 画集を見ている間だけ、彼の心は平穏を取り戻すのだが…」

・「巻末特別インタビュー 藤子不二雄A」

 藤子不二雄A先生が逝去されました。
 トキワ荘出身、かつ、藤子・F・不二雄先生(注1)とのコンビを組んでいたことで有名ですが、それを差し引いても、漫画の可能性を押し広げた多大な功績は称賛しすぎることはありません。
 怪奇マンガについて言えば、「奇妙なもの」を追求し、「ブラック・ユーモア」「シュールレアリスム」「狂気」という要素を貪欲に吸収して、独特な境地を開拓いたしました。
 また、子供時代の体験をベースにした「魔太郎がくる!!」は「いじめを真正面から扱った漫画」の先駆けの一つでありましょう。
 現在の怪奇マンガにとって、藤子不二雄A先生の作品が大きな礎の一つであることは疑う余地がありません。
 そんな藤子不二雄A先生のエッセンスに触れるのに、この短編集は最適だと思います。
 目玉はやっぱり「シンジュク村大虐殺」。脳みそが芯からシビれるぐらいアナーキーで、社会風刺なんて次元を遥かに飛び越えてます。
 あと、「水中花」は、すっかり見過ごしていた小品ですが、読み込むと、かなり怖かったです。(注2)

・注1
 人気の高い藤子・F・不二雄先生と比較されるせいで、A先生はいまだちゃんと評価されていない気がしております。
 F先生は徹底して「SF」作家でした。
 一方のA先生は多趣味な方で、いろいろなことに「好奇心」を示したため、どこか散漫な印象があると思います。
 その点に関しては、今後、積極的に検証され、再評価がなされることでしょう。

・注2
 藤子不二雄A先生の作品はアクが強くて、好き嫌いが分かれそうですが、「読み込むと怖い作品」が多そうな気がしております。
 「明日は日曜日 そしてまた明後日も……」とか「なにもしない課」とか…。

2022年4月7日(RIP 藤子不二雄A先生) ページ作成・執筆

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