伊藤潤二「ブラックパラドクス」(2009年4月4日発行)

 収録作品 ・「ブラックパラドクス」(「週刊ビッグコミックスピリッツ」2004年9月16日増刊号〜2005年7月24日増刊号/「スピリッツ増刊 YSスペシャル」vol.4 vol.5)
「第1話 集団自殺」
 駅前に集まった4人の男女。
 「タブロー」〜若い今風の男性。
 「ピータン」〜大学でロボット工学を専攻している男性。
 「マルソー」〜看護婦の若い娘。
 「薔薇っち」〜ぱっと見は美人だが、髪で隠している顔の半面は醜いアザで覆われていた。
 彼らは自殺サイト「ブラックパラドクス」の仲間で、これから集団自殺しようとしていた。
 自殺場所に行く途中、車内で彼らは自殺する理由について話す。
 「タブロー」は、自分のドッペルゲンガーに悩まされ、死がやって来る前に、死のうと考えいた。
 「ピータン」は、研究室で開発したヒューマノイドのモデルとなったが、あらゆる点でヒューマノイドが優れており、マスコミに発表される前に、自分は消えようと考える。
 「マルソー」は、未来の予知能力が多少あり、将来、自分の身に降りかかる数々に対する「漠然とした不安」に苦しんでいた。
 「薔薇っち」は、鏡を見る度に、生きる意欲を失いっていたが、更に、鏡の中の自分が「死ね…死ね…」と言ってくるという。
 各人の打ち明け話が終わった後、マルソーは、追い越しをかけた車に自分達の分身が乗っていることに気付く。
 更に、ピータンや薔薇っちにはおかしな点があり、タブローとマルソーは逃げ出すのだが…。
「第2話 幽門奇談」
 4人組は再度、自殺を図る。
 今度は睡眠薬自殺だが、マルソーの話に不安を抱き、タブローと薔薇っちは薬を飲まず、ピータンだけが死んでいた。
 突如、ピータンは呻き出し、吐瀉物と一緒に、口から奇妙な球を吐き出す。
 彼は、「光り輝いていた…まばゆいばかりの世界」にいて、その世界には、吐き出した球があるらしい。
 宝石に詳しい薔薇っちは球を鑑別に出すと言い、自殺は延期となる。
 自宅に球を持ち帰った薔薇っちは、その球の中に奇妙な世界を見て、球の秘密に気付くのだが…。
 また、ある日、ピータンが、マルソーの勤める病院を訪れる。
 彼は、最近、妙なものを吐くので、胃の調子を診るよう頼む。
 医者が彼に胃カメラを飲ませて、中を覗くが、彼の幽門部には…?」
「第3話 パラドナイト」
 ピータンの身体から出てきた球は「パラドナイト」と命名され、新発見の宝石として高値がつく。
 しかし、球で腹部が破裂したピータンの行方は杳として知れない。
 タブローと薔薇っちが、ピータンが破裂した場所でパラドナイトを探すと、ピータンそっくりのロボットを発見する。
 ロボットは電池が切れて、動かないが、彼らはそれを薔薇っちのマンションに持ち帰る。
 そこで、彼らは、パラドナイトの知られざる威力を目の当たりにする…。
「第4話 須賀医師の別荘」
 パラドナイト成金となったタブローと薔薇っちは、パラドナイトが原因の事故が連続したため、公安警察に追われることとなる。
 二人は、ピータンの行方を突き止めるため、マルソーを尾行すると、彼女は病院の須賀医師と一緒に彼の別荘に行く。
 彼女は不安感に絶えず付きまとわれていたが、別荘に来ても、不安は増大する一方。
 彼女が須賀医師を捜すと、地下室で多くのパラドナイトを目にする。
 その部屋のプールの中にあるものとは…?
 一方、薔薇っちは、アザが急激な変化を起こし、別荘に駆け込む。
 彼女は須賀医師にアザを切り取って、移植手術するよう求めるが、彼女のアザに起こった異変とは…?
「最終話 まばゆい未来」
 須賀医師の予想通り、4人の「門」は探し出され、彼らは別世界とこの世を行き来することとなる。
 彼らが持ち帰るパラドナイトが人類の未来にどう影響するのであろうか…?

・「舐め女」(2005年「週刊ヤングサンデー」第24号)
「夜、「舐め女」に身体を舐められるという事件が連続する。
 「舐め女」に舐められた人は、その部分に異常を起こし、急死してしまう。
 美来は、恋人のツヨシと飼い犬を殺され、復讐に燃える。
 ある夜、舐め女は自警団に捕まるが、殺人の物的証拠はなく、精神病院に送られる。
 数年後、あるカフェ・バーで、美来は、長岡という女性に話しかけられる。
 彼女も美来と同じ、舐め女の被害者で、いまだにトラウマを抱えていた。
 彼女によると、舐め女が精神病院から退院したという。 
 美来は、長岡の提案により、舐め女を抹殺する決意をするのだが…」

・「怪奇パビリオン」(2006年「週刊ヤングサンデー」第15号)
「2105年の万博会場。
 万博の目玉は、絶滅した鵜を最新技術で蘇らせた展示パビリオンなのだが…」

 「ブラックパラドクス」は、第1話のラストで拍子抜けをして、長い間、食指が動かなかったのですが、実際に読んでみると、伊藤潤二先生の剛腕が炸裂している快作でありました!!
 絶対に予測不可能な展開が続出で、読み進めていくうちに「なんで、こ〜なるの?!」というシャウトが頭でこだましまくりです。
 それでも、大きな矛盾はなく、全体として、それなりにまとまっているのが凄過ぎです。
 伊藤潤二流「オカルト漫画」なのでしょうか?
 アイズナー賞を受賞した「地獄星レミナ」が好きな人なら、必ず楽しめると断言します。(言い換えると、初心者向けではない…かな…)
 ちなみに、余談ですが、看護婦姿の「マルソー」は、伊藤潤二・美女の中でも個人的ベスト・5に入るね!!
 あと、「怪奇パビリオン」の妙チクリンなユーモアにウットリです。
 このユーモア・センスとはまると、脱け出せません。

2021年8月8・23・24日 ページ作成・執筆

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