彌崎光・原作 那須輝一郎・漫画「滅菌部隊」(1984年4月25日初版発行)

「南アルプスの山中。
 とある山奥で、一機のヘリコプターが墜落する。
 瀕死の乗務員は、間一髪爆発するヘリコプターから脱出したが、力尽きてしまう。
 乗務員の持っていた箱の中には、2匹のネズミを入れた籠が入っていた。
 舞台は変わって、長野県のとある分校。
 ある少年が偶然にそのネズミを手に入れてしまう。
 少年が原因不明の熱を出すのと時を同じくして、白尽くめの防御服を着た部隊が学校を訪れ、先生・生徒を監禁してしまう。
 分校の保険医である主人公は、いち早く病状を見抜き、その病気に旧日本軍の「731部隊」(石井部隊)が関わっているのを知る。
 石井部隊は米軍に協力することで、戦後を生き延び、細菌兵器の開発に携わっていたのだった。
 このままではモルモットになるばかりと、武器を奪い、子供たちを連れ、逃げ出す先生たち。
 校長、用務員は逃亡の途中で射殺され、主人公の保険医も重傷を負って捕らわれの身となる。
 女教師は子供と共に山中を逃げ惑うが、米軍は執拗に彼らを追い詰めていく。
 その最中、子供たちが…そして、女教師も発症し始めた…。」

 出版は1984年ですが、連載は1982年の11月から12月にかけての、5週に渡っての短期集中連載でした。(注1)
 少年ジャンプ全盛期の初めに、こんなマンガが出ていたという事実だけでも凄いと思います。
 当時のジャンプは乗りに乗っていて、才能のある漫画家さんにかなり恵まれていたにもかかわらず、何故斯様(かよう)にヘビーな、新人漫画家の漫画を載せたのか理解に苦しみます。
 推測ですが、当時の編集さんにかなりチャレンジャーなお人がおられたのかもしれません。
 その志(こころざし)は、尊敬に値すると思いますが、内容がちっとも子供向けでなかったのでした…。

 少年ジャンプにしては、えらく本格的かつヘビーなストーリーです。
 やっぱり、読者の年齢がもう少し高めの雑誌で連載した方が読者の嗜好に合っていたのではないでしょうか。
 台詞も難しいものばかりです…『間接蛍光抗体法』とか『表情痴鈍』とか言われても、小学生にはちんぷんかんぷんだと思います。(私にもよくわかりません…。)

 加えて、火に油を注ぐかの如く、トラウマ描写の数々!!
 よく話題に上がるのが、小学生を『消毒』(注2)するシーンです。
 ああ、やっちまったよ…。
 このシーンだけで何故ジャンプコミックスで出なかったのか、何故に再版されなかったのか薄々想像がついてしまいます。
 そのほかにも、子供の解剖死体の描写や、猟犬の頭に鉈を叩き込むシーン等あって、こちらの(歪んだ)期待にガンガン応えてくれます。
 ただし、残念ながら、当時の読者であるチビっ子達に、ますます敬遠される結果となってしまいましたが…。

 推測ですが、この漫画の原作者の彌崎光先生に最も影響を与えたのは、1981年に刊行されてベストセラーになった森本誠一『悪魔の飽食』(注3)でしょう。
 加えて、1976年の細菌パニック映画『カサンドラ・クロス』(未見)の影響も、白尽くめの部隊の描写に表れていると思います。
 が、個人的には、1973年のジョージ・A・ロメロ監督(注4)『ザ・クレイジーズ』に似た手触りを強く感じてしまいます。
 この映画は、細菌パニック映画の先駆けの一つとして、低予算のローカル映画でありながら、カルトの古典となっております。
 そのまんま白尽くめの部隊といい、封鎖された町からの脱出劇といい、無駄にテンションの高い残酷描写といい、問答無用のハードさといい、ジャンプで連載されたもののろくに話題にもならず、復刻もされずマイナーなまま埋もれていった、この漫画に共鳴するものがあるような気がするのは、私のうがち過ぎた意見でしょうか?

 ああ、そうそう、もう一つ、このマンガには有名なシーンがあります。
 ネタバレになるので、詳しくは触れませんが、「女教師と子供たちの一行が、トラックを停めようとする、その方法」なのです。
 いやはや、新手のヒッチハイクとして、全国…いや、世界中の婦女子の間で流行ることを祈ってやみません。

 最後に、このマンガで一番怖かったのは、あえて病原菌の実験台になる、主人公である保険医の台詞(p113)。
『やってくれ、徹底的にだ!!
 血液・尿・髄液、なにもかも検査するんだ!!
 腎臓もかた一方くれてやる!!』

…あんた、漢だよ…。
 やっぱり、週刊少年ジャンプの主人公はどんなマンガでも熱血漢なのでした。
 でも、腎臓までくれてやった人は、この人だけだと思います…。
(吉田戦車先生のマンガには、そういう相撲取りがいたような記憶がありますが、「関取の午後」だったかな?)

・注1
 この情報は、学帽番長さんの『思い出の週刊ジャンプ』というサイトを参考にさせていただきました。
 それにしても、80年代のジャンプ全盛期以前の、70年代のカオスっぷりが凄い!!
 本宮ひろし『男一匹ガキ大将』、川崎のぼる『荒野の少年イサム』、永井豪『ハレンチ学園』『マジンガーZ』、吉沢やすみ『ど根生ガエル』といった、漫画史に残る傑作から、度外れ野球マンガの中島徳博『アストロ球団』、もはや説明不要の中沢啓治『はだしのゲン』、スカトロ・ギャグ・マンガとりいかずよし『トイレット博士』、人類絶滅ものの佳作小室孝太郎『ワースト』、あのドリフターズを漫画した榎本有也『漫画ドリフターズ』(未単行本化…残念!!)、復刻不可能と言われつつ、復刻されたジョージ秋山『ばらの坂道』、あらゆる意味で伝説のマンガ中本繁『ドリーム仮面』…etc,etc…眩暈がしそうです。
 ちなみに、「滅菌部隊」が連載されていた頃の作品は、
 鳥山明『ドクター・スランプ』、高橋陽一『キャプテン翼』、新沢基栄『ハイスクール奇面組』、ゆでたまご『キン肉マン』、北条司『キャッツ・アイ』、江口寿史『ストップひばり君』、etc…。
 な、懐かしい…。あれから、もう云十年…。

・注2
 「北斗の拳」直撃世代の皆様にはもはや常識ですよね。
 『汚物』→『消毒』→『火炎放射器』 なのであります。
 ちなみに、このマンガ、「北斗の拳」以前に「汚物を消毒」している点も、ポイント高いと思います。

・注3
 当時は大ベストセラーになった『悪魔の飽食』ですが、現在では、資料に関して信憑性に疑いが多々持たれています。(と言うか、ほとんどが捏造…)
 ネットで調べてみても、情報が錯綜していて、よくわかりません。(○○党とかいろいろ絡んでいるみたいです。)
 とりあえずは、日本軍が人体解剖してた事実は事実として潔く認めましょう。
 でも、捏造なんかしちゃったら、それこそ朝○人や中○人と一緒ではありませんか!!
 そこが…やりきれません…。

・注4
 ジョージ・A・ロメロは米国ピッツバーグの映画監督です。
『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』『ゾンビ/ドーン・オブ・ザ・デッド』『死霊のえじき/ディ・オブ・ザ・デッド』のゾンビ三部作で、ホラー映画史に永遠に名を残しました。
 1970年代には、『ザ・クレイジーズ』や『マーティン』(未見)といった佳作を残しております。
 最近も、いまいちとは言われ続けながらも、ゾンビ映画をつくり続けております。(全くチェックしておりません。)
 インディペンデント映画監督の鑑と言えますでしょう。

 あと、補足ですが、『ザ・クレイジーズ』は日本未公開なので、1980年代のビデオ・バブルの時代にならなければ、簡単には観ることができませんでした。
 ただ、「第2のかサンドラ・クロス 細菌兵器に襲われた街」のタイトルで、テレビ放映されたことがあるようなので、原作者の弥崎光先生は観たことがあったかもしれません。

2011年2月6日〜10日 もととなる文章を執筆
2016年6月29日 ページ作成・加筆訂正

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