わたなべまさこ「百鬼夜行」(1999年10月25日第1刷発行)

 収録作品

・「百鬼夜行」
「白河正吾はE大付属病院の外科医。
 医師としての毎日は多忙で、独身であったが、年上で料理屋を営む深町夕希子という恋人がいた。
 いつからか彼は何者かの粘りつくような視線をいろんな所で感じるようになり、また、見知らぬ女性からラブレターが何通も届く。
 とは言え、あまりに多忙な生活のため、彼は大して気にかけていなかった。
 ある日、深町夕希子の店で食事していると、女性が飛び降り自殺を図ったとの連絡が入る。
 女性は下半身がぐちゃぐちゃになるほどの重体で、その女性を一目見て、正吾は彼女こそがあのストーカー女だと知る。
 その女性の名は音島涼子といい、瀕死の状態でありながら、彼への執念は凄まじかった。
 ある夜、正吾が夕希子と愛し合っていた時、音島涼子は血まみれになってベッドから這い出てきて、正吾を呼ぶよう求める。
 これが原因で涼子は亡くなるが、当然、成仏などするわけがなく…」

・「魔の刻」
「加美山リリ子は宮川一平と二年前から同棲する。
 一平は売れない漫画家で、リリ子がスナックで働いて、彼を養っていた。
 彼女の夢は通勤途中にあるシルク・マンションで暮らすこと。
 ある夜、スナックからの帰り道、そのシルク・マンションの前で立ち止まると、血の色をした丸い月がマンションの背後に登っていた。
 リリ子が月を見つめていると、足元で闇が蠢き、血の月は三つ願いを叶えてくれると告げる。
 リリ子はあのマンションに住みたいと心から願い、帰宅すると、一平のライバル漫画家が急死したため、彼に仕事が舞い込んでいた。
 一平の漫画は大ヒットし、リリ子はアメリカの親戚から莫大な遺産を相続、更に、宝くじの一等が当たり、二人は大金持になる。
 一平はリリ子のためにあのマンションを購入し、彼女の望みは叶ったかに思えたのだが…。
 彼女があと二つの願いとは…?」

・「痩女」
「子供を欲しがらない妻と孫を望む祖母の諍いから逃れるため、博史は八甲田山麓にある蔦湯に向かう。
 そこで彼は、空中に向かって、誰かが存在するかのように話しかける男を見かける。
 博史はその男と宿が一緒で、晩、博史はその男と酒を飲むこととなる。
 男は博史に、六か月前に死んだ母親と旅行をしていると話し、ことの経緯を語り始める。
 男は柴田鉱太郎という名で、丸の内の一流企業の元・部長であった。
 小学校の頃、父を亡くし、教員をしていた母親が女手一つで彼を育て、大学にも行かせてくれる。
 結婚後、二人の男児にも恵まれ、母親は孫の面倒もよくみてくれた。
 しかも、母親の貯金で、所沢に土地付きの家を購入。
 順調満帆のように思えたが、家で彼の母親と嫁の確執が表面化していく。
 嫁の母親に対する態度は徐々にきつくなっていくも、母親は決してことを荒立てようとはしない。
 鉱太郎もそれを横目で見つつ、仕事を理由に関わり合いを避けていたのだが…」

・「姉妹」
「フランス、パリ。
 ジャンヌ・ドーレイは私立高校一年生の娘さん。
 彼女は母親に買い物を頼まれた際、流行のセーターが欲しくて、気が付くと、売り場からかなり離れた場所にいた。
 それを不良のニコルに見つかり、何度も脅迫され、金をせびられる。
 彼女がノートルダム寺院から身投げをしようと考えていると、見知らぬ少女が話しかけてくる。
 少女の名はノラで、ジャンヌのことを何でも知っていた。
 彼女は自分がニコルを殺す代わりに、ジャンヌに自分の姉のミレーユを殺すよう交換殺人を持ちかける。
 ジャンヌは怯えるが、一週間後、ニコルはノートルダム寺院から転落死する。
 ジャンヌはノラから次はジャンヌの番だと電話で連絡を受けるのだが…」

・「メデューサの涙」
「江藤は考古学者で独身。
 中学校時代からの友人で洋画家の笠原宗介から電話があり、二人は料理屋で飲むこととなる。
 その時、江藤は笠原からマンションの鍵を見せられる。
 これは涙(るい)という女性のマンションの合い鍵で、ある銀行の支店長が死ぬ前に彼に譲られたのだと言う。
 笠原によると、この女を囲った男達は皆、月は違っても9日に死んでおり、女は男が死ぬ前に次の男に渡されていた。
 そして、涙は「男のための人形」「生れついての娼婦」という。
 江藤は笠原に涙のマンションに連れて行かれるも、笠原の態度を不潔に思い、江藤は帰る。
 後日、笠原はアテネで心臓麻痺により死亡。
 彼が生前に送った荷物の中にはあの鍵があり、江藤は涙のマンションを訪れる。
 彼は涙に笠原の死を教え、彼女に自分を大切にして、こんな生活を終わらせるよう諭す。
 そんな彼を涙は突き飛ばし、死神である自分に近づかないよう言って、バスルームで手首を切って自殺を図る。
 涙は一命を取り留めたものの、翌日、病院から抜け出て、行方不明となる。
 江藤は彼女を捜すため、涙の男達の関係者を次々と訪ねていくと…」

 どの作品も素晴らしいのですが、個人的に感銘を受けたのは「百鬼夜行」と「メデューサの涙」。
 「百鬼夜行」はストーカー女の怨霊が男を死の世界に招く内容ですが、これだけに終わらせません。
 最後には女の意地と覚悟が炸裂しており、実にわたなべまさこ先生らしいです。
 「メデューサの涙」は「ファム・ファタル」ものですが、ストーリー展開の巧みさに唸らされます。
 余韻のあるラストが何とも形容しがたい読後感をもたらします。

2024年1月31日・6月1日 ページ作成・執筆

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