戸田誠二「憑依師@」(2018年6月30日第1刷発行)

 クロカワは社会から疎外され続けた青年。
 彼は母子家庭で育ち、中学卒業後、バイトを始めるも、職場では人間関係をうまく築けなかった。
 18歳の時、アル中の母親が失踪し、その後、彼は悪い仲間とつるみ、年配の女性を狙って、ひったくりを繰り返す。
 ある夜、ドラッグでハイになった彼は道路にとび出し、車に轢かれて死亡。
 彼の魂の前に「死神」が現れ、「憑依師」として死神の下で働くよう命じられる。
 「憑依師」とは「死者の霊魂を自分の体に憑依させて現世に戻り、その死者の願いを叶える役割を持つ死神」であった。
 クロカワは憑依師として様々な死者と関わることとなるが…。

・「第1話 母と娘」
「高野智子は53歳で心不全により亡くなる。
 彼女の心残りはもう少し娘のそばにいたいということであった。
 娘のマキが大学二年生の時、イラストレーター志望のマキと智子は大げんかをして、マキは家を出ていく。
 それから、五年間、ほとんど家に帰らず、仲直りしないままに智子は亡くなってしまった。
 そこで、娘にもう一度会って、娘がどのような生活をして、どのように考えているのか知りたいと願う。
 智子はクロカワの体を借りて、成瀬という中年女性となる。
 彼女は智子の親友だったとマキに名乗り、しばらくの間、自分と一緒に暮らしてくれるよう頼む。
 しかし、生前からの過干渉の癖が出てしまい、マキに一旦引き取ってもらうよう言われてしまう。
 ガッカリする智子にユキ(クロカワのパートナーの黒猫)はとりあえずは距離を置き、霊魂になって、娘の様子を見るよう勧める。
 マキはいろんな場所でイラストレーターとして活躍をしており、その活き活きとした姿に智子は衝撃を受ける。
 智子はマキにしてあげられることがないのか苦悩するが…」

・「第2話 友達」
「佐々木達夫は75歳で交通事故死する。
 彼は元・フレンチの料理人で、そんな彼の心残りは友達の福田和夫のこと。
 福田和夫は青年時代から一緒に料理の修行をした仲で、引退後、がっくりきているところに友人の訃報を聞いて更に意気消沈しているのではないかと佐々木は心配していた。
 福田のマンションに行き、見てみると、福田の様子は想像以上に悪い。
 実は佐々木の死の後、彼は妻も亡くし、更に、糖尿病持ちで膝も悪く、生きる気力をすっかりなくしていた。
 佐々木は福田を元気づけるため、自分の得意料理を食べさせてあげたいと願う。
 そのためには、介護食や糖質制限食のレシピを考え出さねばならない。
 佐々木はクロカワの体に憑依し、50歳の鈴木という男性になる。
 だが、本で調べるには限界があり、介護食レシピの本を書いている大野亮二という若者のレストランに下見に行く。
 佐々木は料理の味に納得し、大野に一週間、レストランで勉強させてくれるよう頼み込む。
 大野の信頼を得た後、佐々木は自分の料理を糖質制限食で再現するよう努力を傾けるのだが…。
 彼の想いは友人に届くのであろうか…?」

・「第3話 女優」
「女優の石井アスカは28歳で交通事故死する。
 彼女はつらく暗い半生を送るが、ある劇団で初めて解放感と自分への肯定感を持つことができ、女優として生きる決意をする。
 しかし、ある時から芝居が楽しくなくなり、それにより芝居の覇気が低下し、仕事も減少。
 結局、スランプから脱出できないまま、彼女は死んでしまったのであった。
 一応、アスカは生き返ってみるものの、何もかもが面倒臭い。
 そんな時、彼女は石井アスカの追悼公演の企画を知る。
 企画したのは脚本家の佐藤亮介で、生前の彼女と関係があった。
 アスカはクロサワに憑依し、宮下レイという女性になる。
 彼女はアスカ役のオーディションに応募し、見事、合格する。
 芝居の名は「ボーダーライン」で、これは佐藤が生前のアスカを再起させるために書いたものであった。
 この脚本に込めた佐藤の想いとは…?
 そして、アスカはその想いに応えることができるのであろうか…?」

・「第4話 障がい者」
「望月ショウは14歳で病死した少年。
 彼は小学校三年で悪性腫瘍を発症し、半年のつらい治療の後、治るも、後遺症がひどく、車椅子の身となる。
 母親はずっと嘆いてばかりであったが、彼の病気が再発してから、急に笑顔になり、彼を様々な場所に連れて行き、いろいろな人に会わせる。
 だが、彼はその母親の真意に気付かないまま、死んだと考えていた。
 それを知るために、ショウは車椅子の身の田中シュンイチ(20歳)になる。
 彼は学生ボランティアたちと一緒に旅行に出るが、障害者故にどこに行っても気を遣わねばならず、人に迷惑をかけてばかり。
 彼は徐々にやる気をなくし、旅行を止めようとするのだが…」

・「第5話 自死者」
「川井志保は39歳で首吊り自殺をした女性。
 彼女は惨めな人生を考慮され、地獄行きか、憑依師になるかと選択できる。
 とりあえず、一か月の間、他人として生き返ることができるが、彼女は現世に何の未練も望みもなかった。
 クロカワは彼女を体に憑依させるも、彼女は彼の好きに使っていいと言って、何もしようとしない。
 クロカワはこれ幸いと遊びまくるが、段々つまらなくなる。
 ある時、彼は彼女から彼女の生い立ちを聞く。
 それは、世の中に「必要」にされたいと願い、努力しながらも、「不必要な人間」として山中で自殺してしまう女性の話であった。
 彼女は死んだら楽になると思っていたが、もっと「重くなった」と話す。
 彼は彼女に残された時間のことを考え、短期のバイトに応募する。
 それはあるデパートでの服運びの仕事であった。
 体はクロカワが動かし、彼女は憑依しているだけでいい。
 だが、彼女は仕事ではいろいろとトラウマを刺激され、体からしばしば抜ける。
 あの世に行くと言う彼女を説得し、クロカワは仕事を続けるのだが…」
(「第1話」〜「第4話」はホーム社漫画サイト「ぷら@ほ〜む」「画楽の杜」にて2014年〜2016年に執筆。第5話は描き下ろし。)

 知名度はあまりないと思いますが、傑作です。
 裏表紙に「生きる意味を問うLIFEファンタジー」とあるように、オカルト風の設定ですが、ホラーの要素は皆無です。
 また、ファンタジーと言っても、浮世離れしたところは微塵もなく、生と死について真剣に考えさせられるヒューマン・ドラマが根本にあります。
 このドラマが深い、実に深い…。
 私たちは普段「死」など考えずに安穏と生きておりますが、この作品は「生きている間(肉体を持っている間)でないとできないこと」を否応なく目の前に突き付けてきます。
 ある守護霊様が言うことには、人間は未来のことがわからず、不安に苦しまないといけないけど、肉体を持っていないと体験できないことがたくさんあるそ〜な。
 その大切さというものをここまで説得力を持って描いた点に心を揺さぶられました。
 ちなみに、個人的なベストは「第2章 友達」。
 安直なグルメ漫画など、コッパミジンにする素晴らしさで、読む度に涙腺が緩みます。

 最後に、悲しいかな、この作品、単行本で@巻までしか出ていない模様です。
 巻末には第二章の予告が載っておりますが、ネットで調べても情報がないので、結局は描かれなかったのではないでしょうか?
 もしも、戸田誠二先生にまだ描く意欲がおありなら、どうにか続きを描いていただきたいものです。
 中途半端に終わらずには、惜し過ぎる作品です。

2025年9月1日 ページ作成・執筆

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