菊川近子「赤い爪あと@」(1980年3月30日第1刷・1985年9月15日第12刷発行)
      「赤い爪あとA」(1980年4月30日第1刷・1982年11月15日第9刷発行)

 収録作品

・「赤い爪あと」(「週刊マーガレット」昭和54年37号〜昭和55年6月号に連載)
「ある夕暮れ、東京のとある町に落ちた流れ星。
 その流れ星には宇宙アメーバが潜んでいた。
 宇宙アメーバは、落下地点の付近に住む早瀬佐和に憑りつき、吸血鬼と変える。
 吸血鬼と化した佐和は、友人の村上郁子を執拗につけ狙う。
 次の吸血鬼の犠牲者は誰…?」
 怪奇マンガにおいて、まさしく「歴史的名作」であります。
 オカルトものに傾いていた、1970年代の少女怪奇マンガを、パワフルな「ゲテモノ」怪奇マンガの方向へ揺り戻した功績は、私のへっぽこな脳ミソではとても書き尽くせません。
 ストーリーなど二の次で、宇宙アメーバに操られる吸血鬼の凶行が延々と描写されます。(二巻に入ってからの学校での殺戮はいい感じ。)
 スプラッター・ホラー映画と共に、1980年代の怪奇マンガに大影響を与えた点で、見逃すことのできない作品です。
 個人的には、少女漫画雑誌の怪奇マンガと、ひばり書房を代表するB級怪奇マンガをリンクさせた作品なのではないか?と考えております。
 内容に関しては、「口裂け女」の影響もあるでしょうが、根幹には「吸血鬼ゴケミドロ」(1968年/注1)があると断言します。(ラストも一緒です。)
 それにしても、人によってはこの作品の「怒涛のリフレイン」を、安直に過ぎ、深みに欠けると思うでしょう。
 でも、この作品がなかったら、もしかすると、1980年代後半〜1990年代の怪奇マンガの隆盛はなかったかもしれません。
 その頃、デビューした伊藤潤二先生や犬木加奈子先生は、皮相的で子供だましの「ゲテモノ」怪奇マンガから脱し、新たな境地を開拓すべく、鋭意努力を重ねたのでしょうから。
 良くも悪くも「ゲテモノ」怪奇マンガの傑作だと思います。

・「P.S アイラブユー」(「週刊マーガレット」昭和47年2・3合併号に掲載/二巻に収録)
「継母に対する距離感を拭えず、ひねくれて成長したジュード。
 いい年こいてるくせに、常につきまとう寂しさから、仏教にかぶれ、ワケのわからない行動を繰り返す。
 父親はそんなジュードを心配し、気分転換のため、海外旅行をさせる。
 ジュートはインドに自分の求める愛があることを信じ、恋人気取りのレシーヌと共にインドに向かう。
 ガンジス河沿岸で、ジュードはルイゼ・マングースとジェレミーの母子と出会う。
 これは、ジェレミーとジュードにとって「運命の出会い」なのであったが…」
 菊川近子先生の処女作とのことです。
 東洋宗教かぶれのヒッピーみたいなことを真顔で話す主人公がなかなかビミョ〜です。

・注1
 「マタンゴ」と並ぶ、1960年代を代表するトラウマ・ホラー映画の傑作です。
 私が小学生の時の夏休み、午前中に特撮映画が放送されていて、これを観た私は「死にそう」になりました。
 ラストがあまりに絶望的で、子供心にショックだったことをいまだに覚えています。
 ただし、内容は「マタンゴ」と遜色ないものの、特撮はかなり見劣りします。
 後年、成人してから観返してみたら、ゴケミドロに血を吸われるシーンで、犠牲者の顔に青いライトを当てているだけで、唖然としました。
 でも、大して乗客も多くない飛行機に、ハイジャック犯やら、悪徳政治家や、研究熱心なお医者さんやら、一癖も二癖もある連中ばかり乗り合わせていて、やっぱり面白かったです。

2016年11月27日 ページ作成・執筆

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