あつたゆりこ「吸血の町」(1988年9月30日第1刷発行)

「N県の山あいにある、小さな町、聖(ひじり)町。
 天文台の建築技師をしている父親の都合で、この町に引っ越してきた立花えりと弟の哲夫。
 この町では、この頃、悪性貧血により急に衰弱して、死に至るという病気がはやっていた。
 怪奇マニアの哲夫は、いち早くこれが吸血鬼の仕業だと見抜くが、誰も信じてくれない。
 えり達が事態の深刻さに気付いた頃には、吸血鬼達の魔手がすぐそこまで伸びてきていた…」
(「週刊マーガレット」昭和61年30号〜39号に掲載)

 1980年代の怪奇マンガは、ビデオ・バブルを機に生まれたホラー映画・ブームに圧され、いまいち低調だったように思います。
 とは言うものの、日野日出志先生の「地獄変」「赤い蛇」、川島のりかず先生の「フランケンシュタインの男」、御茶漬海苔先生の「惨劇館」といった、この時代にしか産まれなかった(かもしれない)傑作がありまして、決して実り少ない期間であったわけではありません。
 そんな1980年代、「週刊マーガレット」(集英社)で「全編これグロ描写の塊」といった趣のある、あつたゆりこ先生の諸作品もそんな傑作のうちに入るでしょう。
 あつたゆりこ先生の作品は、当時のホラー映画・ブームの影響をもろに受けておりまして、普通の少女マンガの絵柄に、ホラー映画や楳図かずお先生を連想させる描写が闇雲に捩じ込まれるという、恐らく、1980年代にしか存在し得なかった作風となっております。
 一般的な代表作は「悪霊夢」でしょうが、個人的なベストはこの「吸血の町」です。
 元ネタは、想像のつく通り、スティーブン・キングの「呪われた町」とその映画版「死霊伝説」(トビー・フーパー監督)です。
 それをうまくアレンジした作品に、小室しげ子先生の佳作「ばらの封印」(講談社フレンド)がありますが、あつたゆりこ先生はそれに対抗したのでありましょうか、この作品に「フライト・ナイト」(大昔に観たので、内容を覚えてません…)、「ゾンビ」(エレベーターのシーン)、「死霊のはらわた」といった、有名なホラー映画の要素を片端からブチ込んでおります。
 しかも、ラストには、楳図かずお先生の漫画に出てくるようなモンスターまで出てくる始末。
「吸血鬼」マンガと思って読んでいたら、「ゾンビ」マンガになり、かつ「モンスター」マンガでもあったという、「一粒で三度おいしい」マンガなのです。
 個人的には、白川まり奈先生の傑作「怪奇!!猫屍鬼の街」と並ぶ、「ゾンビ」マンガの傑作中の傑作だと考えております。
 そして、最大のポイントは、この作品の「疾走感」であります。
 加速度的にグロ描写がエスカレートしていく様は、まさしく「カ・イ・カ・ン…」。
 今の怪奇マンガでは恐らく、味わうことのできない「味」を持つこのマンガ、是非とも復刻を検討していただきたいものであります。
 そして、あつたゆりこ先生がまだマンガを描く意欲があるのならば、ロバート・R・マキャモンの「奴らは渇いている」をマンガ化してくれたら、嬉しいなぁ〜。

平成27年9月21日 ページ作成・執筆

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