楠桂
「妖魔・前編」(1986年1月19日第1刷・1989年6月15日第19刷発行)
「妖魔・後編」(1986年8月17日第1刷・1989年10月15日第19刷発行)

・「妖魔 其ノ壱 まほろばの章」(前編/「りぼんオリジナル1985年初夏号」)
「ある忍者の里。
 緋影と魔狼は二人とも拾われた身で、兄弟のように育ち、里では一二を争う腕となる。
 だが、緋影は魔狼に毒を塗った手裏剣で右目を傷つけられ、緋影が生死を間をさまよっている間に、魔狼は里を追放されてしまう。
 魔狼は自分が一番になるために、緋影の命を狙ったと考えられていたが、緋影はそんなことは信じず、彼を里に連れ戻すべく旅に出る。
 ある日、緋影が古寺で近くの村の場所を尋ねたところ、今来た道を戻って、東に行くよう和尚に教えられる。
 抜け忍として追われる身である彼は道を戻るわけにいかず、森を突っ切っていると、その村に出る。
 その村は皆、親切で、魔狼もここにいた。
 しかし、魔狼は緋影のことを覚えていない。
 最初に出会った娘、あや(顔にアザがある)によると、この村ではひとりずつ旅に出て、ひとりずつ受け入れて、村が保たれているのだという。
 そして、村人は皆、ここに来る前のことは何も覚えていなかった。
 緋影もここで過ごすうちに、天国のようなこの場所にずっといたいと思い始める。
 だが、「旅に出る」の本当の意味とは…?」

・「妖魔 其ノ弐 火蛾岬の章」(前編/「りぼんオリジナル1985年夏の号」)
「魔狼を捜して、緋影は寂れた漁村にやって来る。
 ここには若い男がおらず、女子供と老人しかいなかった。
 ある老人によると、海神の祟りのため、多くの舟が沈没し、また、戦に連れて行かれ、若い男は誰もいないという。
 海岸で緋影が魔狼のことを考えていると、海の中から裸の娘が現れる。
 彼女の名はゆうといい、舟小屋に住みついていて、紫浪丸という白馬と通じ合っていた。
 紫浪丸は「特別」な馬で、海を泳ぐことができ、火蛾岬(ひむろみさき)の岩場の洞窟を住みかとしていた。
 また、ゆうもある能力故に「特別」で、三年前、酔った男達により「人間のできそこない」として火蛾岬から突き落とされていた。
 緋影は紫浪丸が危険なことに気付き、ゆうを救うため、紫浪丸に戦いを挑む。
 紫浪丸の正体とは…?」

・「妖魔 其ノ参 血の闇ヶ原の章」(前編/「りぼんオリジナル1985年秋の号」)
「魔狼を捜す旅の途中、緋影は同じ忍者の百獄風巳とその弟子の八重と出会う。
 百獄風巳は緋影が幼かった頃に稽古をつけたことがあり、風巳の師匠と緋影の師匠は同じ主人に仕える身であった。
 風巳は緋影や魔狼のことを聞いていたが、連れ戻すようなことはせず、魔狼を捜し出し、自分のすべきことを見出すよう勧める。
 ただ一つだけ、忠告があった。
 遥か昔、妖怪どもが地上を跋扈していた頃、海の妖怪と陸の妖怪は対立して争っていた。
 そのために人間との戦いに敗れたが、人間界が乱れる時、海の長と陸の長は蘇り結託して、人間に復讐すると言われる。
 ここまでは単なる笑い話であったが、最近、奇怪な死に方の死体が増えており、人間の仕業とは思えない。
 妖怪は気配を消すのが非常に上手いので、十分に気を付けるようにとのことであった。
 また、風巳は緋影に反感を持つ八重に一日だけ、緋影を見張るように言う。
 そして、ある小袋を緋影に渡すかどうかの決断を彼女に委ねる。
 その夜、緋影が樹上で休んでいると、昼間、見かけた狂女が歩いているのを目にする。
 しかも、目の前には生首の侍の亡霊が現れる。
 侍の亡霊は戦ではなく、妖怪に殺されたと訴えるのだが…」

・「妖魔 其ノ四 愁へ笛の章」(後編/「りぼんオリジナル1985年冬の号」)
「妖怪たちの暗躍により、人間世界は多くの戦乱と混乱に見舞われていた。
 魔狼を知っている妖怪がいるために、緋影は妖怪の噂の流れる西へと向かう。
 ある夜、彼は笛の音を耳にする。
 笛を吹いていたのは抜け忍のくノ一であった。
 しかも、彼女は四人の忍者に追われており、緋影は彼女と通じ合っていると誤解されたことから、彼女と行動を共にすることとなる。
 翌日、川の畔で二人は彼女を追う忍者たちに襲われる。
 くノ一は捕らえられるが、その時、彼女に何ものかが憑依し、「鬼陸皇子(キクガノミコ)の命により」緋影を殺すと告げる。
 すると、川の中から河童の群れが現われ…」

・「妖魔 其ノ伍 亡者夜話の章」(後編/「りぼんオリジナル1986年早春の号」)
「緋影は抜け忍のくノ一、妖と一緒に旅をすることとなる。
 ある夜、小さな村に一夜の宿を乞うが、その村は「亡者行列の村」であった。
 それは「この世に未練のある亡者たちが群れをなして山のなかをさまよいあるく」村で、亡者たちは林の中に姿を消す。
 その後、村が本来の姿を取り戻すが、村人は全員殺されており、しかも、妖怪の仕業であった。
 翌朝、緋影と妖は喧嘩をして、妖は彼をおいて一人で先に行ってしまう。
 緋影がその後を歩いていると、昨夜出会った亡者の女性が彼の前に現れる。
 彼女の名は琴音といい、魂は生きているのに、身体は死んでいる半死人であった。
 彼女は病に蝕まれ、発狂した男に斬殺されたが、その男を心から愛しており、彼のことが気がかりで死ぬに死ねない。
 そして、彼女は、もしも彼が死んでいたなら、自分の命をあげて、まともな身体に生き返らせたいと願う。
 その会話の間、邪鬼老(木の妖怪)、舞(妖蝶)、白露(白蛇の妖怪)が彼らに忍び寄っていた…」

・「妖魔 其ノ六 妖魔決戦話の章」(後編/「りぼんオリジナル1986年春の号」)
「緋影のもとに鬼陸皇子からの刺客が次々と送られてくる。
 緋影はこれまでのことを考え、魔狼の正体について察するが、心の中ではいまだ納得できない。
 ある夜、彼は魔狼から明晩、丘に来るよう果たし状を受ける。
 緋影は妖に来るなと言うも、彼女は彼のために命を投げ出す気であった。
 翌日の晩、二人は鬼陸皇子と対峙する。
 激闘の果てに…」

・「クリーン・クリーン」(前編/「りぼんオリジナル1985年早春の号」)
「高校一年の桑田はさみは、肩に付いたゴミを払われたことをきっかけに根岸六郎に一目惚れする。
 根岸六郎は学校きっての変人で、綽名は「歩くゴミ収集機」。
 その名の通り、彼はゴミや汚れをきれいにすることに生きがいを感じていた。
 はさみは彼に告白しようとするも、勇気がなく、掃除のテクニックを教えてと言ってしまう。
 そして、毎朝、彼から掃除の訓練を受けるのだが、彼女の恋の行方は…?」

・「知らぬがほっとけ!」(後編/「りぼん」1982年3月号)
「陸上部の正樹と純子は付き合って半年の仲。
 ある日、正樹は三日後の春の県大会で優勝したら、純子にキスすると彼女に告げる。
 だが、占いが得意なミサ(名字は不明…)によると、これから三日、彼の健康運は最凶であった。
 純子は愛でこの危難を乗り切ろうとするのだが…」

 「妖魔」は楠桂先生にとって初の怪奇もので、名作&後の作品の礎となる重要作です。
 ただ、長編の内容を中編に押し込んだような、こなしきれてない感じがあり、読みごたえがあるだけに、急ぎ足の展開が惜しい…。
 とりあえず、重要な役どころの琴音のエピソードはうまく折り込んでおいてほしかったものです。

2024年4月1・3日 ページ作成・執筆

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