山岸凉子「黒鳥(ブラック・スワン)」
(1995年7月15日第1刷・1997年10月15日第8刷発行)
収録作品
・「黒鳥(ブラック・スワン)」(1994年「セリエミステリー」4月号掲載)
「マリア・トールチーフは、ヴロニスラヴァ・ニジンスカヤ(ニジンスキーの妹)の教えを受け、1943年の18歳の時、ニューヨークのバレエ・ソサエティに入団する。
そこで、ロシアから亡命してきた天才振付師、ジョージ・バランシンと出会う。
最初は反発したものの、彼の才能は否定できず、憧れの念を抱き始める。
バランシンはヴェーラ・ゾーリナとの離婚後、モンテカルロのバレエ団の監督に出かけるが、大戦後、ニューヨークのバレエ団に戻ってくる。
ある日、マリアは彼に呼び出され、プロポーズを受ける。
彼女は彼と結婚するが、待っていたのは幸せな日々ではなかった。
彼女は古いタイプの踊り手であり、彼の望み通りの踊りが踊れないことが苦痛になり始める。
そして、彼の視線は、彼女を通り越し、新しい世代のタナキル・ル・クラークへと向けられていた。
子供も産ませてはもらえず、彼女は、彼にとって無用な存在となりつつあることを自覚せずにはいられない。
気が付くと、彼女は、生まれ故郷のオクラホマに列車で向かっていた。
オセージ・インディアンの居住地で、彼女は元・シャーマンであった祖父に会うのだが…」
・「貴船の道」(1993年「セリエミステリー」5月号掲載)
「真紀子は、和茂の前妻、晴美の一周忌を過ぎた頃に、彼と結婚する。
実は、彼女は晴美が生きていた時から、彼と不倫関係にあった。
和茂には草太(6歳)と萠(もえ/4歳)の二人の子供がおり、草太は彼女になかなか懐かない。
また、慣れぬ家事は大変で、和茂は仕事が忙しく、主婦というものに幻滅を抱き始める。
そんな時、彼女は奇妙な夢を見るようになる。
それは、庭に埋めたチューリップの球根から、白装束の女性が現れ、徐々に家に近づいてくるというものであった。
その女性は後ろ姿で、顔はわからない。
真紀子は、その女性が前妻の晴美だと感じ、彼女が家に入ってきたら、殺されると考える。
そういう状況なのに、彼女は、和茂に愛人がいるとの疑心暗鬼にかられるようになり…」
・「緘黙(しじま)の底」(1992年「You増刊Youスペシャル No.1」掲載)
「S市立第一小学校、臨時の養護教諭である吉岡彩子。
彼女に猛烈にアタックしている関谷教師のクラスには、香取恵というほとんど登校して来ない転校生(五年生)がいた。
香取恵は父子家庭で、前の学校でもほとんど登校しておらず、たまに教室に来ても、ふらっとどこかに行ってしまうらしい。
ある時、当の恵が、頭が痛いと保健室を訪れる。
彼女は反抗的で落ち着きがなく、妙にマセたところがあった。
以来、何度か彩子は恵に関わるが、恵がスーパーで万引きをしようとしたことを父親に言おうとすると、恵は家出してしまう。
ところが、父親の方は、大して気にしたふうでもなく、逆に警察沙汰になることを恐れていた。
恵や父親の態度に、彩子は自分の忌まわしい過去を重ね合わせていくのだが…」
・「鬼子母神」(1993年「ビッグゴールド」7月号掲載)
「二卵性双生児の兄妹。
兄は王子様、妹の悪魔、母は菩薩で、存在感皆無の父親は表札という一家。
王子様である兄は何かとちやほやされるが、悪魔の妹の方は「不器用」のレッテルを貼られ、ほとんど顧みられないまま。
兄は、母親の期待に沿い続け、有名中学、進学高校へと進む。
一方の妹は、兄とは学力の差がつくばかりであったが、学校では人気者で、それなりの高校に進む。
ところが、兄が進学校で挫折をしたことをきっかけに、その一家の真実が明るみに出る。
妹が、母親の頭の裏に見ていた顔とは…?」
「黒鳥」は、アメリカ合衆国のバレリーナ、マリア・トールチーフをヒロインに据えた作品です。
ジョージ・バランシン等、実在の人物ですが、私、バレエに全くと言っていいほど、興味がありませんので、作品を充分、理解できているとは思いません。
バレエ好きな方の感想をお聞きしたいものです。
「貴船の道」は、山岸先生お得意の「幽霊」もので、傑作です!!
不安を煽る描写(地面から指が生えている描写や、後ろ向きの幽霊、等)は、ダイレクトに神経に来ます。
古来から「ゴースト・ストーリー」には「女性の不安定な心理」が欠かせませんよね。
「緘黙(しじま)の底」は、ネタばれになるので詳細は控えますが、現代にも通じる問題を扱っております。
ラストに心洗われます。これも良い作品ですよ。
「鬼子母神」は、なかなかシュールな内容ながら、奥は深いです。
個人的に、「毒親」と言えば曽祢まさこ先生だったのですが、山岸凉子先生もかなりいいなあ…。
2021年1月4・5日 ページ作成・執筆