高港基資「恐之本 弐」(2013年2月7日初版発行)
収録作品
・「ゆきをんな」(描き下ろし)
「厳しい冬。
平田は大学卒業後、一流企業に就職するが、今はホームレスの身。
ある日、彼は師匠にあたる満田から、ホームレス仲間が何人か「ダルマ」になったと知らされる。
彼らはひどい凍傷にかかり、手足がもげてしまったのであった。
彼らはうわごとで「雪女だ」と言っているらしいが、その正体とは…?」
・「痒み」
「正月。
若い女性は初詣に参る途中、大渋滞に巻き込まれる。
遅々として進まない中、気になるのは隣の車の女性。
彼女はしきりに顔を掻きむしっていた。
ようやく渋滞を抜けたのも束の間、ある交差点でその女が車に乗り込んで来る。
その女は背中を掻くよう促し、仕方なく若い女性は掻きながら運転する。
女はひたすら痒さを訴え、遂には包丁で背中の肉を剥ぐよう言い出し…」
・「ミズ」
「銀子と彼氏の礼二は礼二の兄からカヤックを習う。
銀子がエスキモーロール(横倒しになって水中に潜り、反対側から起きる)に挑戦すると、一瞬、水の中に女性が立っているのが見える。
もう一度やってみると、今度は何人もの人が水の中に立っており、どうやらこちらに近づいてきている。
狼狽のあまり、バランスを崩し、彼女が水中に潜ると、一人の女が彼女に手を伸ばす。
どうにか水上に戻るも、今度は、礼二の兄のカヤックには女の亡霊が乗っていた。
とは言え、視えているのは銀子だけで、言うわけにはいかない。
その夜の帰り道…」
・「ウシロノショウメン」
「ガソリンスタンドで働く青年。
一か月ほど前から、彼の視界の端に女が視えるようになる。
最初はチラッと視える程度だったが、徐々に女はこちらを凝視し、最近では何故自分を殺したのか恨み言を延々と言い続ける。
女の出現と同じくして、彼はある夢を頻繁に見るようになる。
それは夜の河原で女が男に顔をめった刺しにされて殺されるというものであった。
こういうことが続き、彼は憔悴していくが、ある夜、彼の勤めるガソリンスタンドに坊さんが立ち寄る。
坊さんは彼に名刺を渡し、寺に来るよう勧める。
青年に憑いているものとは…?」
・「二人部屋病室」
「弓長という青年はスクーターでコンビニに向かう途中、事故をして、足を骨折する。
二人病室に入れられるが、五日目、隣のベッドに野津という男が運び込まれる。
野津はバイクで大きな事故をして、一か月の間、集中治療室で生死の境をさまよい、奇跡的に一般病棟に移れたのであった。
野津の間にはカーテンが引かれ、ずっと呻き声だけであったが、一週間後、野津は意識を取り戻す。
お互いベッドから動けない身なので、弓長は野津といろいろと話をするようになる。
野津は回復して、再びバイクに乗ることのみ考えているようであったが、彼の身体は…」
・「森を壊した男」
「鬼竹建設の社長。
彼は産廃処理場の建設のため、T市の鎮守の森の伐採を急がせていた。
ある夜、彼は、木に閉じ込められた自分がチェーンソーで切られる夢を見る。
以来、彼はくしゃみが止まらなくなる。
薬は全く効かず、絶え間なく続くために、食事も睡眠もとることができない。
彼はくしゃみを止めるため、ある行動に打って出るが…」
・「ウミヂ」
「海開き間近の日本海に面した砂浜。
ある青年がそこで砂浜の清掃のバイトをする。
パートナーはプロボクサー志望の菅(18歳)で、感じはいいものの、どこか屈折したところがあった。
ある日、彼らは浜辺で女性の乳房のような球体を発見する。
菅が踏みつけると、その乳首から乳が噴き出す。
その夜、二人は砂浜を見張り、その乳房状のものを見張るのだが…」
・「くさわら」
「亮は友人の恵介に今夜、泊まりにくるよう頼まれる。
夕食後、二人で原っぱに出ると、恵介はある話を始める。
それは彼の妹、朱音についてであった。
彼が小学生の頃、朱音はいつも彼の後について来て、遊び盛りの彼はそんな妹を嫌がっていた。
だが、両親が留守にしていたある夜、朱音は破傷風の発作で急死する。
それでも、朱音はずっと兄の後をついて来ていて…」
・「声が聞こえる」
「ミサトは看護師になって四年。
彼女は瞳という少女と仲良しであった。
瞳は赤ん坊の時に事故で失明していたが、先日、目の手術をして、包帯が取れるのを待つばかり。
瞳はミサトにいろいろな話をする。
天井の人、窓の外をいつも落ちていく女性、乾燥機の中にいる赤ちゃん、etc…。
そして、瞳が包帯を取る日、ミサトはそれに立ち会うことを約束していたが…」
・「悲しい音」
「社会人になって半年のサラリーマンの男性。
アパートで一人暮らしの彼はある日、家のガスの火を消したかどうか気になって仕事が手につかなくなる。
すると、同僚が自宅に電話してみて、通じたら大丈夫で、普通だったらアウトと教えてくれる。
試しにかけてみると、呼び出し音が鳴り、彼は安心するが、受話器を取る音がする。
彼が耳を澄ますと、誰もいないはずの彼の部屋で子供らしき足音と笑い声が聞こえる。
思わず切るが、どうにも気になり、数日後、再び自宅にかけてみる。
またも受話器を取る音が聞こえ、今度は子供の声だけでなく、男の怒鳴り声と子供に暴力を振るう音が聞こえてくる。
管理会社に部屋で以前、家庭内暴力があったのではないかと問い合わせるも、そんな事実はない。
そんなある日、彼はその番号が自宅の番号でないことに気付く。
子供への暴力を止めるため、彼は番号の住所を探るのだが…」
「ウシロノショウメン」「声が聞こえる」はストレートなホラー短編の名作と言っていいと思います。
また、「ウミヂ」「二人部屋病室」といった奇想の冴えた作品も素晴らしい!!
でも、個人的には「くさわら」「悲しい音」といった、しんみりする話の方がより心に響きました。
2023年9月21・25日 ページ作成・執筆