高港基資「恐之本 参」(2013年8月7日初版発行)

・「業火」
「窪多は仕事の都合で地方都市のU市に引っ越してくる。
 あるショッピングセンターへ買い物に行くが、彼が車を停めた場所は以前、車ごとの焼身自殺があったところであった。
 警備員によると、ここに車を停めた者は必ず祟られ、数日中に焼死するという。
 焼死体の幽霊に付きまとわれ、タイムリミットが迫る中、彼はある対策を取るのだが…」

・「ひとだま」
「アルバイトからの帰り、ある青年は夜空に奇妙なものを目にする。
 それは無数の人が寄り集まった球体で、どうやら彼にしかそれは見えていない。
 その球体から一人の男が降りて来て、停車中の車に入り込む。
 男が車の中の女性に触れると、後からトラックに追突され、女性は死亡する。
 数日後の夜、彼は部屋の窓の外でまたその球体を見る。
 今度は、球体から三人の男が降りて来て、向かいの大家の家に入っていく。
 直後、古井戸にたまったメタンガスが爆発して、大家の一家三人が死亡。
 青年は人命を救えなかったことを後悔し、ひどく落ち込む。
 一週間後、彼がテレビを観ていた時、飛行機の近くにその球体が浮かんでいるのを見る。
 彼は警察に飛行機への爆破予告の電話をかけるのだが…」

・「元カノ」
「OLの女性の楽しみはSNS(mixi?)で日記をつけること。
 見知らぬ人達とささやかな交流を楽しんでいたが、一つだけ気になることがあった。
 それは「怜子」という人物で、一年以上、毎日午前三時に女性の日記を見に来る。
 「怜子」はプロフィールも友達も日記もなく、女性の日記にメッセージを残したこともない。
 また、彼女には滉(あきら)という彼氏がいたが、彼とのデートの時、いつも誰かの視線を感じる。
 ある日、女性は滉からプロポーズを受ける。
 その嬉しさを日記に書くと、午前三時、怜子からメッセージが届く。
 メッセージの内容とは…?
 怜子とは一体誰なのだろうか…?」

・「顔を見るな 〜その2〜」
「ある大学生の青年。
 突然、彼の携帯電話のカメラが何もしないのに、勝手に撮影するようになる。
 画像は最初、何も写っていなかったが、徐々に足の指から上部にかけて写していた。
 衣服から判断すると、女性だが、その股間のあたりは血にまみれていた。
 画像は徐々に上半身に移っていく。
 彼は、顔を見ると危険だと本能的に察知し、携帯電話を手放すのだが…」

・「ぶたにんげん」
「保育園に通う智には、架空の動物の友達がいるらしい。
 最初は公園の滑り台の下で会い、仲良くなって、家までついて来たという。
 父親は子供が「架空の存在」を信じるのはよくないと思い、なるべく一緒にいるようにする。
 以来、彼は仕事から帰る時、何か動物のようなものを夜道で何度か見かける。
 それが何なのかはわからないが、どうやらつきまとわれているらしい。
 その動物について智に尋ねると、一緒にいることができなくて、怒っているようだと話す。
 彼はその動物が架空とは思えなくなり、自衛のために、ナイフを身に付けるのだが…」

・「寝顔」
「新居に移って、五日目の夜、夫は妻の顔の異変に気付く。
 寝ている妻の顔に、老人の顔が貼り付いているのであった。
 その後も、子供の顔、ヤーさんの顔、動物霊(?)と様々なものが妻の顔に現れる。
 ある夜、若い娘の顔が現れ、彼女は涙を流していた。
 夫が話しかけると、若い娘の顔は悪い男にだまされ、睡眠薬自殺したと話す。
 だが、死体は山中で発見されず、苦しくてたまらないと訴える。
 娘の霊が成仏できるよう、彼は娘が自殺した場所を訪れるのだが…」

・「長虫」
「青年は、ネットオークションで「盗撮映像等の傍受が可能なモニター(ジャンク)」を入手する。
 モニターは普通に映り、様々なカメラの映像を彼は興味本位で「覗き見」する。
 その中で一つ、妙に気になる映像があった。
 それは、何もない部屋の中央で、一人の女が背を向けて座り、身体を揺らしているという映像であった。
 女はそれ以外の行動をしなかったが、ある時、立ち上がって灯りをつける。
 その時、腕の中央部分が分かれて、空になっていた。
 青年は女のことが気になり、その映像ばかり見るようになる。
 雨の日、女が外から帰って来て、濡れた服を脱ぐと…」

・「ポスト爺」
「柿崎が子供の時、「ポストじじい」の噂があった。
 使われているかどうかもわからない円柱形の赤ポストに人が住んでいると言う。
 友人の古沢とドライブの帰り、噂のあったポストに立ち寄ってみる。
 古沢はその噂話を鼻で笑い、ポストを蹴りつけただけでなく、投函口に水を注ぎ入れる。
 以降、古沢はポストにいたずらされるようになる。
 いつの間にかポストに排泄物、生ごみ、ゴキブリ、猫の死体といったものが投げ込まれるのであった。
 ある時、古沢はいたずらの主を見つけ、その後を追う。
 ある路地でその姿は消えるが、すぐ近くにポストがあった。
 古沢はポストの投函口にライターオイルを注ぎ込み、火をつけるのだが…」

・「嗤う彼氏」
「川端圭一、隣県の友人を訪ねた帰り、道路わきの森の中で若い女性を見かける。
 夜遅く、雨も降り出したので、彼は彼女の所まで戻り、声をかけ、傘を渡そうとする。
 だが、彼女は彼に早く行くよう、狼狽して言う。
 そこへ車がやって来て、能面のような笑みを浮かべた男が現れる。
 男は真奈という女性をいきなり殴りつけ、暴行をやめない。
 どうやら、彼女が圭一とできていると勘違いしているらしい。
 圭一は止めようとするも、男に右腕を折られる。
 身の危険を感じ、圭一は傘の先端で男の頬を刺し貫き、その場から逃走。
 警察が駆けつけた頃には、男と女性の姿はなかった。
 骨折が治り、アパートに戻ると、「タブチヒロミ」という人物からお見舞いが届く。
 その中は黒髪であった。
 同封の手紙によると、女性が彼の名を白状しないので、髪の毛を半分失ったと書かれてある。
 圭一は警察に相談するも、相手にされない。
 次に届いた封筒の中身は…?」

・「ネグレクト ―ある供述書から―」
「あるシングルマザーが自分の子供(男の子)を虐待死させる。
 彼女は子供の死体をバッグに詰め、深夜、遠く離れた山中にそれを埋める。
 しかし、帰り道、埋めたはずのバッグが何故か車の中にある。
 次は、高い鉄橋からバッグを捨てる。
 これで厄介払いしたと考えるのだが…」

 「寝顔」「長虫」「ポスト爺」は、奇想とストーリー・テリングの巧みさで、名作と言ってもいいと思います。
 陰湿極まりない「ネグレクト」も妙に心に残ります。

2022年3月5・17日 ページ作成・執筆

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