高港基資「恐之本 四」(2014年2月10日初版発行)

 収録作品

・「棄人」
「日露戦争直前。
 雪山での演習のため、ある青年が山の下見に送り込まれる。
 彼は猟師の息子であったが、知らない山で迷わないわけがない。
 すると、雪山を一人の村人が歩いているのを望遠鏡で発見する。
 近づいて道を聞こうとするが、その村人は背中に老婆を背負っていた。
 老婆は手足を縛られ、口には猿ぐつわをかまされ、涙を流している。
 そのまま様子を窺っていると、村人は神社の鳥居にその老婆を縄でくくると、そのまま立ち去る。
 これは本当に「姥捨て」であった。
 老婆の周囲には狼が集まり、青年は老婆を救おうとする。
 その時、青年の前に現れたのは…」

・「地獄吊るし」
「ある刑務所の看守。
 彼は35年勤め、その間、41回、死刑執行に立ち会っていた。
 死刑囚にはいろいろあるが、ある男は生まれついての極悪人で、子供を何人も嬲り殺しにしていた。
 しかも、反省の色など全く見られず、裁判から四年後、ようやく死刑執行される。
 看守は現場ができるただ一つのこと、「地獄吊るし」を彼に行う。
 だが、定年になって数年後…」

・「ランドセル」
「ある若い父親が、小学校に入る息子のため、ネットオークションで未使用品のランドセルを手に入れる。
 息子は大喜びで、一日中背負っているが、妻はランドセルを気味悪がる。
 男性が出品者に問い合わせると、夫婦のお互いの実家がランドセルを送ってダブったので出品したとのこと。
 しかし、ある時、男性はランドセルから手がのぞいているのを見る。
 また、息子もランドセルが急に重くなると話すのだが…」

・「コドモノイエ」
「熊谷は美人の妻と二人の子供に恵まれ、更に、家を購入する。
 半年後、友人の手嶋が家を訪れると、家は荒れていた。
 家のあちこちで子供の姿を見るが、彼は今、家に一人暮らしであった。
 彼によると、ここは「出る」というのだが…。
 「出る」ものの正体とは…?」

・「公園のトイレ」
「平成八年(1996年)の夏。
 京都在住の漫画家が、公園のトイレを舞台にした漫画を描こうと考える。
 彼が左京区の住宅地の中の公園で背景用の写真を撮っていると、老人に大声で注意される。
 老人はトイレの写真を撮ってはならないと言うが、ここは四年前、殺人事件があった場所であった。
 以来、このトイレでは奇怪なことが度々起こっており…」

・「黒玉」
「ある病院に勤め始めて三か月の看護師の男性。
 彼は榊という看護婦の頭上にボール状のものがあることに気付く。
 それは「黒い革製のボールのような感じ」で、彼以外には視えていなかった。
 榊看護婦は外科の渡辺先生と付き合い、結婚の約束をしていたが、彼は彼女を捨て、外科部長の一人娘で事務員の水谷映子に乗り換える。
 彼女の黒玉は日を追うごとに大きくなり、遂に、彼女は水谷映子のロッカーの中で、頸動脈をメスで切って自殺。
 その後、水谷映子の頭上に…」

・「告げ口腫瘍」
「ある病院の医師は、薬の投与を誤り、木曽という患者を植物人間にしてしまう。
 責任は全て看護婦に押し付け、自分は何食わぬ顔をして、毎日診察に訪れていたが、半年後、木曽の身体に聴診器を当てていると、声が聞こえる。
 声は自分は木曽だと明かし、医師の所業を暴き立てる。
 医師は木曽を内視鏡検査をして、声のあるあたりを探ると…」

・「ホスピタル」
「気が付くと、男は病院に入院していた。
 自分のことはわかるのに、いつから入院しているのか、そして、何の病気なのかがわからない。
 奇怪な夢から何度も覚めていくうちに…」

・「最期の夢」
「終戦から68年。
 その老人は太平洋戦争中、南方から生還し、今は曾孫までいる身分であった。
 このところ、曾孫の桜が幽霊が視えると言うようになる。
 彼女は旧日本兵の幽霊がいると主張するも、老人は幽霊を信じていない。
 ある日、桜と共に散歩に出かけ、幽霊はいないと桜に話すも、その時に旧日本兵の幽霊を目にする。
 以来、彼は急速に弱り、寝たきりに近い状態になるが…」

・高港基資「古い映像」(「読者投稿心霊体験I 女優霊」
「ある男の記憶にずっと引っかかっている古い映像。
 25年前、彼が少年だった頃、母と一緒にテレビでモノクロの邦画を観る。
 子供にとっては退屈な内容だったが、彼はあるシーンが気になって、最後まで見続ける。
 そのシーンとは、何度か現れる農機具小屋であった。
 その小屋の扉が少しだけ開いていて、誰のものかわからない両指がその扉にかかっている。
 だが、結局、扉は最後まで開くことなく、手の主は誰だかわからないままであった。
 ある時、彼はその映画のDVDを見つけ、そのシーンを確認するのだが…」

 「棄人」「地獄吊るし」「コドモノイエ」といった、社会問題への意識が高い作品が目立ちます。
 ベストは奇想を滑らかな語り口で巧みに描いた「告げ口腫瘍」。これは傑作です。

2023年9月25・26日 ページ作成・執筆

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