高港基資「恐之本・伍」(2014年8月7日初版発行)

・「千人針」
「美大生のはるかの身に半月ほど前から奇妙な現象が起こるようになる。
 数日に一度の割合で、集中している時や眠っている時に、身体に縫い玉が縫い付けられるのである。
 縫い玉の糸を、繊維会社の人に見てもらうと、80年ぐらい前の木綿糸で、もとは赤い糸だったらしい。
 また、はるかは、布を手にした、モンペ姿の女性の夢を見るようになる。
 縫い玉の数は徐々に増えていき、はるかの父親は、背中に縫い付けられた縫い玉を見て、「千人針みたいだ」と呟く。
 はるかの身内で、戦争体験者は祖父だけで、彼女は祖父のいるH県に向かう。
 しかし、祖父は寝たきりで、子供の頃のことは覚えてないと繰り返すばかり。
 はるかは、夢で見た女性を絵に描き、村の年寄りに聞いて回る。
 村人達は何かを知っているようだったが、教えてはくれず、ようやく一人の老婆がしぶしぶ口を開く。
 夢に現れた女性は中尾時栄。
 夫は小学校の教師で、三人の息子がいた。
 だが、主人はスパイ容疑で憲兵に連行され、更に、三人の息子達にも召集令状が来る。
 時栄は、息子達のために千人針を村人達にお願いして歩くのだが…」

・「狐狗狸さん」
「今度出す本の付録、狐狗狸さんシート。
 息子はそれに興味津々で、父親は息子と一緒に「狐狗狸さん」をやる。
 息子は夢中になり、しばらく過ごした後、父親はコックリさんを帰そうとする。
 しかし、急に十円玉が勝手に動き出し、「いやたかえらぬ」と文字を指す。
 更に、息子の指がブツブツに覆われていた。
 その時、父親の携帯電話に着信があり…」

・「生まれ変わる日」
「島田淳(26歳/無職)は酔っ払い運転で事故を起こし、両手両足を骨折する重傷を負う。
 しかも、喉を打ったせいで、しばらくの間、声も出せない。
 そんな状況下、彼は、一年前、彼がレイプした看護婦が病院にいることに気付く。
 その夜、木暮川という名の看護婦が彼の病室を訪れ、彼の生死は自分が握っていると告げる。
 彼は必死に助けを求めるも、看護婦達からはヘンタイ扱いされて、誰も相手にしてくれない。
 そして、毎夜、彼は注射器による責め苦を受けることとなる…」

・「捨てられていたもの」
「フリーターの倉田は、コンビニのバイトに出るために、朝の五時にマンションを出る。
 出かける前に、ゴミ捨て場にゴミ袋を捨てると、先に捨てられたゴミ袋が動いたように見える。
 バイトから帰ると、マンション前にパトカーが止まり、向かいのマンションの奥さんが警察官に連行されていた。
 聞くところによると、小学三年生の息子を殺し、死体をゴミ袋で出したという。
 以来、倉田はゴミ袋につきまとわれるようになる…」

・「天井のおばあさん」
「椎原千絵は幼い頃から霊視能力があった。
 小学三年生の時、一家は古いながらも一軒家に引っ越す。
 ある和室で、彼女は、天井あたりに浮いている老婆の霊を視る。
 老婆の霊はいたりいなかったりで、唯一、わかっていることはあの部屋で人が寝ることを好まない。
 中学生になった千絵は、ある時、その和室でうっかり寝込んでしまう。
 彼女は夢を見るのだが、その後…」

・「荷物が届く」
「又倉聰(さとり)は関西の大学に通う女性。
 彼女の父親は又倉製薬の所長で、又倉製薬は残忍な動物実験で非難されていた。
 ある日、聰に宅急便が届く。
 送り主は「ノアズ・アーク福音協会」で、数日おきに、モルモット、ウサギ、犬が届けられる。
 どうやら届けられているのは、実験動物らしい。
 猿の次に、彼女に届けられるのは…?」

・「猫ヶ原」
「ネットで評判の、ペット専門の降霊術師の男性。
 でも、実際は、依頼主の情報を短期間で集め、それっぽく話をしているだけであった。
 彼は仕事の帰り、ある少年に、死んだ飼い猫と話をさせてとお願いされる。
 その猫はアンという黒猫で、病気で身動きできないのに、死んだ時には彼の枕元にいた。
 少年は、アンがどのような気持ちで彼の枕元まで来たかを知りたがっていた。
 降霊術師はテキトーな話をでっちあげるものの、少年にあっさり見破られる。
 そこで、本当に霊媒の能力を使うには、相手の「本気」を知らないとできないと話し、少年にあるビルの屋上まで階段で行くよう要求する。
 少年がビルの屋上を目指している間、降霊術師は…」

 注目すべきは、サディスティックな「注射地獄」が炸裂する「生まれ変わる日」と、意外とハート・ウォーミングな「猫ヶ原」です。
 特に、「猫ヶ原」は不思議な味わいで、傑作だと思います。(でも、一番好きなのは「生まれ変わる日」)

2022年2月26日 ページ作成・執筆
2023年4月6日 加筆訂正

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