高港基資「恐之本・六つ」(2015年2月6日初版発行)

 収録作品
・「茸嫁」(描き下ろし)
「青年は雪山で車がエンコして焦っていたところ、一軒の民家を見つける。
 その家には老婆と適齢期を過ぎたらしい娘が住んでいた。
 青年はキノコ汁を御馳走になるが、その味は絶品。
 青年の誉め言葉を聞くと、何故か娘は顔を赤らめ、恥ずかしそうにする。
 その夜、青年がトイレに起きる。
 ある部屋に母子がおり、老婆は、娘の背中に生えたキノコを一つずつもいでいた。
 娘は青年を「運命の人」と呼ぶのだが…」

・「あさみちゃん」
「担任が入院したため、臨時の講師の男性が年次の終わりまで二年五組を受け持つこととなる。
 このクラスで一番の変わり者は高村怜也という少年で、彼は狭い所や隅っこに潜り込む癖があった。
 一度、このことについて両親と話し合いたいと思うものの、両親は仕事に忙しく、彼は放置されていることが多いらしい。
 そんな彼の友達は「あさみちゃん」で、一年前、裏山への抜け道で見つけた箱に入っていて、いつの間にか家にいるという。
 「あさみちゃん」の正体とは…?」

・「誤差」
「中学校の仲良し五人組が六年ぶりに会う。
 彼らはそれぞれ違う道を歩んでいたが、話したり遊んでいるうちに、徐々に昔の自分を取り戻していく。
 あるきっかけから、何故か何回も繰り返してしまう失敗の話になる。
 すると、智行が自分は「どうしても人の数を数え間違える」と話す。
 彼は昔から人と多めに数え間違えてしまうのであった。
 飲んだ後、駅に向かう途中の地下道で、四人は智行に向こうから歩いて来る人数を尋ねるのだが…」

・「えだちまわり」
「京都府内であるが、京都市から遠く離れた山間の村。
 この村では春に「役(えだち)まわり」という奇妙な風習が行われる。
 慎吾は五年前、父親が死に、会社をやめて、実家の農業を継いでいたが、今年初めて、「えだちまわり」の当番となる。
 まず、神社の神職が占いで決めた村の女の子(西畑さんちのカナちゃん)が「どうしさま」として、慎吾の家を訪れる。
 慎吾の家では彼女をできるだけ豪華に歓待するが、家の者は粥以外は口にできない。
 また、夜、家長は自分の部屋で「どうしさま」と寝なければならない。(蒲団は別々。)
 夜更け、慎吾が目を覚ますと、部屋の中で「どうしさま」が立ち、彼を見下ろしていた。
 彼女は慎吾に「立て ついてこい」と言って、どんどん外に行ってしまうのだが…」

・「絶対音感調律師」
「萌利(もり)は万引きで補導されたせいで、両親のカナダ旅行に連れて行ってもらえず、一人お留守番。
 家にこもって、久々にピアノをいじっていると、玄関のチャイムが鳴る。
 訪ねてきた男はピアノの音が狂っているので、自分に調律させてほしいと必死に頼む。
 当然ながら、萌利は警戒し、我に返った男は玄関に二万円を置き、これで調律師を呼ぶよう言って、立ち去る。
 だが、萌利はこのお金で友人達と遊びに行く。
 夜遅く帰ると、家の前に昼間の男が待っていた。
 痴漢と叫び、男を追い払うも、これで済むわけがなく…」

・「おじいちゃんと一緒に」
「少年のユウは川で流され、溺死する。
 幽霊となった彼はあの世へは行かず、家へと戻る。
 とは言え、身体がなければ何もできない。
 そこで思いついたのは、90歳近くボケた祖父の身体に入ることであった。
 しかし、祖父の身体はろくろく動かず、また、介護している母親の姿を見て、祖父の魂を捜しに行く。
 祖父の魂は奥の方にいて、少年の姿をしていた。
 ユウと少年姿の祖父は相撲をとって遊ぶ。
 ユウはたまには身体にもどるよう祖父の魂を諭すが、祖父はその時、異様な物音を耳にする。
 それは長雨による山崩れの前兆であった…」

・「水底の音」
「池部はバイクをバイクを盗んでは、乗り回していた。
 そして、飽きたら、決まった海岸から海へ捨てていた。
 ある日から、彼は何を食べても飲んでも塩辛く感じるようになる。
 食事はろくにとれなくなり、体調は悪くなる一方。
 更に、ある時、トイレに行くと、生きた魚を排泄していた。
 それだけにとどまらず…」

・「うるさい」
「若い娘のスマホに彼氏から電話がかかってくる。
 彼氏は合宿に出ており、声を聞くのは三日ぶり。
 いちゃいちゃしながら話していると、「うるさい」と声が聞こえ…」

・「安い家」
「ある夫婦が抽選に当たり、破格の値段でマイホームを手に入れる。
 引っ越ししたその夜、強風で家が一晩中、揺れて、ちっても眠れない。
 翌日、妻が近所に挨拶まわりをすると、昨晩は風など吹かなかったと聞かされる。
 次の夜も家は揺れ、しかも、風の音が人の声に用に聞こえる。
 夫が外に出てみると、風が吹いている様子はない。
 三日目の晩、妻は大学の後輩の鳥谷という男性を家に招いていた。
 彼は右目で霊が視えるというのだが…」

・「警鐘」
「昭和49年(1974年)。
 15歳の鉄道マニアの青年が東北本線のある場所を撮影する。
 そこは神社の参道を線路が通っているという場所であったが、アングルの良さでマニアに知られていた。
 一日中、電車を撮り、残った二枚のフィルムで、神社の古木を撮影する。
 帰宅後、彼は熱を出して倒れ、奇怪な夢を見る。
 夢には小人のような女性がいた。
 それから、二年間、何事もなかったが、ある夜、あの女性の夢をまた見る。
 夢の中で女性は箱を手にしていたが、それには神社を撮った写真が入っていた。
 その写真を新聞社に持ち込んだところ…」

・「パラサイター」
「一日50万円という破格のバイト。
 だが、それは山の中の穴に廃液を入れ、それを人力で埋めるという、ヤバいバイトであった。
 本池という青年がそのバイトをして、一人で土を投げ込んでいると、地滑りが起き、穴に落下。
 彼はどんどん沈んでいき、死ぬ直前で助け出される。
 以来、彼の皮膚の下には何か寄生虫らしきものが蠢くようになる。
 病院に行っても、どうにもならなかったが、悪いことばかりでなく…」

 「えだちまわり」が出色の出来だと思います。
 しみじみと不気味です。
 「おじいちゃんと一緒に」も良い出来なのですが、男児が溺死しているので、やはり両親が気の毒です。

2023年10月4〜6・24日 ページ作成・執筆

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