高港基資「恐之本・仇」(2016年8月6日初版発行)

・「家族について」
「東北地方(?)の農村に住む平凡な家族。
 父親は腕のよい溶接工で、三人の息子もまっすぐに育っていた。
 しかし、父親が仕事の事故で身体障害者になったことから家族の運命は暗転する。
 酒乱になった父親は妻や子供に平気で暴力を振るうようになり、人間として完全に壊れてしまう。
 中学を卒業を機に息子たちは土地を離れ、十五年以上、誰一人、実家とは連絡を取ろうとはしない。
 その間、妻は瘋癲の夫と飼い猫のツネと共に暮らし続ける。
 ツネは夫がまだ健在だった頃、家で飼うことになった野良猫で、今やすっかりヨボヨボで、ほとんど寝たきりであった。
 ある日、長男の瑛太が実家を訪れる。
 彼は仕事でたまたま来ただけだと話すが、二男の瑛二郎や三男の瑛三も何故か実家にやって来る。
 彼らを呼んだのは…?」

・「死人憑き」
「交通課の内勤に勤める青年。
 彼は実家がお寺で、僧侶の資格を持っているというので、あるマンションに死体収容に行くよう命じられる。
 このマンションには中年のおしどり夫婦が住んでいたが、妻が病死したのを夫は受け入れず、死体をずっとそのままにしていた。
 そのため、マンション内には腐臭が広がり、しかも、妻の幽霊が出るため、警察すら手が出せない。
 青年はお経を唱えながら、その部屋に向かい、主人と面会する。
 主人は妻は死後十日経っても、生きていた時と同じ顔と言って妻の顔を青年に見せるのだが…」

・「はらから」
「松下美砂(29歳)は平凡な会社員。
 彼女は幼い頃から不思議な夢を見る。
 夢の中で彼女はずっと誰のものかわからない者と手をつないでおり、夢の中の手は彼女の成長にあわせて変化していた。
 他にも、テスト時に、勉強していないところがまるで勉強しているように解けたり、年に一二度、気が付くと、ありえない量の食事を平らげたりと奇妙なことが幾つか彼女に起こる。
 だが、決定的だったのは、二年前、彼女が曲直部という男性と付き合い始めてからであった。
 彼女の夢に出てくる手は見る度に大きくゴツゴツしたものとなり、やがて、化け物のようなものへと変わっていく。
 ある夜、彼女は曲直部と高級レストランでデートをするが…」

・「身代わりの人形」
「酒井幹雄はマイホームを持った途端、リストラされてしまう。
 彼の妻、理香は自分の郷里の滋賀県に助けてくれる人がいると話し、翌朝、二人はその人物を訪ねる。
 その人物は「まじない屋」と呼ばれているオミズ系の中年女性で、全貯金の227万円と引き換えに、幹雄に「身代わりの人形」を渡す。
 これは人の災難を全て引き受けてくれる紙人形で、災難から逃れられたら、人形に目を入れ、ご神木の葉と一緒に焼けば、それで一件落着という。
 幹雄は霊能者の言うとおりに、紙人形に自分の名を反転して書き入れ、会社のボイラー室のロッカーにその紙人形を隠す。
 すると、彼のリストラは取り消され、紙人形の化けた人物がリストラ対象になる。
 その後、紙人形を処理する儀式を行おうと、彼は紙人形を探すのだが…」

・「地下駐車場」
「京都市内には公共の地下駐車場が幾つかあるが、その中に幽霊が出ると噂される場所がある。
 そこの「A-22」のスペースに車を停めると、確実に祟られると言われていた。
 京都のある大学で助手を勤める田渕は超常現象否定派で、彼はその「A-22」に車を停め、車内で一晩を過ごそうとするのだが…」

・「お誕生日のおまじない」
「祖母は、良子が幼い頃から、彼女が誕生日を迎えると、ある「おまじない」をしていた。
 それは紙の箱に女の子の人形を入れ、家の隅に置くというもので、翌朝になると、人形は紐のように捩じられていた。
 その後、良子の家族は父親の仕事の都合で祖母の実家を離れ、彼女が高校一年の時、祖母が亡くなる。
 祖母の亡くなる前、祖母は良子の母親に「お誕生日のおまじない」を引き継ぐよう頼み込んでいた。
 それは良子の誕生日の朝、箱に人形を入れて、家の外回りの北東角に目立つように置くことで、そのための人形も入院中にたくさん作ってあった。
 祖母の葬式から数日後、良子は十七回目の誕生日を迎えるが…」

・「ノツゴ」
「ある夜、若い駅員の男性が轢死者の死体の収容をする。
 死体のパーツを可能な限り集めるが、轢死者は一人なのに、死体のパーツはニ、三人分あった。
 しかも、その事故は普通の鉄道自殺として報道される。
 訝りながら、仕事をしていると、小学生の立ち話を耳にする。
 彼らによると、「ノツゴ」という化け物がホームの下にたくさんおり、これに狙われると、線路へと引きずり込まれてしまうという。
 そして、ノツゴは電車が来るまで犠牲者を押さえ込み、事故の後、死体のパーツが多いのはノツゴのパーツが混じっているからであった。
 駅員はこれが子供の噂話と思いつつも、実際、ホーム下で謎の人影を見ているため、全てが嘘とも思えない。
 そこで駅長にノツゴについて尋ねるのだが…」

 「身代わりの人形」「お誕生日のおまじない」「ノツゴ」の出来が抜きんでているように思います。
 特に、「身代わりの人形」は、メリハリの効いた構成&すっきりしたオチで、個人的なお気に入りです。
 憎まれ口をたたきながら、意外と面倒見のいい霊能者も良いキャラだと思います。

2025年8月12日 ページ作成・執筆

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