井出知香恵「魔界の衣@」(1993年9月30日初版第1刷発行)

 衣舞は、五千年前のミイラ、アダムからとられた精子を、現代女性に人工授精して産まれた娘。
 そのミイラは、本当はソロモンという名で、「人間界に侵入してくる魔物たちを狩る魔界ハンター」であった。
 ソロモンの血を受け継いだ衣舞は、ソロモンに恨みを持つ、魔界からの妖怪たちと戦うこととなる…。

・「VOL.1 古代地獄(タルタロス)から来た女」
「衣舞は、精神科医の司馬寛之に接近し、彼を心身ともに虜にする。
 彼の父親は、衣舞が産まれる原因となった実験を行った人物で、兄の正光は、人類学で有名な司馬大学付属病院の院長であった。
 衣舞が彼に近づいた目的は、正光による実験の阻止。
 正光は、父親の実験を継ぎ、アダムと同じアルプスから見つかったミイラ、ミラクルの精子を人工授精させようとしていた。
 しかし、ミラクルの正体は、バデイムという魔物で、人工授精をすれば妖怪が産まれてしまう。
 衣舞と寛之は、実験を阻止するために、正光のもとへ向かうのだが…」

・「VOL.2 魔女狩りアゲイン」
「始(はじめ)という男児に恵まれ、幸せいっぱいの衣舞と寛之。
 そんな彼らのもとに、寛之の元・恋人である瀬野美加子が相談にやって来る。
 相談の内容は、美加子の姉に関するものであった。
 美加子の姉は宗教法人「愛の奇跡」の教祖であったが、一年ほど前からおかしくなる。
 彼女は自分の中にピエール・ドランクル(17世紀に多くの無実の女性を魔女狩りで殺害した判事)の霊が宿ったと話し、ドランクルと同じように、自分に従わない女性は大勢で凌辱していく。
 妹も例外でなく、姉に意見した美加子は、多くの男性に犯され、妊娠してしまう。
 魔物の存在を感じ、衣舞は美加子の依頼を受ける。
 衣舞と寛之は、美加子の姉の誕生日に開かれる「祝いのサバト」に侵入するのだが…」

・「VOL.3 妖怪好みの愛の場所」
「仙妙寺茂という脳外科医が、アメリカから帰国して、寛之の病院で働くことになる。
 だが、しばらくして、寛之の様子が徐々におかしくなる。
 彼によると、自分が別人になったようにコントロールがきかないらしい。
 衣舞が仙妙寺茂の資料を読むと、彼はアメリカで「リボカクサン」という記憶抽出液を発明していた。
 これを、ある人物の脳に注入すると、数時間のうちに、その人物の記憶が全て、溶け込む。
 そして、この液体を、他の人物に注入すれば、液体の記憶に取って代わられてしまうのであった。
 衣舞は、茂が「リボカクサン」を使って、性犯罪者に強姦され、殺された恋人、エリーの記憶を彼女に植え付けようとしていることを知るのだが…」

 レディース・コミックの怪奇マンガは、読者が限定されるせいか、ほとんど評価されていないように思います。
 私も目にした作品はいまだ極わずかでしかないのですが、井出知香恵先生の「魔界の衣」は、レディ・コミ・ホラーの頂点に位置する傑作&怪作だと断言します!!(注1)
 米沢嘉博氏は井出先生について「泥臭いまでの熱血エンターテイナー」(注2)と表現しておりますが、その言葉に偽りなし。
 豪快過ぎる設定、かつ、破天荒なストーリーを「愛(という名のSEX)」でエクスタシ〜に締めくくる剛腕は他に類を見ないものです。
 この「マイ・ライフ」に基盤を置いた剛腕が、いまだに現役である秘訣なのでしょうか?
 井出先生の作品はもっと評価されてしかるべきと思います。

・注1
 ありがたいことに、kindle版で簡単に読めます。
 amazonでは「とにかくめちゃくちゃ面白いです。読んでみてください。魔物と妖怪とミステリーと愛と、、底なしの楽しさです。」と紹介されておりますが、本当です。
 とは言え、私、全部、通して読んだわけではないので、後半がどうなるのか気になるところです。

・注2
 「別冊太陽 子どもの昭和史 少女マンガの世界U 昭和三十八年―六十四年」(平凡社/1991年10月17日発行)p59より引用いたしました。

2021年4月27日 ページ作成・執筆

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