如月命
「あの夏のイヴ@」(2017年11月22日初版発行)
「あの夏のイヴA」(2018年2月22日初版発行)
「あの夏のイヴB」(2018年8月22日初版発行)


 過疎の進む十恩村。
 この村には奇妙な二つの風習があった。
 一つは7月17日に十恩神社で行われる「成人の儀」。
 17歳になった者は必ず参加しなければならず、意中の異性を呼び、村人達の前で、村への忠誠の証としてキスしなければならない。
 もう一つは「どんどろさん」信仰。
 「どんどろさん」は村で言い伝えられている鬼の神様で、夏になると腹をすかせて村人を喰ってしまうが、信仰する者は助かり恩恵に預かると言う。
 実際、夏になると時折、人が失踪することがあり、これは「どんどろさんの神隠し」と呼ばれていた。
 時は、1976年7月…。

単行本@(「マンガUP!」2017年5月〜8月)
・「第1話 どんどろさん」
 十恩村の高校生は八人だけだったが、皆、気心が知れ、仲が良い。(詳しいことは以下の通り) 
 宮崎裕(17歳)〜主人公。結衣・瑠夏の三人とずっと仲が良い。
 江川結衣(16歳)〜10年前に母を亡くして一人暮らし。母親の死後、引きこもっていたが、裕と瑠夏に優しくされ、心を開く。大人しい。
 間宮瑠夏(16歳)〜裕の幼なじみで、大の仲良し。活発。
 宇良透(17歳)〜眼鏡の似合う優等生。
 戸田護(16歳)〜クールな後輩。
 富波海(17歳)〜見た目は可愛いが、なかなかの変わり者。
 赤澤菜穂(17歳)〜勝気な少女。「どんどろさま」の信者。
 締屋舞子(17歳)〜異端児。「どんどろさま」について独自の解釈をする。
 彼らは「成人の儀」を目前に控え、若干の戸惑いと共に日々を過ごしていた。
 7月13日、裕は結衣と瑠夏から同時に手紙をもらう。
 それには裕が好きな人をはっきりさせるために、放課後4時に旧校舎裏で瑠夏が、6時に神社で結衣が待っているという内容であった。
 裕が選んだのは…?
・「第2話 間宮瑠夏」
 間宮瑠夏の死。
 彼女は身体を半分に引き裂かれ、右半身は行方不明になっていた。
 犯人は餌を求めて山を降りた野犬の仕業とされる。
 瑠夏の葬式の時、裕は村人たちが瑠夏が「どんどろさま」を信仰しなかったために食べられたと話すのを耳にする。
 また、締屋舞子から瑠夏の死と「どんどろさま」の童歌との共通点を教えられる。
 舞子は瑠夏の死についてある推理をしていたが…。
・「第3話 信仰」
 「どんどろさまの神隠し」は連続すると言われており、台風の中、裕は江川結衣の家へと向かう。
 結衣は瑠夏の死後、家から出ず、葬式にも出席しなかった。
 彼女は瑠夏の死を嘆き、自分が死ねばよかったと罪悪感に苛まされる。
 そんな彼女を前に裕はある決意をする…。
・「第4話 決意」
 結衣が学校に戻ってくる。
 平穏な日常を取り戻そうとはするが、野犬はいまだ捕まらず、しかも、明日は「成人の儀」であった。
 「成人の儀」を執行することで村人たちの「どんどろさん」の不安を払拭するのが目的らしい。
 体育の時間、裕は舞子と体操を組むことになる。
 彼女は自分が犯人捜しをする間、裕には他の仲間(特に結衣)を助けるよう頼む。
 彼は彼女の頼みをのみ、彼女に協力することとなる…。

単行本A(「マンガUP!」2017年9月〜12月)
・「第5話 片想い」
 7月17日、成人の儀が十恩神社で執り行われる。
 参加者は17歳の宮崎裕、宇良透、富波海、赤澤菜穂、締屋舞子、そして、意中の人として呼ばれた戸田護と江川結衣。
 裕は結衣を守らねばならないと考えつつも、惨死した瑠夏への思いを断ち切ることができない。
 神社で衣装に着替え、個室で待機していると、隣の部屋にいた戸田護が話しかけてくる。
 彼は瑠夏に恋心を抱いており、裕に瑠夏がどういう意図で裕に手紙を書いたのかを明かす…。
・「第6話 成人の儀」
 成人の儀が始まる。
 それぞれが意中の人を告白し、村人たちの注視する中でディープキスをする。
 これには濃密な接触をさらすことで村への一切の偽りを行わないと誓う意味があった。
 儀式の後、舞子が今年は祝賀会をしないのか担任の先生に尋ねる。
 彼女は祝賀会の後、神社を捜索するつもりで、裕は彼女から後押しをするよう頼まれていた。
 裕の言葉添えもあり、その夜、神社で祝賀会が催される。
 裕たちはそのまま神社に泊まり、夜更け…。
・「第7話 締屋舞子」
 翌朝の帰宅途中に、裕は締屋舞子と戸田護から調査結果を聞く。
 実は戸田護は締屋舞子に協力していた。
 舞子は神社の書庫を調べるも、一部の書物がなくなっているようだと話す。
 護の方は神域とされる貪泥沼(どんどろぬま)を調べ、写真を撮ってきていた。
 貪泥沼には「どんどろさん」を祀ってあり、沼の周囲には神隠しにあった人の墓が立てられているが、間宮瑠夏のものは確認できなかったと言う。
 だが、話を聞くうちに、裕は舞子にある疑念を抱くようになる…。
・「第8話 村の真実」
 7月19日、締屋舞子と戸田護が学校を休む。
 裕は二人が村の秘密を知ったためではないかと疑い、職員室に行くと、担任が神社の神主の息子、蓮沼式(はすみ・しき)と話していた。
 話に聞き耳を立てていると、彼らは締屋舞子を追っているようで、しかも、殺そうとしているらしい。
 裕は、舞子の推理通りに犯人は神社の関係者や村人たちだと考える。
 その場に富波海が現われて…。

単行本B
・「第9話 江川百合子」
 裕は江川結衣を野犬から守るためと言って、彼女を自分の家に泊まらせる。
 その間に、彼女の家を野犬に荒らされたように偽装して、彼女の母親の部屋から「どんどろさん」関連の本を持ち帰る。
 結衣の母、江川百合子(裕が子供の頃に交通事故死)は村の秘密を掴んでいたようなのだが…」
・「第10話 富波海」
 富波海は締屋舞子を熱烈に愛していた。
 彼は彼女の身に異変が起きたと察し、舞子の両親を脅して、彼女の部屋を調べる。
 そこには彼宛ての手紙があり、彼女の想いが綴られていた。
 その手紙を読んだ彼は逆上し、復讐を開始する…。
・「第11話 抗体」
 裕は担任の先生から「どんどろさん」の真実を教えられる。
 そして、彼が村の風習や宗教と如何に深く結びついていることも。
 これ以上、被害を出さないためにも、一刻も早く「どんどろさん」とその想い人を見つけなければならない。
 あまりにいろいろなことが起こり、裕は一種のショック状態に陥るが…。
・「第12話 ずっと一緒だよ」
 翌日、裕はクラスメートたちを集めて、話し合いをしようとする。
 目的は「どんどろさん」の想い人を探ることであった。
 その時、赤澤菜穂が裕に「どんどろさん」を信じているかどうかを問う。
 「どんどろさん」の信者である彼女は被害者が信者にも及んでいることを訝み、自分達が不信心な人間に制裁を下さねばならないと解釈していた。
 菜穂は鎌を手にして、裕に襲いかかる。
 その時、結衣が彼をかばい…。
・「最終話 あの夏のイヴ」
 全てが終わった後、「どんどろさん」が真相を語る。
 始まりは一枚の「偽りの出生証明書」にあった。
 そして、つらいことが幾つもあったものの、「どんどろさん」は満ち足りていた。
 その理由とは…?

 奇作だと思います。
 一応、伝奇ミステリーの範疇に入るとは思うのですが、ストーリーはかなり奇抜(悪く言うと荒唐無稽)です。
 とりあえず、「どんどろさん」の正体は稀に見るメチャクチャさだと思います。
 特に、第二章で担任の先生が「どんどろさん」について授業する中に重要な伏線(どんどろさんの特殊能力)が張られているのですが、これを受けいれられるかどうかでこの作品の評価は分かれるのではないでしょうか?
 個人的には「それじゃあ(ちょっとネタバレだけど)物体Xじゃねーか!!」という感じで、首をかしげずにはいられませんでした。
 でも、頑張って怪奇ムードを出そうとしている作者の努力は買いたい。
 基本は可愛らしい絵柄なのに、その手のシーンとなると、不気味すぎる顔つき&激ヤバな目つきになって紙面全体を使って迫ってきます。
 ページをめくって、これが目にとび込んでくると、本当に心臓に悪いです、コレ…。

2023年12月15・16・31日 ページ作成・執筆

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