堀江卓「劇画大災害」(1987年8月25日第一刷発行)

 収録作品

・「劇画関東大震災」
「大正十二年八月三十一日、夜。
 東京府下南足立郡、綾瀬川上流にある東邦紡績の女子寮から古村鈴(お鈴)は脱走する。
 それは実家の山口県にいる、たった一人の妹の死に目に会うためであった。
 彼女は肺病で、さほど体力がないのに加え、寮からは追手がすぐに差し向けられる。
 だが、彼女は中谷啓之介という青年と出会い、彼の機転で、鈴は難を逃れる。
 実は、啓之介も思想犯として、網走から脱走してきたのであった。
 彼の父は凌雲閣(浅草にあった、日本で初めての高層建築物)を建てた人物で、彼をそれを一目見るのが目的であった。
 早朝の雨の中、二人は橋の下で抱き合い、雨が止んだ後、両国を目指すのだが…。
 そして、運命の11時58分44秒…」

・「春子のハルは」
「雨の夜、二十歳の兵隊検査が済み、ある青年が遊郭に筆おろしに行く。
 彼の相手は看板娘の春子で、すれっからしの彼女に彼は振り回されてばかり。
 しかも、肝心の時に役に立たず、とりあえず、トイレに行く。
 トイレから出た時、春子が彼を迎えに来る。
 部屋に戻り、春子は彼が落ち着くまで話をする。
 彼女は十五歳の時、東北の大凶作のせいで、人買いに買われたのであった。
 泥ドブのような人生を送る時、彼女で筆おろしをした男が彼女に夢中になり、彼女を見受けしようとする。
 だが、彼女が初めて知った青春は…」

・「桜島大爆発」
「大正三年一月、桜島では数々の異変が起こっていた。
 村の井戸枯れに、ネズミの大発生。
 また、様々な観測データも大噴火の前兆を明確に示していた。
 富夫は、村民に布告を出すよう、桜島測候所の所長に勧告する。
 だが、所長はパニックを防ぐため、もう少し待とうと布告には及び腰であった。
 そして、所長は、富夫に、娘の美保と式を挙げる前に、二人で鹿児島の富夫の実家を訪れるよう勧める。
 その夜、所長は鍋山の測候に出かけた際、網本の倅の重蔵に出会う。
 重蔵は美保に恋焦がれ、彼女を強姦し、それを父親の所長は目撃していた。
 彼は美保をくれるよう所長に頼むが、彼は決して許さない。
 翌日の十二日、測候所に重蔵の父親が殴り込んで来る。
 富夫は美保の身に起こったことを知り、美保は鍋山に向かって駆けていく。
 その時、桜島が大噴火を起こす。
 この島に下される「裁決」とは…」

・「安政大地震」
「安政二年十月二日。
 朝の十一時、深川の湯女風呂に子供を連れた浪人が訪ねてきて、お紺という女に戻ってくるよう頼んでいたが、断られると彼女を斬殺。
 更に、三人もの人も殺害し、行方をくらます。
 真昼間のことで、すぐに網が張られるが、浪人の居場所は皆目わからない。
 岡っ引きの銀次にとって深川は自分の庭のようなもので、面子にかけて、浪人を捜す。
 しかし、虱潰しに当たっても、浪人の姿はなく、逆に、無関係な侍を殺害してしまう。
 夜の十時、失意の銀次はある盲点に気付き、その場所に向かう。
 が、その時、万雷の轟くような地鳴りと共に、江戸の八百八町の大地が鳴動し…」

 ベテランの堀江卓先生による日本史に残る「大災害」を劇画化した単行本です。(例外は「春子のハルは」で、幽霊ものです。)
 こういう作品を「怪奇マンガ」扱いすると、眉をひそめる方も多いでしょうが、黒田みのる先生「大地震」、中森清子先生「東京マグニチュード8.2」等、あまりにも「やり過ぎ」たために「パニック・ホラー」の範疇に入ってしまう作品が幾つかあります。
 「劇画大災害」も実はサイコーに「やり過ぎ」た逸品の一つで、シリアスかつ重厚な人間ドラマが展開されるものの、天災シーンになると途端に阿鼻叫喚の巷となり、「これでもか―!!」と本気を紙上に叩きつけてくれます。
 特に「桜島大爆発」は生臭さ満点のストーリーに加えて、ネズミに食べられた死体や灼熱した岩石が人々を直撃するシーン等、残酷描写のオンパレード。
 斯様に、様々なショック描写を堪能できるだけでなく、日本における災害の歴史についても勉強になる、とてもためになる一冊です。
 若干、入手しにくいので、復刻を希望しております。

・備考
 背表紙色褪せ。

2023年6月6日/2024年6月7・23日 ページ作成・執筆

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