松本るい「初音笛」(1979年5月20日第1刷発行)

 収録作品

・「ものまねたぬきの糸車」(1975年11月21日完成/1976年「増刊少女フレンド」1月号掲載)
「きこりの久蔵とおとよは貧しいながらも仲睦まじい若夫婦。
 二人は春から秋にかけて山の炭焼き小屋で暮らし、久蔵は山仕事、おとよは糸紡ぎに精を出していた。
 山にはいたずら者のたぬきがおり、久蔵はそのいたずらにしょっちゅう腹を立てる。
 だが、おとよは心が広く、ある夜、たぬきが好奇心から糸紡ぎを障子の穴から覗いているのを見て見ぬふりをする。
 更に、翌朝、彼女は罠にかかったたぬきを助け、山へと戻す。
 たぬきはおとよに好意を持つが…」

・「たぬきのこと」
 松本るい先生がたぬきについてあれこれ語るコミック・エッセイ。

・「おさんの子守歌」(1976年「増刊少女フレンド」7月号掲載)
「良男は体の弱い男の子。
 彼の母は春に亡くなり、父親は仕事で忙しいため、夏の間、田舎のおじのもとに預けられていた。
 ある日、彼が散歩がてら杉子稲荷神社に行くと、晴天だったのに急に雨が降り始める。
 雨宿りをしていると、突如、歌が聞こえる。
 その方に行くと、娘が境内の岩に座り歌を歌っていた。
 彼女の名はおさんで、ずっと山奥に住んでおり、ここにはしばしばお参りに来るという。
 彼女に勧められ、良男はお稲荷さんに、父親と一緒に住めるよう、また、元気になるようお祈りをする。
 おさんは二つ目の願いは自分が叶えると言い、毎日ここに来たら元気になると約束する。
 次の日から良男は稲荷神社でおさんと待ち合わせをして、彼女と共に遊び、楽しい時を過ごす。
 ある日、良男は村の子供たちと知り合い、川遊びをするのだが…」

・「きつねのこと」
 作品の稲荷神社のモデルになった佐助稲荷神社(鎌倉)と新潟県鯨波にあった稲荷神社や、作中で使われた「日照り雨」という歌について述べたコミック・エッセイ。

・「田野久とおろち」(1978年3月27日完成/1978年「増刊少女フレンド」5月号掲載)
「田野久は役者になるため、家を出て、市村団五郎一座に加わる。
 三年ぶりに故郷の沢井村に帰ってくるが、その目前で足に怪我をしてしまい、夜更けに村への峠を越えようとする。
 だが、この峠にはおろちが棲みついており、旅人が何人も餌食になっていた。
 おろちは田野久を「たぬき」と間違え、面白いものに化けたら助けてやると言う。
 田野久は役者の小道具を使い、様々なものに化け、おろちは大感激。
 特に、女姿は昔、おろちが惚れた娘にそっくりで、おろちは次の晩も来て、面白いものに化けるよう田野久に命令する。
 翌朝、田野久は庄屋におろちのことで相談をし、市村団五郎一座と共におろち退治に乗り出すのだが…」

・「蛇のこと」
 松本るい先生が蛇についてあれこれ語るコミック・エッセイ。

・「三毛とおみよと和尚さん」(1976年「週刊少女フレンド」20号掲載)
「信濃国(長野県)の山奥に法蔵寺という寺があり、年寄りの和尚さんとこれまた年を取った三毛猫が暮らしていた。
 和尚と三毛猫はのんびり暮らしていたが、ある朝、寺の前に女の赤ちゃんが捨てられる。
 赤ちゃんは和尚さんに「みよ」と名付けられ、和尚さんと三毛猫に見守られながら、すくすくと成長する。
 おみよは少女になり、三毛はすっかり年を取って毎日、寝てばかり。
 そんなある日、彼女は袈裟が衣桁から外れ、妙に湿っているのに気づき、訝る。
 更に、近所に住む仁吉という少年が夜中に三毛が袈裟を引っかけてどこかに行くのを見たと彼女に話す。
 その夜、みよは三毛が夜中に寺を脱け出すのに気づき、後を追うと…」

・「猫のこと」
 松本るい先生が猫についてあれこれ語るコミック・エッセイ。

・「猫寺法蔵寺をたずねて」
 「三毛とおみよと和尚さん」の舞台となった法蔵寺に突撃取材をするコミック・エッセイ(でも、寺には誰もいなくて話を聞けなかったそ〜な。)
 この作品は法蔵寺に伝わる伝説を下敷きにしております。

・「初音笛」(1973年)
「山口美樹は学校をさぼり、筑前地方にある秋方寺へ一人旅をする。
 ここに来たのは偶然、ユース・ホステルのハンドブックで寺の名前と写真を見たことがきっかけであった。
 ひなびた山寺であったが、昔は大きな寺院で、ある昔話が伝えられていた。
 九百年前、高雄茅淳(たかおのちゆ)という仏師がここを訪れる。
 彼は藤原元親の娘、初音と相思相愛の仲となるが、初音は政治的な理由で藤原兼房のもとに嫁ぐ身であった。
 二人は駆け落ちを考えるが、茅淳は元親の手の者に捕らえられ、寺の岩牢に幽閉される。
 一方、初音は茅淳を救おうとするものの、藤原兼房の手下に追われ、遂には急流へと身を投げる。
 茅淳は初音の死を決して認めようとはせず、岩壁に仏像を彫り続け、中央の観音像を未完成のまま、亡くなる。
 そして、今も茅淳が岩をうがつ音が聞こえてくると言われていた。
 その話を聞いた後、美樹は寺の周辺を散歩する。
 すると、どこからか岩を打つ音が聞こえ、彼女は慌てて逃げようとすると、草むらの中の穴に落っこちる。
 落ちた場所は洞窟で、光のある方に向かうと、若い仏師が岩壁に仏像を彫っていた。
 彼は美樹を初音と呼ぶのだが…」

・「我が旅の記」
 長崎県、太宰府市、福島県原町市、犬吠埼、高千穂への旅行について述べたコミック・エッセイ。

 しみじみと素晴らしい。
 心温まる民話風の作品が四編と美しい幻想譚が一編、収録された短編集です。
 どの作品も作者の真心に溢れ、中でも「おさんの子守歌」と「初音笛」は良作だと思います。
 特に、「おさんの子守歌」は個人的ベストで、ラストのコマは何度見ても涙腺が緩みます。(注1)
 また、作品の合間に挟まれたコミック・エッセイも作者の経験や考えが率直に反映されていて、非常に面白いです。
 松本るい先生は旅好きで、ユース・ホステルを利用して貧乏旅行をしまくっていたらしく、時代を感じさせます。
 ところで、一緒にいる「礼子」さんはお友達ですか?

・注1
 この手の作品で個人的に最もヤバいと思うのは手塚治虫先生「雨ふり小僧」!!
 あのラストを思い出すだけで、涙腺が崩壊しそうになる…。

2025年12月16・18日 ページ作成・執筆

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