つじいもとこ「地獄門」(1997年3月3日第1刷発行)

 収録作品

・「地獄門」
「渡辺里奈と玲奈は双子の姉妹。
 しかし、姉の里奈は病弱なのに、妹の玲奈は健康体であった。
 また、玲奈は昔から奇妙な夢を見る。
 その夢の中には、大きな門が現れ、門番に門をくぐるよう勧められるのであった。
 ある日、二人は林間学校に参加する。
 バスに乗り込む前に、玲奈は、小さな餓鬼のようなものを目にするが、里奈が林間学校を楽しみにしていることを考えると、言い出せない。
 だが、向かう途中、その化物は運転手にとり憑き、バスはガードレールを突き破って、谷底に転落する。
 玲奈が目覚めると、自分は無傷で、里奈は意識を失っていた。
 バスの中には事故死した子供達の幽霊がいて、玲奈を見て、訝る。
 彼らは今まで玲奈がいたことに気づかなかったらしい。
 玲奈への興味を失い、子供達の霊は、割れたフロントガラスの向こうにある門に向かう。
 この門は彼女が夢で見た門で、生まれ変わるためには必ずくぐらねばならず、くぐると、天国か地獄に案内されるのであった。
 玲奈が門に近づくと、夢と同じく、門番がおり、早く償うよう勧める。
 実は、玲奈の前世は極悪人で、地獄行きは必定であった。
 里奈の命を救うため、玲奈は門をくぐる覚悟を決めるが…」

・「餓鬼御堂」
「テニス部の合宿。
 ランニングの途中、山田千也と中井里々絵は古びた観音堂から「苦しい…」という声を聞く。
 観音堂の中は、中央に観音様、その周りに守りの四天王(広目天・増長天・持国天・毘沙門天)があるが、四天王はボロボロであった。
 このことを顧問の大西先生に報告すると、お堂には入らないようにと厳重に注意される。
 しかし、大西先生はそこに出入りしているようであった。
 里々絵はそこで五年前、大西先生に失恋した女子生徒が自殺したことを突き止める。
 そして、彼女は友人達とお堂に入って見るのだが…。
 一方、千也の友人の卜部屋敷喜以子(うらべやしき・きいこ)は嫌な予感を感じ、死んだ祖母にお伺いを立てると…。
 お堂に潜むものとは…?」

・「首狩峠荘」
「佐久間由有美は見栄っ張りの屋代幸絵が大っ嫌い。
 幸絵が夏休みに軽井沢の別荘に行くと言うので、その化けの皮を剥がすために、由有美は招待されたと嘘をついて、別荘行きに同行する。
 その別荘は駅とバスを乗り継いで二時間、しかも、別荘への山道は夏草に覆われ、大難儀。
 ようやか別荘に着くものの、格安だけあって、寝室もバスルームも草が生えている有様。
 更には、この別荘がある地は「首狩峠」と呼ばれ、戦に負けた殿様が逃げる途中、首を討たれた場所で、梅雨の明けた夏の頃には、首をなくした殿様やその家来の霊が、殿様の首を捜して出ると言う。
 由有美は徐々に恐怖心を募らせるが、幸絵やその一家はそんなことを気にはしない。
 特に、幸絵は、怯える由有美から弱みを握るチャンスだと考える…」

・「銀河図書館」
「大雨で堤防が決壊し、橋田珠絵は家族と共に中学校に避難する。
 退屈なので、図書館に行こうとした時、渡り廊下のそばにある木に雷が落ちる。
 どうにか無事で、珠絵が図書室に入ると、まだ避難していないはずの大石まりながいた。
 大石まりなは大人しく成績優秀な少女で、びしょ濡れのまま、本を読む。
 珠絵は彼女にタオルを持って行くと、まりなは珠絵に先に使うよう勧める。
 気が付くと、珠絵もびしょ濡れであった。
 身体を拭いていると、どこからか汽車の汽笛の音が聞こえる。
 近づいてきているのは、「死者の国」に向かう機関車で、この図書館は「銀河図書館」という停車駅であった。
 まりなは、自分は濁流に呑まれて死んだことを明かし、珠絵も落雷で意識不明であると教える。
 彼女は珠絵を一緒に機関車に乗るよう誘うのだが…」

・「精霊祭」
「中学一年生の木ノ葉栗子は体育委員。
 初の体育祭に大張り切りで、会議では派手に花火を上げようと提案する。
 だが、生徒会長で姉の木ノ葉なつめに、50年来の伝統と、あっさり却下される。
 帰宅後、姉にその理由を聞くと、この学園には幽霊がたくさん出ると教えられる。
 幽霊達は太平洋戦争中の空襲で亡くなった生徒達で、爆撃のトラウマがあるため、花火の音を嫌うのであった。
 そして、迎える体育祭。
 栗子は至る所に幽霊の姿を視るのだが…」

・「七彩変化」
「吉永亜美は学校帰りに捨て猫を拾う。
 家に持ち帰っても、母親は許さず、仕方なくまた捨てに出る。
 適当なところを探しているうちに、彼女は「アジサイ屋敷」まで来てしまう。
 ここはアジサイがたくさん咲いているのでそう呼ばれていたが、最近、取り壊しが決定していた。
 ここなら小学校と中学校が近いので、誰かが拾うだろうと、亜美がここに子猫の箱を置くと、中から着物姿の美しい娘が現れる。
 その娘は、亜美が想像していた、亡くなった姉にそっくりであった。
 亜美が事情を説明すると、今からは雨が降るので、翌朝まで亜美が預かるよう頼む。
 しかし、家に連れ帰るわけにはいかず、結局、亜美はアジサイ屋敷の門前に子猫を置く。
 夜、雨が急に降り出し、亜美は子猫のことを思い、外に駆け出す。
 アジサイ屋敷に着くと、門から異形のものがたくさん現れる。
 亜美はそれらに襲われそうになるが…。  アジサイ屋敷の秘密とは…?」

・新谷かおる・解説「〈つじいもとこ〉とは? 漫画は〈目〉が命」

 1994〜95年に「ホラーパニック」(芳文社)で掲載された作品を集めたものです。
 グロや人間の恐ろしさを追求した作品もありますが、やはり、ハート・ウォーミングな作品の方が、作者の資質にあっているのか、優れているように思います。
 特に、「精霊祭」はユーモアと切なさのバランスの取れた絶品です。

2023年2月12・18日 ページ作成・執筆

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