野口千里「怪奇千里眼@」(1980年5月10日初版発行)
収録作品
・「姉妹」
「ミナは姉を憎んでいた。
姉は彼女を蔑み、手前勝手に振る舞っては、彼女を振り回す。
ある夜、両親が外出し、二人きりとなる。
姉のわがままに、ミナは殺意を覚えるが、何もできないまま、自室で亡き寝入り。
一方の姉は、入浴しようとした際、浴室で転び、気絶して、そのまま浴槽で煮られて死亡する。
ミナは当初は開放感を得るのだが…」
・「狙う目」
「マミはある朝、登校途中に犬の死体を漁る、二匹のカラスを目にする。
はずみで自転車のタイヤが小石をはねとばし、一匹の片目を潰し、もう一匹ははずみでトラックに轢かれてしまう。
以来、片目のカラスは、群れを率いて、マミをつけ狙うようになり…」
・「ストレス」(注1)
「サナエは、母親の言いつけで、学習塾に習い事に追われ、もういっぱいいっぱい。
父親の方も、家では母親から昇進について嫌味を言われ、会社では無能を責めたてられる。
そんな彼らのストレスが極限にまで達した時…」
・「伝染」
「吉原奈々子と沼田花枝は親友同士。
だが、奈々子には花枝には言えない秘密があった。
それは、花枝のニキビだらけの鼻が気になってしようがないということ。
花枝はちっとも気にしてなかったが、感情に変化があった時、鼻の毛穴から脂がにじみ出て、奈々子は怖気をふるう。
鼻のことが奈々子と花枝の仲に徐々に陰を落としていくが、ある時、奈々子の鼻にもブツブツができ始め…」
・「檻」
「妙子の家族の住むアパートは狭く、プライベートな空間は全くない。
これでは受験勉強に集中できないとの妙子の訴えで、父親は別のアパートを借りて、そこに祖母を一人暮らしさせる。
しかし、それから毎晩、祖母は公衆電話で、部屋に何かがいて、怖いと訴える。
父親はその度に祖母の部屋を訪ねるが、何もいやしない。
だが、今度は一週間も祖母から連絡が来なくなる。
妙子は、様子を見に、祖母のアパートへと向かうのだが…」
・「龍灯の海」
「六年ぶりに、真紀子(真紀かもしれない)は故郷の島へと帰ってくる。
そこでは四年に一度の海神祭を直前に控え、にぎわっていた。
港で早速、真紀子は幼なじみのマサオと再会する。
彼は島で漁師をしており、久々の再会に真紀子の胸はときめく。
しかし、彼は彼女との「秘密の場所」を覚えておらず、そのことが彼女の心にしこりとなって残る。
そのことがあった夜、彼は漁に出たまま、帰ってこなかった。
真紀子はもう一度、彼と会いたいと願い、溺死者の霊の思いを鎮めると言われる海神の玉を社(やしろ)から持ち出すのだが…」
・「犬の幼稚園」
「わかば幼稚園。
保母の香山は、元気いっぱい、かつ、わがままもいっぱいな園児達にてんてこ舞い。
一方で、さくら組の田口先生はピアノ一つで園児を大人しくさせていた。
ある日、休みを取った田口の代わりに、本城先生がさくら組を受け持つが、謎の転落死を遂げる。
香山は、ふとしたきっかけから、その死の理由を知ることとなるのだが…」
1990年代末に蒼馬社から出された、怪奇漫画雑誌「オール怪談」。
その雑誌で、頭角を現したのが、野口千里先生でありました。
どことなくとぼけた感じのある奇想を、独特な絵で丁寧に描写して、今読んでも、かなりの面白さです。
残念な事に単行本化には恵まれず、野口先生にとって最初の単行本である「怪奇千里眼@」はその後、続刊が出ることはありませんでした。
一応、コンビニ本で再録されたり、kindle版で読むことも可能ですが、やはり、まとまって紙の本で読みたいもの。
と思っていたら、2019年に、釘書房さんの傑作アンソロジー「孤独U BADEND」にて、「脂肪流し」が復刻されるという快挙がありました。
これを機会に、野口千里先生と過去の作品に脚光が当たり、先生が新たな活躍の場を得ることができるよう、心から願うばかりです。(注2)
・注1
「ストレス」に出てくる「上顎から上がなく、舌だけが露出している」キャラは、ルチオ・フルチの「サンゲリア」のラスト、教会でゾンビの群れに立ち向かうシーンで、頭を銃でふっ飛ばされるゾンビがもとだと考えております。(わかりにくい説明だなあ〜。)
でも、確証はありません。
・注2
個人的には、野口千里先生と青木智子先生は再評価されて、ちゃんとした作品集が出るべきだと思っております。
野口千里先生はいまだ活躍中ですが、青木智子先生の方は消息不明で、さっぱり情報がありません。
もしも、御本人の消息について心当たりの方がおりましたら、連絡いただけると望外の喜びであります。
多少の無理をしてでも、作品集を出してみたい!
2020年9月18日 ページ作成・執筆