手塚治虫「カノン」(1989年6月30日初版・1993年4月20日5版発行)
収録作品
・「カノン」
「加納は、東京の小学校で教頭をしている、くたびれた四十男。
彼は小学校のクラス会の通知をもらい、母校を訪れる。
彼の故郷は過疎化しており、母校は廃校となり、翌日、取り壊される予定であった。
彼を招待したのは、彼が世話になった元・校長先生で、今はここの用務員をしているという。
教室に入ると、小学校を卒業した級友達と担任の西田先生が彼を待っていた。
彼らは皆、当時のままの姿。
三十年前の卒業式、この小学校で起こった出来事とは…?」
・「ペーター・キュテルンの記録」
「デュッセルドルフの吸血鬼」として名高いペーター・キュテルンを描いた作品。
手塚治虫先生は鶴見俊輔の著作をもとにして描いたとのこと。
・「イエロー・ダスト」
「1972年8月23日。
浦添市から那覇市に向かうスクール・バスが三人の日本人青年(オオシロ、タイラ、ジャパナ)によって襲われる。
バスにはキャンプ・シールズ米軍子弟小学校の学童児、23人と女教師、それから、バスの運転手。
日本人青年達は、バスの乗員を人質に取り、那覇市小緑の旧沖縄作戦本部海軍壕に立てこもる。
彼らはベトナムに軍労務者として行ったことがあり、そこで殺しの味を覚えていた。
だが、好き放題に振舞う彼らの知らないところで、子供達に異変が…」
・「悪魔の開幕」
「アナザーワールドの日本。
そこでは、丹波が首相の座に就いてから、憲法は改正され、日本は軍拡の道をひた走っていた。
更に、国民の反対運動は全て弾圧され、三年前より戒厳令がしかれている。
そんな中、学生運動家だった岡重明が、場末の地下アジトに連れてこられる。
ここには、岡の敬愛する、思想家兼逃走家の「先生」が潜伏していた。
「先生」は彼に丹波首相の暗殺を依頼する。
時と場所は、一か月後、バレエが開催される都立劇場。
電気科のエキスパートである岡は、都立劇場のシャンデリアに細工をして、準備万端整えるのだが…」
・「ラインの館にて」
「若い日本人夫婦。
夫は商社の海外出張員で、出張ついでに、二人はライン川を下って、観光を楽しむ。
デュッセルドルフには夫の商社があり、夫は毎日、仕事に出かけ、彼女はホテルで過ごしたり、買い物をしたりと気ままな日々を送る。
ある日、妻は、夫が外国人女性と親しく付き合っているのを目撃する。
疑心暗鬼になり、毎日、夫の後をつけていると、彼の浮気が明らかとなり、遂には、彼は妻を捨てる。
妻は夢中になって彼を捜すが、その最中に轢き逃げにあい、重体となる。
遠い異国で独り身になった彼女を援助してくれたのが、ラトウッズ夫人という女性であった。
ラトウッズ夫人はライン川沿いの城に住んでおり、妻がライン下りをしていた時、会ったことがあった。
妻が夫人に何故、援助してくれたのか理由と尋ねると、夫人も過去に夫に捨てられた過去があり、だから、妻の気持ちがわかるという。
妻はライン夫人の城で過ごすうちに、夫への怒りや憎しみが煽られていくのだが…」
・「鉄の旋律」
「ダン・タクヤは、妹の亜理沙がイタリア系アメリカ人のエディと結婚したことで、アルバーニ家とつながりを持つ。
アルバーニ家はマフィアで、エディの父親はボスであった。
ある日、ダンは白昼のニューヨーク市中で、次期市長候補の男性が暗殺されるのを目の当たりにする。
彼はFBIに殺人犯について証言し、暗殺者は逮捕される。
だが、この暗殺事件には、アルバーニ家と兄弟分のマゼリーノ家が絡んでいた。
ダンは裏切り者として、アルバーニ家の連中に両腕を切断され、放置される。
復讐心に燃える彼は、傷が癒えた後、精巧な義手を求めてさすらうが、その途中、バーディという黒人と出会う。
彼はベトナム戦争で両足を吹き飛ばされていたが、彼は使う松葉杖を思う通りに動かすことができた。
バーディに案内され、ダンが訪れたのは、ユダヤ人科学者、マッキントッシュ教授の研究室。
マッキントッシュは、強制収容所の経験から、人間の超能力を確信し、それについて研究していた。
ダンは博士の研究に協力し、ハードな訓練の末、超能力を獲得。
更に、鉄で作られた精巧な義手を贈られる。
その頃、エディは、日本企業との合弁会社の社長の椅子に納まっていた。
ダンは日本に帰国し、エディへの復讐を開始する。
しかし、義手はダンの潜在意識に反応して、彼の知らない間に殺人を繰り返していく…」
傑作・力作揃いの単行本です。
泣ける名作「カノン」と、「『ゴッドファーザー』meets『ESP』」な力作中編「鉄の旋律」が目玉でしょうが、個人的には、返還後の沖縄を舞台にした「イエロー・ダスト」に心惹かれます。
ちょっとヤバい内容じゃないの、コレ…。
2023年1月10〜12日 ページ作成・執筆