日野日出志「魔鬼子」(1988年7月25日初版発行)
「地獄の悪魔の中でも最も醜い女、魔鬼子。
彼女が望むことは、醜さから解放されること。
そのためには、人間の魂を地獄に落とさねばならないのだった…。
・「第一話 死を招く少女」
清純派のスター、沢村マキ。
魔鬼子は人間の娘に姿を変え、彼女の付き人となる。
実際のマキは、清純派とは程遠く、柄は悪いし、喫煙もする、あばずれ女。
付き人に姿を変えた魔鬼子は彼女に悪夢や幻覚を見せ、スターの地位から転落させる。
絶望したマキは深夜、ビルから飛び降り自殺を図ろうとするが…。
・「第二話 解剖室」
城北女子医科大学の学生、山田みゆき。
彼女は外科志望であったが、解剖になじめない。
女子寮の管理人の娘に化けた魔鬼子は、みゆきに奇怪な幻覚を幾度と見させる。
この幻覚のために、みゆきは解剖実習で大失態をしてしまい、教授から大目玉を喰らう。
医者の夢を断たれたと思い込み、みゆきはメスで手首を切ろうとするのだが…。
・「第三話 モンスター工房」
【なほ】は、ニキビの気になる思春期の娘。
父親は、怪物の造形を行う「モンスター工房」の経営者であった。
なほは、工房の職員である大島にニキビのことをからかわれ、ひどく傷つく。
工房のお手伝いとして入り込んでいた魔鬼子はそこに目を付け、彼女のニキビをひどくしていく。
日を追うごとに、なほの顔は醜くただれていくが、人に見せることもできず、一人苦しむ。
二目と見られぬ顔となった彼女はカッターで首を切って、自らの命を絶とうとするのだが…。
・「第四話 白魔の通る道」
雪国。
次に、魔鬼子が目を付けたのは、ゆき子という娘であった。
彼女の家は、父親は出稼ぎに出かけて不在、母親は寒い間は腰痛で寝込んでおり、ゆき子がアルバイトをして生活を支えていた。
魔鬼子は彼女に悪夢を見させ、彼女をどんどん衰弱させる。
そして、ある夜、雪女の幻覚を見せ、彼女を死の世界に引きずり込もうとするが…。
・「最終話 終りなき旅路」
私立華園女子高等学校。
なおみは、進学か就職か悩む女子学生。
そんな彼女の心の迷いに付け込み、魔鬼子は彼女に様々なおぞましい幻覚を見させる。
幻覚の中、なおみはモンスターに追われ、崖っぷちに追い詰められる。
崖っぷちで、死神から、なおみは死の世界へと招かれるのだが…。」
日野日出志先生ほどのキャリアの持ち主になると、作品も多種多様であります。
芸術的な作品、ストロング・スタイルな作品、バッド・トリップを極めた作品、寓話的な作品、民話的な作品、ギャグを狙っ(て外し)た作品…と様々ですが、もちろん、「トホホ…」なものも存在します。
「魔鬼子」はそんな「トホホ…」な作品のうちに入ってしまうでしょう。
この魔鬼子さんがですね、「人間を地獄に落として、魔界一の美人になるぞ〜!!」と張り切ってはいるのですが、相手が死ぬ直前に「深い事情」が必ず明らかになり、同情しちゃって、毎回、相手を助けてしまっているのです。
んで、ラスト、自分の心を訝りながらも、醜い姿のまま、どこかへ立ち去るのです。(悲愴感は皆無です。)
まあ、問題は、一言でいうと、「リサーチ不足」ですかね。
地獄行き確定の「毒女」を見つければ、それほど苦労することはなく。美しくなれたはずです。
ですが、心優しい魔鬼子さんのこと、魔界の大王にあきれられながら、今もどこかで「美しくなりたい」と呟きながら、さまよっていることでしょう。
あと、相手の様子を窺うのに、いつも天井裏に忍び込んで、節穴から覗いているところもポイントが高いですね。
それと、毎回、「人間の魂が食べれる」と心待ちにしているのに、魔鬼子が改心してしまい、ビームで消されてしまう小鬼達も味わい深いです。
何だかんだ言いましたが、個人的には、かなり心の和む作品で、好きです。
巻末には、日野日出志先生のプロフィールや質問コーナーがあり、そちらの方が作品よりも面白いかもしれません。
カバーの前袖には、当時の日野先生のカラー写真がありまして、かなりカッコいいです。(「妖女ドーラ」を描いてます)
2017年11月18日 ページ作成・執筆